Journal’s Eye
「正義」が「希望」に――

2026年09月号

本業の合間のボランティア活動も苦にならないといい、むしろ「楽しくて仕方ない」と稲葉圭昭さん
(札幌市中央区の事務所)



「この世で唯一の正義は、お腹をすかせた子供たちに食べ物を与えることだ――。『アンパンマン』のやなせたかしさんがそう言っていたと聴き『その通りだな』と思ったんです」
 噛み締めるように語るのは、北海道警察の元警部・稲葉圭昭(よしあき)さん(72)。地元の札幌で「子ども食堂」を始めたのは、その「正義」を形にしていくためだった。
「それにひきかえ、自分が警察官だったころの『正義』は完全に間違っていた。今はそう実感します」


道警元警部が子ども食堂開設
まずは宅配「誰かがやらなきゃ」


 前世紀末から今世紀初頭にかけて違法な銃器捜査に巻き込まれ、その渦中に起こした覚醒剤事件で逮捕、実刑判決を受けた稲葉さん。服役後は札幌で飲食業や探偵業に就く傍ら、違法捜査の被害者が起こした裁判に証人として協力するなど、道警の負の歴史の証言者としての役割を負い続けている。2020年代に入ってからは依存症予防教育を担う専門資格を取得、道内で家族会を設立して依存症者や家族に力を貸してきた。
 子ども食堂の取り組みには、かねてから関心があったという。いわゆる「食堂」を運営した経験は持たないながら、「誰かがやらないと」という気持ちは募る一方だった。
「子供のころ、お金がなくて修学旅行に参加できない同級生のために空き瓶を集めて小銭を貯め、みんな一緒に旅行できたことを憶えています。今の社会はそのころとは違うけど、でも誰かがやらなきゃ」
 背中を押したのは、先のやなせさんの名言。本年1月、知人からその言葉を伝え聴き、深く共感した。
「子ども食堂やりたいって聴いた時、すぐ『やなせさんの正義じゃないか』と思ったんです」
 声の主は、札幌の飲食業・竹島悟史さん(57)。妻の紀子さん(58)と2人、山鼻地区でサンドイッチ店『ハサミヤ』を切り盛りし、本年で14年めを迎える。常連客の1人だった寡黙な男性が「あの稲葉さん」だと知って以来、その人柄に惚れ込み「何か手伝えることがあったら」と申し出てきた。子ども食堂への協力も、断る理由はなかった。

毎日未明、午前1時に起きて卵焼きを作るのが元刑事の日課――手作りのサンドイッチは地域の惣菜店の看板メニューとなっている(札幌市西区の共栄市場『千徳』)

7月下旬のある日のメニューは、スパゲティナポリタン――「栄養面も考えて野菜を多めにしています」と稲葉さん

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初回から「食堂」に協力している竹島悟史さん・紀子さん夫妻は「私たちに限らず『稲葉さんの取り組みなら手伝いたい』という人はたくさんいると思う」(札幌市中央区の『ハサミヤ』)

稲葉さんは厚生労働省関連の公的資格「依存症予防教育アドバイザー」北海道内第1号取得者という顔も持つ(2023年5月、恵庭市で開かれた「北海道依存症者を抱える家族の会」設立総会

毎日未明、午前1時に起きて卵焼きを作るのが元刑事の日課――手作りのサンドイッチは地域の惣菜店の看板メニューとなっている(札幌市西区の共栄市場『千徳』)

初回から「食堂」に協力している竹島悟史さん・紀子さん夫妻は「私たちに限らず『稲葉さんの取り組みなら手伝いたい』という人はたくさんいると思う」(札幌市中央区の『ハサミヤ』)

7月下旬のある日のメニューは、スパゲティナポリタン――「栄養面も考えて野菜を多めにしています」と稲葉さん

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