前立腺がん早期発見について坂泌尿器科の笹尾副院長に訊く
がんを確実に見つけ治療に導くMRIフュージョン生検

2026年09月号

「包容力のある坂理事長の下で力を発揮させてもらっている」と話す笹尾副院長

(ささお・たくみ)1968年日高管内静内町(現・新ひだか町)出身。1994年札幌医科大学卒業。同年同大泌尿器科入局。砂川市立病院など道内の医療機関で研鑽を積み、2008年に坂泌尿器科病院に着任。現在診療支援部長、副院長。日本泌尿器科学会専門医・指導医、麻酔科標榜医、日本医師会認定産業医

Medical Report

近年、前立腺がんは男性の罹患率でトップのがんとなり、高齢化の進展もあって9人に1人が発症する時代を迎えている。そうした中、社会医療法人北腎会が運営する坂泌尿器科病院(坂丈敏理事長・院長/札幌市西区・59床)が前立腺がんの早期発見と治療に取り組み、注目すべき効果をあげている。特に力を入れているのが、事前に撮影したMRI画像とリアルタイムのエコー画像を重ね合わせながら正確な穿刺を行なうMRIフュージョン生検(MRI融合標的前立腺生検)。同院の副院長で診療支援部長の笹尾拓己医師(58)に、早期発見の決め手となるMRIフュージョン生検と最新の前立腺がん治療について訊いた。
(7月27日取材 工藤年泰・武智敦子)

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前立腺がん早期発見について坂泌尿器科の笹尾副院長に訊く

男性が心がけたいPSA検査


 前立腺は、膀胱のすぐ下で尿道をドーナツ状に取り囲んでいる男性にだけある臓器。果物のミカンのような構造で、尿道の周りの内腺(移行領域:ミカンの実に当たる部分)と内線を取り囲む外腺(辺縁領域:ミカンの皮にあたる部分)から成る。この前立腺では精液の一部となる前立腺液をつくっている。前立腺液には、PSAというたんぱく質分解酵素(前立腺特異抗原)が含まれているため精液が固まらずに精子が運動することができる。PSAは健康な状態であっても、ごく微量が血液中に流れ込むが、前立腺にがんができるとPSA値が高くなる。
 一方、加齢により前立腺が大きくなると排尿障害が出る前立腺肥大症になる。尿道を取り囲む構造上、大きくなると排尿が上手くいかなくなるからだ。排尿障害には、尿をうまく溜められない「蓄尿障害」と溜まった尿をうまく出せない「排出障害」があり、尿が出にくい、排尿後もすっきりしない、夜間にトイレの立つ回数が多い、尿もれなどの症状がある。
 坂泌尿器科病院の笹尾拓己医師は「蓄尿障害は、前立腺肥大により膀胱が刺激され過敏になるため尿が溜めにくくなる過活動膀胱が50~75%ほど合併するために起こります。もうひとつの排出障害は尿道の閉塞に伴い尿を出しづらくなるため起こりますが、いずれも手術や薬で改善が期待されます」と説明する。
 前立腺肥大症と前立腺がんは全く別の病気で、前立腺肥大症から前立腺がんになることはない。発生部位も異なり、前立腺肥大症は前立腺の内腺に、前立腺がんは前立腺被膜に接する外腺に出来る。前立腺がんは50歳以上の男性に多くみられ、原因は遺伝的な要因のほか男性ホルモンも関係しているとされる。
 前立腺がんは初期には自覚症状はほとんどない。だが進行すると尿が出にくいといった排尿障害が現れ、血尿が出る場合もある。リンパ節や腰椎、骨盤など前立腺周辺の骨に転移しやすく、自覚症状が出た時はある程度、病気が進行していることが考えられるので、早期発見のため「PSA検査」が推奨されている。このPSAは前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられており、がんにより前立腺組織がダメージを受けると、PSAが血液中に漏れて数値が増加するため、前立腺がんが疑われることになる。
「親や兄弟で前立腺がんの人がいる場合は40代でもPSA検査を受けることをお勧めします。背中が痛くて整形外科を受診したのがきっかけで骨転移による症状から前立腺がんが見つかりステージ4と診断されたケースもあります。この患者さんのように、症状が出た時にはがんが進行していることも考えられるので、早めに検査を受けることが大事です」(笹尾医師、以下同)

MRIとエコーの画像を融合させ前立腺がんが疑われる部位を立体的な映像にする

前立腺がんの治療で高い効果を発揮する「ハルシオン」

MRI融合標的前立腺生検システム「トリニティ」

MRIとエコーの画像を融合させ前立腺がんが疑われる部位を立体的な映像にする

前立腺がんの治療で高い効果を発揮する「ハルシオン」

治療効果が高い「ハルシオン」


 標準治療は「手術」「放射線治療」「ホルモン療法」「監視療法」(無治療経過観察)の4つがある。この中で放射線治療で高い実績を上げてきた同院では、2023年に道内の医療機関では初となる最新の放射線治療機器「ハルシオン」を導入。ハルシオンは、複雑な形状の病変に合わせてコンピューター制御で放射線を照射できる「強度変調放射線治療」(IMRT)、IMRTをさらに効率化した「強度変調回転照射法」(VMAT)と「画像誘導放射線治療」(IGRT)に特化した治療装置で、腫瘍の形状に合わせ複雑な照射を可能にし、正常組織への影響を最小限に抑えながら腫瘍の局所治療ができるのが特徴だ。
「導入して3年ですが、ハルシオンで早期の前立腺がんの治療を行なった患者さんの中で、がんで亡くなった人はまだいません。ハルシオンは前立腺に対して限局的に放射線を照射できるので、直腸や膀胱など周囲への影響を防ぐことができます。このため直腸出血や膀胱出血も少なく、当院では80歳以上の高齢者も治療を受けています。ハルシオンは外来でも対応できるので、仕事をしながら治療をすることも可能です」
 治療が可能なのは前立腺の周辺にがん細胞が浸潤しているステージ3まで。転移があるステージ4については、転移量が少ない場合はホルモン療法を併用し原発巣に対する治療が効果があるという報告があるため、ある程度は可能だという。また転移があっても血尿がある場合などについては「血尿を止める」という局所的な治療のためにハルシオンを使うケースもある。同院ではこの放射線治療を年間200症例ほど行なっており、前述のように限局性の前立腺がんで死亡した人はゼロだという。
 前立腺がんの治療では、アンドロゲン(テストステロンなど男性ホルモンの総称)の働きを抑える薬剤を投与することでがん細胞の増殖を食い止めるホルモン療法の他に抗がん剤による治療もある。近年の外科手術は手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使い、前立腺を摘除するのが一般的になっている。

確実にがんを見つける生検


 坂泌尿器科病院が今、積極的に取り組んでいるのがMRIフュージョン生検(MRI融合標的前立腺生検)だ。前立腺生検はPSA検査で前立腺がんが疑われる場合、前立腺の一部を採取し顕微鏡の検査でがん細胞を確認する。従来の針生検では、超音波画像(エコー画像)を見ながら前立腺全体を万遍なく10~14カ所穿刺する「超音波ガイド下生検」が行なわれていたが、近年はМRI画像(磁気共鳴画像)技術の進歩で前立腺がんの局所診断ができるようになった。とはいえ医師はMRI検査で分かった病変の場所を思い浮かべてエコー画像を見ながら針生検を行なうことになり、早期で病変が小さい場合などはエコー画像では確認できないという弱点もあった。
 そこで同院が3年前に導入したのが、事前に撮影したMRI画像をエコー画像と重ね合わせて(融合させて)生検ができるМRIフュージョン生検だ。
「生検を行なう際、当院の最新のMRIで事前に撮影した画像とリアルタイムのエコー画像を組み合わせることで、前立腺がんが疑われる病変部位を間違いなく生検することができるようになりました」
 道内でフュージョン生検を手掛けているのは、同院をはじめ大学病院など数カ所に限られる。同院では年間約500例のフュージョン生検を行ない約250例以上の前立腺がんを発見。そのうち約200人がハルシオンによる放射線治療を受けているという。
「札幌市内には陽子線による放射線治療を行なっている医療機関もありますが、前立腺がんに対しては当院のX線治療装置のハルシオンも同等の治療効果が得られていると判断しています」
 ハルシオンは泌尿器科領域だけでなく、脳、頭頚部、乳房、肺などのがんに対しても治療が可能で、骨転移による痛みや膀胱癌の出血を抑える緩和療法にも有効とされている。
 前立腺がんはステージ1や2の早期であれば、死亡することはほとんどなく、5年生存率、10年生存率は98%以上と高い。だがステージ4になると転移の問題もあり5年生存率は約60%に下がる。
「ステージ2までであれば前立腺がんは治る病気です。そのためにも50歳を過ぎたらPSA検査を受けることが大切で、前立腺肥大症などでもPSAの数値は上がることがあります。数値の高い人には精度の高いphiなどの血液検査も行なうことがありますが、まずはPSA検査を受けてください。そして前立腺がんの疑いがある時はМRIフュージョン生検で確定診断するのがベストです」

次代を担う泌尿器科専門病院


  坂泌尿器科病院は泌尿器領域の専門病院として1987年に札幌市北区に開院し、前立腺肥大症や前立腺がん、尿路結石などに対し低侵襲で治療効果の高い医療を提供してきた。2006年には定位放射線でがん治療を行なう「脳神経・放射線クリニック」を病院の隣接地に開院した。
 北腎会グループでは大都市偏在の医療格差解消にも挑み、千歳市や北広島市といった専門医の少ない地域にサテライト機能を持たせたクリニックをオープン。また泌尿器科の専門医がいない、新ひだか町や追分町(現・安平町)、夕張市に医師を派遣する診療支援にも取り組んでいる。
 近年のエポックメイキングが、さらなるグレードアップを狙い2020年9月に北区から西区八軒に病院を新築移転したことだ。これにより北区の旧病院は「坂泌尿器科クリニック」に。また23年11月には新病院に隣接する「放射線治療センター」を開設し先述のハルシオンを導入するなど、次代を担う泌尿器科専門病院として体制を整えた。
 理事長・院長の坂丈敏医師は、勤務医時代に体外から衝撃波を与えることで結石を粉砕する「体外衝撃波結石粉砕術」(ESWL)をアジア圏で初めて導入したスペシャリストとして知られ、近年は泌尿器科病院として全国の治療をリードするため若手の育成にも取り組んでいる。
 笹尾医師は日高管内の静内町(現・新ひだか町)出身。市立札幌旭丘高校3年の頃に「やりがいのある仕事」として医師を志し、札幌医科大学に進んだ。泌尿器の専門医になったのは、「最初の診断・治療からその後のフォローに至るまで一貫して患者さんを診ることができるから」。
 卒業後の1994年に同医大の泌尿器科に入局。翌年から砂川市立病院泌尿器科など道内の病院に赴任し研鑽を積んだ。坂泌尿器科病院に着任して今年で18年。現在は診療支援部長を務め、昨年副院長に就任。坂理事長・院長を支える現場の幹部として大きな役割を果たしている。


 石田医師は東京都出身。北海道大学理学部を卒業後は民間企業に就職したが、「北海道に住みたい」という思いが募り、医者を志した経歴の持ち主。札幌医大卒業後は2年間の研修を経て同医大精神科の医局で1年間勤務。その後、20年以上前に「もの忘れ外来」を開設し現在、認知症疾患医療センターが設置されている砂川市立病院で4年間勤務した。
「砂川市立病院では認知症治療で有名な内海久美子医師に師事し、この病気の基礎や治療、適切なかかわり方を学び、それらを踏まえてアドバイスすることでご家族に喜ばれました。そこに魅力を感じ、患者さんの生活や人生に触れることができる認知症治専門医の道を進みました。
 ただ認知症という病気は医療だけではカバーできず、介護の力がどうしても必要です。社会全体として認知症への関心を高めて待遇改善などで介護士の成り手不足を解消し、たとえ認知症になっても暮らしやすい国であるようにしたい」
 日本医療大学病院では、暴言・暴力、徘徊、幻覚妄想などの問題行動が出てしまった患者に薬を処方したり、家族にケアの方法を助言することで介護の負担が大きく減り、「楽しい親子関係が築けるようになった」と感謝されることもあった。
「それが今の私のモチベーションにつながっています」と石田医師は笑顔を見せた。


社会医療法人 北腎会
坂泌尿器科病院

札幌市西区八軒2条西4丁目1‐1
☎011‐688‐7400
HP:https://saka-uro.or.jp//

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