道警・問われる強制捜査の要件③
「突入後に考えようと…」

2026年01月号

任意同行の呼びかけから強行突入まで 4時間ほどの猶予があったにもかかわらず、当時の捜査員らはその間に逮捕状を請求しようとしなかった
(2023年3月29日夜、札幌市中央区)=近隣住民撮影の動画から

不当逮捕被害・国賠訴訟が結審
「緊急逮捕」の実態、警官が証言


裁判所に違法と認められた不当捜査をめぐり、同捜査の被害者が起こした国家賠償請求裁判が審理を終えた。当時の捜査員らは被害が否定された傷害事件の捜査を強行、武装して被害者の自宅に踏み込み同居人を「緊急逮捕」していた。だが部屋の主は突入行為に同意しておらず、警察自身も強制捜査の令状を裁判所に請求していなかった。不本意かつ不条理な被害を蒙った当事者は、改めて訴える。「これを許すと、また同じ被害が再発してしまう」――。

取材・文 小笠原 淳
1968年小樽市生まれ。地方紙記者を経て2005年からフリー。「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に『見えない不祥事』(リーダーズノート出版)。57歳

令状なき突入・緊急逮捕


 12月5日午後。札幌地方裁判所の法廷(守山修生裁判長、太田雅之陪席判事、小町勇祈陪席判事)では、2年半前に起きた出来事が再現されていた。
 ――同居人がDVの事実を認めた時点で緊急逮捕する方針だったと。
「はい」
 ――もし認めなかったら。
「…その時点でどうするかを考えます」
 ――とりあえず突入してみて、認めなかったらその時は考えようと。
「…認めなくても、暴力があったと」
 ――「認めた時点で逮捕」ということだったのでは。
「…上司に報告して、組織的に考えます」

 質問者は、不当逮捕の被害を訴える原告の代理人。答えを返しているのは当時の捜査に加わった男性警察官の1人だ。
 地元警察の捜査員らはその夜、存在しない暴行事件の“被害者”の自宅に強行突入し、同居人の男性を逮捕した。右に引いた問答を文字通り受け止めるなら、武装警官らが現場に突入した時点では逮捕の方針は固まっていなかったことになる。ならば、逮捕の前段階で突入を強行した根拠は何なのか。警察は当時、逮捕に必要な令状を裁判所に請求しておらず、部屋の主からも侵入行為に承諾を得ていなかったのだ。
 別の代理人とのやりとりは、こう展開することとなる。
 ――突入は、緊急逮捕の一環として行なったものではないと。
「…緊急逮捕と思っていました」
 ――突入時点では(容疑が)確定していないわけだが。
「……」
 ――窓ガラスを破って突入した行為は、強制処分か任意処分か。
「…そこまで深く考えてませんでした。…承諾を得たから行なったと」
 ――任意処分だったと聴こえるが。
「…任意処分です」
 ――根拠は「承諾」と。
「…はい」
 ――同居人(加害者とされた男性)は同意していない。その認識は。
「…同意しているかどうかはわかりませんでした」

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