カレス記念病院で進化する内視鏡治療を消化器内科部長・田沼徳真医師に訊く
この春から専門医4名体制でがんを「早期発見、徹底治療」

内視鏡治療の可能性を広げたいと意欲を見せる田沼医師
(たぬま・とくま)1977年岩手県盛岡市出身。2001年札幌医科大学卒業。市立室蘭病院、市立芦別病院、恵佑会札幌病院、佐久総合病院、手稲渓仁会病院消化器病センター部長、内視鏡検査室長、札幌中央病院消化器内科副院長・内視鏡センター長を経て24年1月時計台記念病院消化器内科部長、25年4月からカレス記念病院次席副院長、消化器内科部長。医学博士、日本内科学会総合内科専門医。48歳
Medical Report
社会医療法人社団カレスサッポロ(大城辰美理事長)が運営する「カレス記念病院」(320床・浅香正博院長)がJR札幌駅近くに開院して間もなく1年。新時代に相応しい全室個室の急性期病院でひときわ存在感を放つのが、AIを備えた最新の内視鏡で早期のがん発見と治療に取り組む「消化器内科」だ。新病院では内視鏡室が従来(時計台記念病院)の2室から4室に増え、この春からは消化器内科の専門医2人も新たに着任しマンパワーも充実する。同院の次席副院長で消化器内科部長の田沼徳真医師に、内視鏡治療の可能性や専門分野である食道がんの治療などについて訊いた。
(1月26日取材 工藤年泰・武智敦子)

上部消化管の内視鏡治療に臨む田沼医師
4つの内視鏡室を整備しマンパワーがさらに充実
カレス記念病院は社会医療法人社団カレスサッポロが運営していた時計台記念病院(中央区)と北光記念病院(東区)を統合移転し、JR札幌駅の北東側で25年4月に開院。320床の全てが差額ベッド代のかからない個室、感染症に対応した設備などを備えた急性期病院としての実力を発揮している。
そんなカレス記念病院の消化器内科は消化管がんの早期発見と早期治療を目標に掲げ、AIを備えた最新の内視鏡検査と治療に力を入れている。例えば大腸の検査であれば内視鏡で小さなポリープを見つけた場合はその場で切除する。大腸ポリープはほとんどが良性だが、将来がんになる恐れがあるからだ。現在はAIが切除の必要性をある程度判断することができるが、食道、胃、十二指腸、大腸の早期がんについては、電気メスを用いた高度な治療(内視鏡的粘膜下層剥離術)が必要なため、発見してもその場での切除はせず後日入院した上で内視鏡治療を行なう。
時計台記念病院で2室だった内視鏡室がカレス記念病院では4室に拡張され、4室のひとつは国内最大級の広さ(9メートル X 6メートル)を誇る。笑気ガス(笑気麻酔)や消化管を膨らませる炭酸ガスも配管で供給されており、将来的には麻酔科医と一緒に内視鏡手術に臨むことができるという。
「外科の手術室に近い仕様になっており、内視鏡による治療手技のライブ映像を3階のカレスホールに中継することが可能で、学会などで活用できます」と田沼医師は期待する。
現在、消化器内科医は田沼医師を含め2人だが、この春から2人増員し4人体制になる。両医師とも10年ほど前に田沼医師が手稲渓仁会病院に勤務していた頃の同僚で「信頼できる仲間」と期待を寄せる。マンパワーの充実に伴い、4つの内視鏡室のフル稼働が視野に入ることになる。
消化器内科専門医としての四半世紀余りのキャリアを持つ田沼医師は札幌医科大学を卒業後、恵佑会札幌病院、佐久総合病院、手稲渓仁会病院、札幌中央病院を経て24年1月に時計台記念病院の消化器内科部長に着任。カレス記念病院でも消化器内科部長として内視鏡治療に当たっている。専門領域は内視鏡による消化管全般の総合診断・治療で、今回解説をお願いしたのは得意分野でもある食道がんについてだ。

AIが食道がんの発見をサポート

内視鏡室を4部屋備えているカレス記念病院
上部消化管の内視鏡治療に臨む田沼医師
AIが食道がんの発見をサポート
内視鏡室を4部屋備えているカレス記念病院
がん病変部を見逃さない「AI」と専門医の経験値
食道がんは高齢の男性、飲酒歴、喫煙歴の3つが危険因子と言われている。女性でも食道がんになる人はいるが、圧倒的に男性が多い。比較的早い段階で転移を起こし、進行すると手術や抗がん剤、放射線治療が治療の選択肢となるが、身体への負担が大きく予後は悪い。これを防ぐためにも3つの危険因子がある人は早期発見・早期治療をすることが必要だ。初期のうちに治療すれば臓器を温存し、今までと変わりなく暮らすことができる。
先述のように近年の内視鏡装置はAIによる画像解析をはじめ高解像度カメラが導入され、モニター画面も高精細になっている。これを用いた検査では大腸にできた良性のポリープは、いぼ状になっているので見つけやすいが、早期の食道がんはわずかに赤みを帯びているのみで最新の装置でも炎症か、がんかを見分けることは容易ではない。
その理由について田沼医師は、「食道がんの発見をサポートするAIもありますが、炎症との鑑別が難しいため大腸ポリープより発見が難しい。医師はAIが反応したものが、本当にがんか否かを見分ける力が必要です。AIはあくまでサポートツールであり、うまく使いこなせるかどうかは使用者次第です」と説明する。
「医師は患者さんの飲酒歴などリスクファクターをしっかり調べてから、最新の内視鏡機器を使い病変を早期発見することが必要です。胃カメラ検査でも食道を診ますが、食道上部の下咽頭は耳鼻科の領域にもまたがるので見過ごされることもある。早期発見のためには経験と知識のある専門医に頼るのが一番です」(田沼医師、以下同)
内視鏡を口から入れて検査すると嘔吐反射が出る。咽頭や舌根部への異物刺激による防御反応だが、これを緩和するため近年は鼻から細い内視鏡を挿入する経鼻内視鏡検査もあり、あるいは鎮静剤を投与して行なう方法もある。
「経鼻内視鏡でも多少の嘔吐反射が出ることがあるので、医師は患者さんの身体的負担が最小限で済むよう診ていく必要があります。当院では日本の光学機器メーカー2社の内視鏡機器を導入していますが、それぞれ得意な面、不得意な面があります。医師はそういう内視鏡機器の特性を理解した上で使いこなさねばなりません。病変が写っていても、気づかなければ食道がんの早期発見はできないので、そこは医師の仕事であり責任です」
早期に発見し、早期治療で消化器がんの根治を目指す
実際の治療は、ステージ0~Iまでは内視鏡でがんを切除する。それ以降の進行がんについては、外科的手術か抗がん剤、放射線治療が選択肢となる。ただ先述の通り、こうした治療は患者、それも高齢患者への体の負担が大きい。外科手術は、食道を切除し胃管を頸部に吊り上げて食道を再建するのが一般的。ただ食道は消化管の中で唯一胸の中にある臓器のため、手術の際は心臓や肺がひしめく胸部にメスを入れる必要がある。このため患者への負担が大きく合併症を起こすリスクがある。
「治療関連死という言葉があるように、高齢者にとっては治療したせいで体力が落ち、合併症や後遺症で命を落とすケースも少なくありません」
内視鏡で食道がんを切除してもリンパ節へ移転する可能性が2~3割程度残ることがある。ガイドライン上では手術などの追加治療を勧めるべきではあるが、高齢者などでは体力的に追加治療が難しいこともあり、転移の可能性を理解してもらった上で経過観察をする場合もある。
「食道は食べ物の通り道なので、そこにできた病変部だけを切除すれば、普段の生活には支障がありません。標準的な治療ガイドラインでは手術や抗がん剤、放射線治療で根治を目指しますが、高齢者や心臓疾患などを抱える人にとっては手術自体が危険です。高齢化社会だからこそ、患者一人ひとりの体力、合併症などを考慮し、個々に見合った治療戦略を練っていく必要があります。身体の負担が少ない内視鏡治療の幅はもっと広がると思います」
食道がんはほとんど自覚症状がないとされるが、中には胸やけや胃液の逆流感から逆流性食道炎を疑ったり、食べ物が飲み込めなくなる自覚症状を覚える人もいる。このようなケースについては、「逆流性胃腸炎のような症状で内視鏡検査をしたら早期の食道がんが見つかった患者さんもいます。一方、食べ物が飲み込めなくなった場合は内視鏡で切除できる大きさを超えています。しかし、通常はほとんど症状がないので、飲酒歴、喫煙歴のある人、さらには毎日のように熱い飲食物を摂取する人も食道に刺激が加わるので食道がんのリスクがあります。こうした人は症状がなくても是非内視鏡検査をしてください」とのこと。
胃がん領域では全国的に見ても外科手術より内視鏡治療の件数が多いとされている。内視鏡治療ができる範囲も広がっており、先述のようにがんが進行している場合は局所だけを切除し経過観察をするという選択肢もある。
「内視鏡治療はこの20年でかなり外科的な手術に近づいています。基本的に当院では麻酔が必要な治療は手術室で行なっていますが、近い将来に内視鏡室に麻酔科の医師が来てもらい手術に近い手技を行なうことも可能です。私たち消化器内科が内視鏡で行なう手技は粘膜切除ですが、胃を内側から壁ごと切除する全層切開という手術に近い手技も出始めています。ここで国内最大級の内視鏡室を備えたのはそれを見越してのことです」
こうした全層切開の技術はまだ臨床試験の段階だが、近い将来は内視鏡室で手術に近い治療が行なわれるのも夢ではない。
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