
労働委の審問に出頭を求められたネムロニュース関係者3人が着く筈の椅子(左奥)は、ついに1つも埋まることがなかった(9月25日午前、北海道別館庁舎 10 階の北海道労働委員会会議室)
廃刊のネムロニュースで不当労働
経営者らは労働委審問に出頭せず
地域に根付いた地方新聞の後継紙が創刊3年足らずで廃刊したのは、本年1月のこと。発足当初から指摘されていた労働問題は裁判に発展し、廃刊と前後して経営側に損害賠償を命じる判決が確定した。その命令が未だ履行されない中、今秋には元記者らが申し立てた不当労働行為事件の審問(関係者への質疑応答)が設けられたが、経営側は出頭を拒否。清算されない負の遺産がどれほどのものになるのかは、今なお定かでない。
取材・文=小笠原 淳
「労働委員会に対して失礼です」
証人席に着くその人は、かつての雇用主の姿勢を語気強く批判した。
「被申立人はことごとく『自分たちは正しい』と言ってきたのに、正々堂々と証言しようとせず、隠れている。読者、地域の皆さん、そして同業他社に対しても常識に反することをし、謝りもしない。失礼極まりないと思います」
畳みかけるように訴える声の主は、本年1月に廃刊した地域紙ネムロニュースの記者だった男性(60歳代)。時間外手当の未払いや過重労働などに疑問を覚えて在職中の2022年6月に労働組合を結成し、執行委員長に就いた。当時の被害などを公の場で改めて証言することになったのは、労組発足から3年あまりが過ぎた本年9月下旬。当事者として北海道労働委員会に申し立てた不当労働行為事件の審査の一環で、証人として審問に臨むこととなった。
審問とは、一般的な裁判の証人尋問と趣旨を同じくする手続き。労働者側(申立人)と経営側(被申立人)とが労働委員を前に事件関係の質疑に応じるもので、やはり裁判の主尋問や反対尋問、補充尋問のような形で問答が進められる。やり取りの様子は公開され、第三者の傍聴が認められている点も裁判と同じだ。
9月のネムロニュース事件の審問は、労組側から2人、会社側から3人、計5人が出頭してほぼ終日のスケジュールで進む予定だった。ところが当日は午後の開催予定が白紙となり、正午過ぎにはすべての質疑が終了することに。被申立人として呼び出されていたネムロニュース関係者3人が一斉に出頭を拒否したため、労組関係者の審問のみで取り調べを終えざるを得なくなった形だ。本稿冒頭に採録した「失礼極まりない」との発言は、この“ドタキャン”を批判する一言だった。