自衛隊vs自衛官
組織は変われるか

2025年11月号

陸上自衛隊内部のハラスメントなどで長男を喪った川島五月さん(中央)は「うちの事件は氷山の一角」と証言する
(9月26日午前、札幌地方裁判所前)

自殺、パワハラ、健康被害
現職自衛官らの裁判が佳境


北海道内の自衛官やその親族らが職場を訴えた複数の裁判が札幌の法廷で続いている。9月下旬には退職を阻止されて自ら命を絶った若手職員の遺族の訴訟が結審、前後してハラスメント告発で不利益を蒙った現職自衛官の事件の審理があり、10月初旬には騒音業務で難聴を発症した隊員が直近の弁論に臨んだ。問われているのは、国を守る職場の安全・安心。声を上げ続ける当事者たちの闘いは、組織の体質を変えることができるのか――。

取材・文 小笠原 淳
1968年小樽市生まれ。地方紙記者を経て2005年からフリー。「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に『見えない不祥事』(リーダーズノート出版)。56歳

安全配慮義務違反「明白」


「部隊は彼の特性や病状を理解することなく、隊員一般に要求する規律や業務水準、訓練、“しつけ”指導、さらにはあってはならない暴力・嫌がらせなどがされたため、症状は悪化していきました」
 佐藤博文弁護士(札幌弁護士会)の意見陳述が法廷に響いたのは、9月26日午前のこと。この日、5年あまりにわたって続いた国家賠償請求裁判が札幌地方裁判所(守山修生裁判長、渡貫昭太陪席判事、小町勇祈陪席判事)で18回めの口頭弁論を迎え、審理を終えた。原告代理人の佐藤弁護士が最後に訴えたのは、若くして世を去った自衛官に対する職場の理不尽なハラスメントの実態。傍らでは、故人の母親が陳述に耳を傾けていた。
「結果的に、現実逃避や自己否定的な思考に陥り、逃げ道を失い、生活隊舎での自死を選びました」
 その人――川島拓巳・陸士長(当時19)が自ら命を絶ったのは、10年以上溯る2012年10月。先輩からのパワーハラスメントなどで退職の意向を固めたにもかかわらず、上官に繰り返し慰留され続けた結果、自殺に追い込まれることになった(本年8月号既報)。佐藤弁護士ら原告代理人によれば、当時の勤務地・陸上自衛隊白老駐屯地では拓巳さんに対して「クズ」「ザコ」などの日常的な暴言、客観的に見て「度が過ぎる」と評される指導、騒音などによる睡眠妨害、椅子を蹴ったり顔面を平手打ちするなどの暴力――、などのハラスメント行為があった。拓巳さんは早くから退職の意向を固め、母親の五月さん(59)さんもたびたび白老を訪ねて息子を連れ戻そうとしたが、上官らは「100万円の貯金をつくり車の運転免許を取ってからでも遅くない」と、根拠不明の条件を持ち出して退職を阻止し続けたという。これらの問題を改めて指摘した9月の陳述は、左のように締め括られることとなった。
「このような中で、亡き拓巳自ら『自殺』を口にすることもありました。それなのに、なぜ部隊は止めることができなかったのか。部隊の安全配慮義務違反は明白であると考えます」

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(9月10日午後、札幌市内)

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