自衛隊・退職阻止の果てに
「国は非を認めて」

2025年08月号

「自衛隊に入ってからあの子は笑わなくなった」――遺された母親は長男の遺影に、就職後の写真ではなく高校時代の1枚を選んだ(6月下旬、札幌市内)

19歳自衛官自殺、母の慟哭
6年越し裁判が今秋結審へ


部隊内でハラスメントを受けていたという未成年の自衛官が退職の意向を受け入れて貰えず、退路を失って自ら命を絶った。自衛隊は自殺の理由を「実家への仕送りの辛さによる」と主張。失意の遺族は2020年に問題を法廷へ持ち込んだ。5年が過ぎた本年6月、裁判はようやく原告らの尋問に到り、この秋にも審理を終える見通しだ。長い闘いを強いられた遺族は、改めて訴える。「国はもう噓をつかず、非を認めて欲しい」――。

取材・文 小笠原 淳
1968年小樽市生まれ。地方紙記者を経て2005年からフリー。「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に『見えない不祥事』(リーダーズノート出版)。56歳

「今すぐ帰らせて」叶わず
5カ月後、駐屯地の寮で


 6月6日午後、札幌地方裁判所。長く続いた裁判がその日、審理の佳境といえる原告本人尋問を迎えていた。
 ――母親として心配になり、あなたはどうしたんですか。
「このまま自衛隊に置いておいたほうがいいのか、辞めさせたほうがいいのか…。そんな状態で置いておくのは不安だから辞めさせたほうがいいということになって、自衛隊に連絡をとりました」
 ――面談では、どのような話をしたんですか。
「今すぐ帰らせてくれと頼みました」
 ――それに対して、どのような話が。
「一般候補生ではなく『曹候補生』として入ったので、すぐ辞めるのは難しいと。とりあえず来年の3月までに貯金100万円と車の免許を作らせて辞めさせるので待って欲しい、と言われました」

 語られる面談があったのは、2012年5月のこと。胆振管内白老町の陸上自衛隊白老駐屯地での出来事だ。法廷で再現されたのは、先輩からのいじめなどで退隊を考えていた若い自衛官をめぐるやり取り。その母親は、当時の先任上級曹長らに説得され「息子を辞めさせることはできない」と思い込まされたという。

 ――この目標、条件について、どう感じましたか。
「3月まで貯金100万円というのはちょっと無理なんじゃないか、とは言いました」
 ――先任曹長はそれに対して。
「『やればできる』だけです」
 ――何か部隊で管理してくれるとか、そういう話は。
「いえ、本人にやらせると言ってました」

若い隊員の自殺の原因を、自衛隊は「仕送りの辛さで」と主張、先輩隊員によるいじめなどを否定したという(北海道防衛局が入る札幌市中央区の札幌第三合同庁舎)

拓巳さんが「母親が退職を許してくれない」と訴えていたという国の主張に反し、事件直後の説明では「組織として」退職させなかった事実を当時の曹長が認めていた(面談時に収録された音声記録の反訳文)= 画像の一部加工は本誌

「国は非を認めて」
19歳自衛官自殺

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川島五月さんは26歳で長男の拓巳さんを出産、初めて腹を痛めたその子は「誰に対しても優しい子」に育った(出産の5時間後に撮影されたという産科病院内でのスナップ)

若い隊員の自殺の原因を、自衛隊は「仕送りの辛さで」と主張、先輩隊員によるいじめなどを否定したという(北海道防衛局が入る札幌市中央区の札幌第三合同庁舎)

川島五月さんは26歳で長男の拓巳さんを出産、初めて腹を痛めたその子は「誰に対しても優しい子」に育った(出産の5時間後に撮影されたという産科病院内でのスナップ)

拓巳さんが「母親が退職を許してくれない」と訴えていたという国の主張に反し、事件直後の説明では「組織として」退職させなかった事実を当時の曹長が認めていた(面談時に収録された音声記録の反訳文)= 画像の一部加工は本誌

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