21世紀の人質司法③
「逃げてねえか」

2024年03月号

原告女性は札幌市中央区の警察本部内にある女性専用留置施設(写真左)に勾留され、私物検閲などの違法捜査被害に遭ったという(北海道警察白書『北斗の安全』2023 年版から)

黙秘権侵害映像、法廷で上映
国賠訴訟で異例の「文書提出」


「供述拒否権は『嘘ついていい権利』じゃない」「それは間違った選択肢だと思う」「逃げてるつもりはねえか」――。無言で俯く女性に、執拗に迫り続ける警察官たち。延べ約25時間に及んだという密室の取り調べの様子が、警察自身の手で撮影・録音されていた。その一部が裁判所で上映されたことで、長時間の権利侵害の実態が白日の下に。被害女性の代理人らは、改めて訴える。「この取り調べが合法というなら、黙秘権は何のためにあるのか」。


取材・文 小笠原 淳
1968年小樽市生まれ。地方紙記者を経て2005年からフリー。「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に『見えない不祥事』(リーダーズノート出版)。55歳

「黙秘」申し出に耳貸さず


 傍聴席と法廷とを隔てる「バー」の内側、左右の壁の上方に掛かる2つのスクリーンに、その動画は映し出された。2年あまり前に提起された国家賠償請求訴訟を審理する札幌地方裁判所(布施雄士裁判長)で、1月31日午後に見られた光景だ。
 画面の中央下部に、14桁の数字。常に表示されているその字幕からは、映像が2021年6月下旬から7月上旬にかけて撮影されたものだったことが読み取れる。20日間ほどの時間を12分間あまりに凝縮した動画の中、殺風景な部屋で向かい合う2人の人物のやり取りが続く。正確を期すなら、後ろ姿で登場する1人のみがほぼ一方的に言葉を発し続けている。声の主は、北海道警察本部に勤務する警察官。画面の奥で俯く人物は、のちに不起訴となる事件で逮捕・勾留されていた女性。動画は、その人への警察の取り調べの様子を記録したものだ。
 映像の冒頭、女性は「何も言いたくないです」と黙秘権の行使を申し出る。これを耳にした、否、耳を貸さなかった取調官は、それから連日、飽くことなく供述を迫り続けた。即ち、相手の黙秘権を侵害し続けた。
「今が本当のこと話すチャンス」「供述拒否権ってあるけど、『嘘ついていい権利』じゃないし」「一所懸命話さないで誰のためになるの」「それは間違った選択肢だと思う」「いずれ最終的に後悔する」「今の状況はただマイナスにしかならない」「逃げてるつもりはねえか」――。
 警察官らは、時に女性が彼らの言葉に落涙しても意に介さず調べを続けた。前後して亡くなったその人の長男を引き合いに出し、女性警察官が「要らない子だったの」「産まなきゃよかったんじゃない」などと暴言を放つ場面も一度ならず。勾留期限の間際には、男性警察官が「最後に見たママの姿って、すっげえ恐いままで終わってるぞ」と穏やかならぬ言葉を投げていた。
 密室の取り調べに堪え抜いた女性がその後不起訴処分となった顛末は、すでに述べた通りだ。

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