告発・絶望の学府㉘
道「因果関係」否定

2023年12月号

自身の謝罪の真意を問われた知事はいささか苛
立った様子で明答を拒み、最後は担当部局に対応を〝丸投げ〟した(10月27日午後、北海道知事定例記者会見)

遺族らの不信招く手のひら返し
江差パワハラ死、示談交渉暗礁


一昨年から本誌面で報告を続けている北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題で、在学生の自殺事案をめぐり北海道が第三者調査の結果を否定する認識を示し始めた。本年5月には知事や担当部局が学生の死とハラスメントとの「相当因果関係」を認めて頭を下げているが、ここに来て一転、「そうとは言い切れない」との主張。謝罪から僅か半年後の豹変に、亡くなった学生の遺族は強い失望感に苛まれている。


取材・文 小笠原 淳
1968年小樽市生まれ。地方紙記者を経て2005年からフリー。「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に『見えない不祥事』(リーダーズノート出版)。54歳

自殺起因「言い切れない」 謝罪一転、調査結果否定


 寝耳に水の連絡があったのは、10月23日のことだった。植松直(すなお)弁護士(函館弁護士会)が振り返る。
「道の顧問弁護士からの電話で、『予見可能性はなかった』『相当因果関係は認められない』と」
 北海道立看護学院のハラスメント問題に取り組み、複数の被害者の代理人として道との示談交渉を続ける植松弁護士はその日、最悪の被害といえる在学生の自殺事案で想定外の主張を耳にすることになった。不意の電話の主が引き合いに出したのは、第三者調査で認定された自殺とハラスメントとの「相当因果関係」。調査報告を受けて遺族に謝罪した筈の道が、突如これを否定し始めたのだという。
「第三者委の報告書には、当時のハラスメントについて『自死との相当因果関係は認められる』と明記されています。その上で、今年5月には当時の担当課長と局長がご遺族に直接、謝罪しました。当然そうした経緯をふまえて示談交渉が進められると思っていたところ、今回の話では『ハラスメント以外の原因も否定できない』と。第三者調査はいったい何のためだったのか…」
 果たせるかな、この翌週に改めて道側から植松弁護士のもとに届いた文書には、調査結果と正反対の主張が記されることになる。少し長くなるが、左にその一節を(伏字は同弁護士)。
《■■■が自死されたことにつきましては、御自身の性格や人生観が影響した可能性、親しい友人の卒業や退学、祖父の死による精神的な支えを失ったことなどの要因もあること、また、■■■の自死を予見できるような、心理的負荷をうかがわせる行動等も確認できなかったことから、最終的な要因は確定されておらず、ハラスメント行為が必然的に本件自死に直接結びついたとは言い切れないと考えております》
 謝罪から僅か5カ月あまりでの手のひら返しだった。

第三者調査では少なくとも4件のハラスメントが認定され、いずれも自殺との相当因果関係が認められている
(遺族への謝罪時に提供された報道発表資料)

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道の顧問弁護士から遺族側に届いた「回答書」全文=一部墨塗り処理は植松直(すなお)弁護士による

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