羽幌町発・閉鎖直前の「焼尻めん羊牧場」に救世主
あべ養鶏場・東郷社長の決断で焼尻サフォークブランド存続へ

2023年11月号

民間へ承継される「焼尻めん羊牧場」。焼尻島の観光資源も存続することに(写真は羽幌町提供)

赤字が続き最後の飼育員も退職が決まったことで8月末で閉鎖・廃業する方針だった苫前郡羽幌町(森淳町長)の町営「焼尻めん羊牧場」が、一転して存続する運びとなった。名乗りを挙げた民間事業者、あべ養鶏場(下川町)の東郷啓祐社長と町が合意に達し、東郷社長が設立する新会社で同牧場を承継し「焼尻ブランド」を継続するという。町議会の議決などを経てこの10月中にも新事業者による運営に切り替わる。「焼尻めん羊牧場」の歴史を振り返りながら、地域にとって朗報となった今回の土壇場の継承劇に注目してみた。

(佐久間康介・工藤年泰)

焼尻に3度渡った東郷氏


「焼尻めん羊牧場」は、不漁対策として1962年に焼尻島の漁業者に町がめん羊12頭を貸与したのが始まり。66年に町営となり、69年には「サフォーク種」100頭をオーストラリアから導入。86年にサフォーク種純潔生産基地の北海道第1号指定を受け、羊の種畜生産基地として重要な役割を担う一方、島の貴重な観光資源にもなってきた。「焼尻ブランド」の羊ラム肉は、「ミクニ サッポロ」や「レストラン モリエール」など人気フランス料理店でも使われてきた実績があり、その味には定評があった。
 2008年から町は指定管理者制度を導入。以後は民間事業者が運営してきたが、19年に新たな管理者の応募がなく再び町営に戻った。新たな応募がなかったのは、事業者側が人手不足により飼育員などの働き手を確保できなかったため。町営に戻ってからも人手不足は続き、飼育員の確保はままならない。町は最低3人の確保に努めてきたが、昨年9月には2人体制になり、町は島民のサポートを受けたり職員が4~5日間、島に出張して対応するなどやり繰りしてきたが、毎年赤字が2、3千万円発生する状態だったという。
 そうした中で、今年4月からは飼育員ひとりで対応する事態に。本人にとって体力的にも厳しく、その飼育員も8月末で退職することになり、町はこのままでは存続は難しいとして6月の町議会総務産業常任委員会で「閉鎖・廃業は止むを得ない」と報告するに至った。
 この方針が報道各社で伝えられると道内外から30件を超える問い合わせが町に寄せられた。しかし、その多くはめん羊の引き取り。やはり引き継ぐのは難しいのではと考えていたところ、承継の申し出が3件あった。町がそれぞれの事業者と面談すると、ひとりは指定管理者を想定しており、以前に指定管理制度を維持できなかったため選定から除外。もうひとりは某上場会社の創業者で資金力は豊富だが、めん羊牧場の承継と合わせて再エネ事業や飲食事業を含めた複合展開を視野に入れていた。だがこれも複合展開は難しいと判断し、最後のひとりと面談に臨んだという。
 それが今回の救世主、上川郡下川町で「あべ養鶏場」を経営する東郷啓祐社長(61)だった。

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