心を病んだ職員に、当時の同僚らは「出勤だけしていればいい」などの暴言を放ったという
(札幌市東区の札幌方面東警察署)
侵入盗の元巡査部長に求刑3年 婚約者の翻弄でパニック障碍に
本誌5月号から断続的に報告してきた、元警察官による連続住居侵入事件。7月中旬に結審した裁判では、私生活で大きな悩みを抱えることになった当事者に職場の無理解が追い討ちをかけた背景があきらかになった。責任の一端は、職員のストレスを適切にケアすることができない就労環境にもあったといえる。だがこれまでの例に漏れず、組織の責任が問われることはついにない。職を失った1人のみが断罪され、一連の事件には幕が下りようとしている。
取材・文=小笠原 淳
「自分が中心だった仕事からも外され、なかなか輪に入れなくなって、同僚からも無視されたり…」
7月18日午後。札幌地方裁判所(新宅孝昭裁判官)の法廷で被告人質問に臨んだ元警察官の男性(41)は、弁護人の問いに答えて現職時代の苦い記憶を辿り続けた。
――できないことも増えたのでは。「車の運転ができなくなり、銃も持てなくなりました。パニック障碍で当直も難しくなりました」
――周りは理解がなかった。「はい。『どうせ病気で何もできないんだから手を出すな』とか、『一切かかわらないでくれ』とか」
――暴言や悪口とかも。「『ただ出勤だけしてればいい』と言われたりもしました。仕事のことで提案しても『どうせ自分はできないくせに』と…」
本誌前々号までに既報の通り、一連の事件は本年3月に発覚した。江別市の住宅街に建つ1棟のアパートを舞台とした、連続侵入盗。のちに容疑者・被告人となった札幌東警察署の巡査部長は、自身の住むアパートのほかの部屋への侵入行為を繰り返し、一部については不正に合鍵を作るなどしていた。犯行に手を染めたのは2019年初頭からで、被害者は少なくとも6人に上る。関与が認められた事件は、検察が起訴しただけで住居侵入6件、窃盗4件、及び傷害1件。5月中旬に始まった公判廷で、その動機は「女性の下着が欲しくて」などとされていた。
より詳しい背景が明かされることになったのは、それから2カ月ほどを経た第3回公判でのこと。本稿冒頭に再現した尋問の場で、初めて侵入行為に及んだ時期の1年ほど前の逸話が元巡査部長自身の言葉で伝えられた。
実直な警察官を追い込んだのは、過度のストレスだった。