告発・絶望の学府㉖
「もう握り潰さないで」

2023年07月号

北海道の幹部は亡くなった男子学生の遺族に謝罪したが、学生を死に追い込んだ教員たちは今のところ1人も頭を下げていない
(5月15日午後、札幌市内)

江差看護・パワハラ死で道が謝罪
悲劇から3年余、遺族「一区切り」


「今後は被害を握り潰さないで」「同じ思いをする子が出ないように」――。本誌前号発売直後の5月中旬、北海道立高等看護学院のハラスメント問題で最悪の被害といえる在学生の自殺問題が、ようやく一つの節目を迎えた。道の担当課から謝罪を受けた遺族は涙ながらに再発防止を訴えたが、事実調査にあたった第三者委からはハラスメントの芽が完全に摘み切れていないことへの懸念の声も。大きな節目が再生への一歩となるかどうかは、なお予断を許さないようだ。


取材・文 小笠原 淳
1968年小樽市生まれ。地方紙記者を経て2005年からフリー。「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に『見えない不祥事』(リーダーズノート出版)。54歳

最悪の被害、風化免がれ


 北海道保健福祉部の岡本收司・地域医療推進局長(当時)が、神妙な面持ちで報告する。
「ご子息に対するハラスメントが確認されたところでございます」
 息を継ぎ、並んで立つ田原良英・看護政策担当課長(同)とともに深く頭を垂れた。
「その事実につきまして、心よりお詫び申し上げます。申しわけございませんでした」
 5月15日午後、札幌市内。1年前の同じ時期に道へ持ち込まれた訴えは、当事者への謝罪で一つの区切りを迎えた。


 一昨年の春から本誌などが報告を続けている、道立看護学校のパワーハラスメント問題。一連の被害を告発する声はさらにその前年、道南・江差町で上がり始めていた。在学生や保護者らの訴えを受け続けた当時の道の担当課はしかし、いっこうに事実関係を調べようとせず約半年間にわたって告発を事実上放置。世論に押される形で第三者調査を検討し始めたのは、地元報道が一斉に問題を採り上げた翌年4月以降のことだった。
 同年5月に発足した第三者調査委員会は、告発の震源地となった江差高等看護学院の学生や教員などから聴き取りを重ね、また道東の紋別看護学院からの被害申告にも耳を傾けた。結果、長く疑われていたハラスメントの事実が初めて公式に認められ、その年の秋から同年度末にかけての調査報告で両校の教員11人による計53件の被害が認定されることになる。
 その調査の開始当初から、当事者たちの間で話題に上っていた深刻な事案があった。ほかでもない、江差看護学院に在学していた男子学生(当時22)がハラスメントを苦に自ら命を絶った出来事だ。悲劇が起きたのは、2019年9月。多くの学生たちに知られる事件だが、先の第三者調査の対象とはならなかった。発生当時、学生を死に追い込んだ江差の教員らが「何も思い当たることがない」とハラスメントを隠蔽し続けたことで、遺族に充分な情報が届いていなかったのだ。

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