放射線治療の大家・西尾正道氏にトリチウムの危険性を訊く
処理水の海洋放出に危機感 健康被害を防ぐ正しい知識

2022年10月号

「トリチウムの正しい知識を持ってほしい」と話す西尾氏

(にしお・まさみち)1947年函館市出身。札幌医科大学卒業。74年国立札幌病院・北海道地方がんセンター(現北海道がんセンター)放射線科勤務。放射線治療に従事しながら日本のがん治療の問題点を改善するための医療を進める。2008年同センター院長、13年から名誉院長。日本医学放射線学会放射線治療専門医、日本放射線腫瘍学会名誉会員、日本頭頚部癌学会名誉会員、日本食道学会特別会員。「市民のためのがん治療の会」顧問。『放射線治療医の本音─がん患者2万人と向き合って』(02年、NHK出版)など論文や書著多数。札幌市在住

原子力規制委員会が「安全上問題はない」として7月下旬、福島第一原発の敷地内で増え続ける処理水について海洋放出を認可したことが物議を醸している。処理水には浄化装置では取り除けない放射性物質トリチウムが含まれているからだ。海洋放出をめぐっては海洋汚染を懸念する地元の漁業関係者らが強く反対しているが、認可を受け国と東京電力は来春の放出に向けて動き始めた。この中で健康に被害を及ぼすとして海洋放出に警鐘を鳴らしているのが、放射線科医で独立行政法人「北海道がんセンター」名誉院長の西尾正道氏(75)だ。トリチウムはなぜ危険なのか、海洋放出以外に道はないのか、西尾氏に訊いた。

(武智敦子)

増え続ける処理水


 2011年3月の東京電力福島第一原発の事故後、原子炉内ではメルトダウンした核燃料に水を注ぎ冷却する作業が続いている。核燃料を冷やした水は高濃度のセシウムなどさまざまな放射性物質を含む「汚染水」となり専用の浄化装置で処理されるが、放射性物質トリチウムなどは取り除くことが難しく「処理水」の中に残る。
 原発内では毎日平均140トンのトリチウムなどを含む汚染水が発生しており、浄化装置で放射性物質を減らした処理水の総量は約124万トンに上る。この水は敷地内の大型タンクに貯められ、その数はすでに1000基を超えている。すでに敷地の9割に処理水が貯められ、来秋には満杯になる見通しだ。

寿郎社から昨年3月に出版した『被曝インフォデミック』。トリチウムについて詳しく解説している

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