記者会見で質問に応じる富野由悠季監督
(11月17日、北海道立近代美術館のオフィスで)
◆ガンダムの生みの親、札幌で大いに語る
企画展「富野由悠季の世界 ガンダム、イデオン、そして今」(●頁のグラビアで紹介)で11月17日に行なわれた開会式に出席し、その後に道内メディアの記者会見にも応じたガンダムの生みの親、富野由悠季監督。その場で富野氏の口から出たのは、若い才能の出現に寄せる期待の声と、自身のメインフィールドたるアニメ界のみならずあらゆる分野で世界に遅れを取っている、日本のこれからへの危機感だった。時代が変わっていく一方で劣化が止まらない政治家に対する失望、「日本はもうアニメ先進国ではなくなった」という鋭い指摘など、一つひとつの発言から垣間見えたのは、齢80になっても闘う気概を持ち続けるクリエイターの姿だった。
(構成・髙橋貴充)
──これまで安彦良和氏(遠軽町出身、「機動戦士ガンダム」ではキャラクターデザイン、作画監督を担当)、湖川友謙氏(遠軽町出身、「伝説巨人イデオン」や「聖戦士ダンバイン」のキャラクターデザインを担当)、安田朗氏(釧路市出身、「ターンエーガンダム」のキャラクターデザインを担当)と北海道出身のクリエイターと作品づくりする機会が多かった印象ですが、北海道のクリエイターについて思うところをお聞かせ下さい。
富野 3人がいずれも北海道出身というのは、言ってしまえばたまたまだったのかな、という受け止めです。ただ時代としては安彦と湖川は同時期。安田はその20年後に出てきた人物です。感覚的に北海道は冬場、雪に閉ざされてしまうから、家の中で出来ることとして絵を書く。そんな地域性はあるのかな、と思ったことはあります。
先程、時代の話をしましたが、安彦、湖川の時代はアニメがようやく定着し始めた頃でした。なので彼らはアニメーターというよりは絵描き。一方、安田の場合はアニメの世界からもきちんとした絵描きが生まれてくることを教えられました。
開会式で、北海道在住の畑めいさんが小学生の時に制作し日本一の評価を得たガンプラのジオラマが展示されているのを嬉しい出来事として紹介しましたが、小学生であれほどのものが作れるのは一体何なんだろうか、ともつくづく思いました。絵画的なレベルでのセンスがとても高いんです。ああいった作品を見た時に、アニメやコミックといったものがすっかり文化として定着してしまって、殊更アニメだから、マンガだからと言われることがなくなったのが、安田の時代に起きたのだと思っています。
そうした中で日本のアニメの趨勢はどうなっていくのかと考えると、デジタル技術の進化に伴って今、アニメ業界は危機的状況にあると感じています。
その例としてミュージックビデオ(MV)。とても人気な某アーティストは自ら楽曲を作り歌うのみならず、アニメーションを多用したMVも自主制作している。アニメ界の人間としては、アニメまでやるのかとムカっとしていますよ。ただそうした動きは、デジタルアニメが個人のレベルで制作できるようになったということ。それに対し、シリーズ物やストーリー物を手掛けている日本のアニメプロダクションはどう認識しているのか。
僕が参加しているサンライズに関しては、先に触れた兆候に対してちょっと無関心なところがあるのでは、と気になっています。例にあげたMVのようにアーティスティックな面でかなり高度なものが要求され始めている中、新しい才能も求められている。だからこそサンライズには、そういった才能を探す行動を積極的にして欲しいと思っており、併せてそれは僕自身の任務でもあるのだろうと受け止めています。
しかしながら、基本的に年寄りの価値観を持ち込むのはやめて欲しい。言うなれば、僕に意見を言わせないプロダクションワークを確立していかなくちゃいけない。