「北海道新幹線・札樽トンネル」建設残土問題を追う①
要対策土の受け入れをめぐって手稲山口の住民団体らが猛反発

2022年01月号

山口処理場で行なわれている要対策土の受け入れ工事


2030年度末の札幌延伸を目指す北海道新幹線。それに伴う札樽トンネル(小樽-札幌=26・2キロ)の掘削工事で生じる建設残土の内、含まれる重金属が環境基準を超える「要対策土」の受け入れが、12月中にも札幌市手稲区山口地区にある市の一般廃棄物最終処分場(山口処理場)で始まる。19年6月に突如として処分候補地として浮上し、今年の6月下旬には札幌市と鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が同地区での受け入れ協定を締結。反発する地元住民は農産物への風評被害や土壌汚染、健康被害への不安が拭えないとして、処分地の変更を求める署名や抗議文を秋元克広・札幌市長に提出してきたが、市新幹線推進室は「しっかりとした対策を講じていきたい」と理解を求める。手稲山口地区の要対策土受け入れ問題を追った。
(武智敦子)




重金属による空気汚染を懸念


 11月中旬、手稲区山口地区のゴミ最終処分場「山口処理場」。処理場内の未利用の市有地約21ヘクタールでは要対策土の受け入れ工事が急ピッチで進んでいる。事前のボーリング調査で敷地内の地下に砂が分布していることを確認。大地震による液状化のリスクがあることから、現場では深さ約20メートルの砂抗を打設する地盤改良や遮水シートを敷く対策工事が行なわれている。
 市新幹線推進室によると、山口処理場では搬入した要対策土からヒ素などの有害な重金属が地下水に溶出するのを防ぐため遮水シートを二重に敷き、その上にシートを保護する砂などを重ねてから対策土を封じ込める。盛土が終わった対策土は遮水シートで覆い、覆土をして表面を保護。遮水シートは雨水を通さないため調整池で流量を調整する。
 同室の担当者は、「盛土は強い地震でも崩れない高さと勾配になるよう計算しており、洪水対策として盛土の周辺を土堤で囲み外から水が来ても侵食されない対策も行なう予定です。農家に迷惑がかからないように排水対策についても徹底した管理を行なうことを工事を実施する鉄道・運輸機構に確認しています。一部の住民の間に不安があることは承知していますが、対策土の搬入場所を確保するのが難しい状況の中で山口地区の住民に相談して受け入れを了解していただいた」と説明する。
 小樽―札幌間を結ぶ札樽トンネルは延長26・2キロで、この間は5工区に分けて工事が予定されている。このうち、札幌市内の工事からは合計115万立方メートルの要対策土が出るとされ、その約8割に当たる約90万立方メートルが山口地区に搬入される見通しだ。
 山口地区に住む、木村茂夫さんは明治期に山口県から入植した農家の4代目。息子と一緒にスイカやネギなどの有機栽培を行なっている。仕事も順調で息子夫婦や孫との暮らしは平和で穏やかなものだった。
 それが一転したのは昨年6月に、「山口処理場」の未利用地が要対策土を処分する候補地として浮上してからだ。要対策土にはヒ素を始め鉛やセレンといった有害な重金属が含まれており、木村さんはダンプで掘削土を運ぶ際に粉塵が飛散することを懸念している。山口処理場の近くには複数の学校や病院、住宅街が広がるからだ。
 地下土壌に含まれている自然由来のヒ素は、掘削され空気にさらされると毒性の強い「亜ヒ酸」になる。亜ヒ酸が体内に取り込まれると遺伝子情報が壊れ、奇形などの原因になるとされている。ヒ素による公害では、宮崎県高千穂町の土呂久鉱山で大正から戦後にかけ約30年間にわたって起きた「土呂久ヒ素公害」が知られている。ヒ素鉱石から亜ヒ酸を製造する“ 亜ヒ焼き” の過程で亜ヒ酸の粉末が空中に放出。それを吸った住人に皮膚の色素異常や皮膚がん、肺がんなどの健康被害が出た。
 木村さんは訴える。
「要対策土の搬入は6年間とされ、受け入れが始まると1日に700台ものダンプが走ると聞いてます。山口地区は海岸に近く強い季節風が吹く土地。風で要対策土から粉塵が巻き上がると子や孫、地域の住人は重金属を含む空気を吸うことになる。これは、山口地区だけでなく星置地区も関係する地域全体の問題です」

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