地元紙・80年めの迷走〈続々〉
この声を聴け――

2021年11月号

小さな声に耳を傾ける筈の報道機関は、すぐそばに拡がる声を捉えられなくなりつつある(札幌市中央区の北海道新聞本社)


道新問題で内部の不信増大中 「懇談会」記事は直前差し換え

まさかこんなに尾を引くとは思ってなかったんじゃないか――。現役記者の1人は、上層部の認識の甘さを指摘する。本年8月号から報告を続けている北海道新聞の新人記者逮捕問題は、否、それを受けた同社の一連の対応は、道内最大の報道機関が抱える病巣をあぶり出した。幹部職員らと現場との間の溝が埋まる兆しはなく、漏れ伝わる不信の声は今も絶えない。耳を塞ぐ幹部の足下で、その声は静かに拡がり続けている。

取材・文 小笠原 淳
1968 年小樽市生まれ。地方紙記者を経て2005 年からフリー。「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に『見えない不祥事』
(リーダーズノート出版)。52 歳
 

「どんどん辞めていく…」


「このままでは、今の会社の色に染まった人しか残らないと思います」
 若手記者の1人は、思いつめた表情で声を落とす。
「幹部の力関係は『飲み友達かどうか』が鍵。泣けてきます」
 札幌本社のベテラン記者は、やりきれなさを溜め息に込める。
「じわじわ“犯人捜し”が始まっていて、『雑誌に喋ってるのは誰だ』って私も疑われてるらしい」
 そう苦笑する中堅記者はこれまで一度も「喋って」いないのだが、今の社内でその疑いを晴らすのは簡単ではなさそうだ。
 6月22日に旭川市で起きた新人記者逮捕事件以来、北海道新聞社は確実に風通しの悪い組織となった。もともとそうだった可能性も皆無ではないが、だとすればそれがいっそう悪化したと言ってよい。
 事件以降の動きは、前号までの誌面で報告した通り。「動き」といっても道新ではこの4カ月間、さして意味のある対応がみられなかった。社命で公共施設に“侵入”した新人記者の逮捕について、誰もが納得できる説明は今もない。内部調査で容易にわかる筈の「誰が侵入を指示したか」という事実さえ藪の中で、指示に従っただけの新人を「容疑者」呼称で実名報道した経緯も説明し尽くされないままだ。9月初旬にはオンライン形式の全社説明会が設けられたが、現場からの疑問や不安の声を受けた編集局幹部は事実上“ただ言い返すだけ”の対応に終始した。
 その説明会の模様は前号の誌面で報告したばかりだが、同号に採録しきれなかったやり取りを1つ、ここで敢えて紹介しておきたい。「優秀な若手がどんどん辞めていく」と危機感を訴える中堅記者に、編集局の幹部はこう答えていたのだ。
「若い人たちが辞めていくことを『会社や幹部が悪い』ということに帰するのはどうかと思います。そもそも業界は岐路にあり、存在自体が揺らいでる。そういう中で、入ってきた人たちがミスマッチと感じて辞めていく。それが今までとは違うところじゃないかと思います」
 若手が辞めるのは会社のせいではない――。発言は説明会初日の終了間際に飛び出したもので、これに「そういう了見だから辞めていくのでは」と“突っ込み”が返される時間は残っていなかった。
 あるいは、誰もが絶句してしまったのかもしれないが。
 

決意表明とも受け取れる編集局長の発言は、事後に書き加えられたものだった(9月14日付朝刊)

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差し換えられた懇談原稿


 その道新が朝刊の見開き全2面を使って「新聞評者懇談会」の模様を報じたのは、新人記者逮捕事件から3カ月が過ぎようとしていた9月14日のこと。同事件についての読者報告は、その日が2度めになる。記事は、同紙に「私の新聞評」を寄せる外部の評者4人と編集局幹部らとの懇談会の抄録だった。
 この懇談記録が幹部の指示による複数回の差し換えを経て掲載に到ったいきさつは、社内でもあまり知られていないようだ。事情を知る関係者が明かす。
「座談会の記録ですから、直しが入るとしても事実誤認や誤字脱字などの訂正がほとんどで、参加者の発言を変える必要はない筈なんです。ところが紙面に掲載された差し換え版には、初稿になかった編集局長の発言などが書き足されてました」


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