緊急寄稿【2】いま、ウイグルの声に耳を
思想改造の拠点、強制収容所

2021年09月号

トゥール・ムハメット(日本ウイグル連盟会長) (トゥール・ムハメット)1963年東トルキスタン(中国・新疆ウイグル自治区)ボルタラ市生まれ。北京農業大学(現在の中国農業大学)卒業後、85年から94年まで新疆農業大学で講師を務める。94年に訪日し九州大学に留学。留学中に中国で秘密扱いになっている天安門事件(89年)を知り、97年に新疆で起きた中国によるウイグル人弾圧事件を契機に人権活動家として歩み始める。2015年日本ウイグル連盟会長に就任。新疆にいる娘と連絡が取れない状態にある。農学博士。58歳

1994年に訪日し、現在人権活動家として中国共産党の暴挙を告発し続けている日本ウイグル連盟会長、トゥール・ムハメット氏の緊急寄稿、第2弾をお届けする。国際社会から非難を受けている新疆ウイグル自治区にけるジェノサイド、民族虐殺とはどのようなものか。今回は、膨大な数のウイグル族が押し込められている「職業訓練センター」という名の強制収容所の恐るべき実態が明らかにされる。苦難を受けているのは同じアジアの同胞である。日本は、いつまでこの問題に及び腰を続けるのか──。
 

「職業訓練センター」という欺瞞

 
 中国が大量のウイグルの人々を「職業訓練センター」という名の実質的な強制収容所に入れて、拷問、強姦、虐待、殺戮という形で弾圧している事実が国際メディアによって相次いで明らかにされてから、当局は「新疆の職業教育及び訓練所」という政府白書を公表しました。この白書の内容は驚くべきものでした。300万人を超すウイグル人の収容をいわゆるテロへの予防措置として正当化するだけでなく、法律の範囲内で収容が行なわれていることを国際社会に信じてもらうことに懸命な姿が、そこにはありました。
 白書とは一般的に国際的な機関、または今後の法律制定のための提案に着手する政府によって作成される政策書を指します。国際社会からの批判をかわすために急遽作成された今回の白書における当局の見解は、いわゆる新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)の地方条例として2017年3月29日に自治区全人代で採決された「新疆ウイグル自治区極端化除去条例」に基づいて作成されています。
 これ以外に当局は19年に「新疆のテロと過激主義との戦い及び人権保護」「新疆の歴史問題」という白書も公表しています。当初、中国政府が存在を否定していたものの現在は幅広く知られることになった「職業訓練センター」と呼ばれる強制収容所に関するプロパガンダとして、政府は急いでこれらの白書を公表し、国際世論を牽制しようと躍起になりました。
 実は「職業訓練センター」と呼ばれる強制収容所について、中国の法律において合法的な根拠は存在しません。中国政府の反テロ法でさえ最長の拘留日数は15日しか認めておらず、より重大な問題は裁判所で判断されます。しかし、東トルキスタンの収容所に収監されている300万超の人々は誰ひとりとして裁判を受けず、懲役刑も言い渡されていません。
 彼らを恣意的に閉鎖された施設に長期間拘束する名目は、「思想改造のための再教育」と規定されています。収容された人々は、中国共産党が定めた内部基準によって拘留され、犯罪者と変らない扱いで収容所の中で思想改造教育を受けなければならないのです。
 中国政府の白書では、国際社会を騙すために、いかにもウイグル人のために「無料の職業訓練」を実施し、終わった後は「修了証」を発行し、彼らの就職まで斡旋していると強調しています。再教育を受けて修了した大勢の人々がその機会を活かし、再就職を実現させ社会に貢献することで「社会秩序と治安が歴史上最良の状態に戻り」「民族及び宗教の間の平等、結束、調和が浸透した」と高らかに宣言しています。
 しかし、我々在外ウイグル人は分かっています。真実は中国の言っていることと真逆で、ウイグル人の状況はさらに悪化しているのです。現地にいる同胞の多くが検挙され、押し込められている全ての強制収容所は厳格な監視システムと武装警察部隊に本格的に管理されています。
 ちなみに海外に住んでいる我々は故郷の家族と全く連絡が出来ない状況に置かれています。筆者の娘はウルムチ市のお爺さん、お婆さんと一緒に住んでいましたが、2016年12月以来、全く消息が分かっていません。
 中国政府が300万人以上のウイグル人を強制収容所に入れてから、我々は多くの出来事を分析してきました。そこで得た結論は、中国がウイグル人に対して国際法が禁止している“ジェノサイド”を実施しているということです。
 1948年、国際連合でジェノサイド条約(集団抹殺犯罪の防止及び処罰に関する条約、Genocide Convention)が採択され、その第2条で、ジェノサイドというのは、国民的、民族的、人種的、宗教的な集団の全部または一部を破壊する意図をもって行なわれる次のような行為と定義されています(カッコ内は条約で明言されていない具体例についての通説)。
●集団構成員を殺すこと
●集団構成員に対して、重大な肉体的又は精神的な危害を加えること(拷問、強姦、薬物その他重大な身体や精神への侵害を含む)
●集団に対して故意に、全部又は一部に肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を課すること(医療を含む生存手段や物資に対する簒奪・制限を含み、強制収容・移住・隔離などをその手段とした場合も含む)
●集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること(結婚・出産・妊娠などの生殖の強制的な制限を含み、強制収容・移住・隔離などをその手段とした場合も含む)
●集団の児童を、他の集団に強制的に移すこと(強制のためのあらゆる手段を含む)そして同条約第3条は、次の行為を処罰対象として定めています。
●集団殺害(ジェノサイド)
●集団殺害を犯すための共同謀議
●集団殺害を犯すことの直接且つ公然の教唆
●集団殺害の未遂
●集団殺害の共犯
 東トルキスタンにおける強制収容所の実態と中国政府がウイグル人に対して行なっているさまざまな行為は、このようなジェノサイド条約の規定内容と一致します。
 2019年9月から11月までの3カ月間、中国は東トルキスタンと中国本土との一般旅客運送を全部中止していました。我々が得た情報では、その期間中に、当局は全ての交通手段を総動員し、東トルキスタンから50万~100万人ものウイグル人を本土の各省に移動させ、それぞれの省の各刑務所に押し込めたことが分かっています。
 中国中部にある某刑務所の内部関係者は、「ここでは、ウイグル人は他の被拘禁者から隔離され、とても厳しい条件で管理され、非常に非人間的な対応を受けている」と証言しています。「これらのウイグル人は、24時間手錠をかけられ拘束されている。彼らは監視レベルの最も厳しい刑務所または重刑の刑務所にひとりで収容されている。態度が従順でないと認められた場合は、看守たちはいつでも彼らを殺すことが出来るようになっている」「投獄に当たっては罪の宣告もなければ、裁判手続き(有罪判決)もない」と告発しています。
 刑務所に入れられたウイグル人には名前が付けられていません。彼らが移される前に各刑務所の装備と規則が大幅に変更され、警備員が特別に訓練されたといいます。当局はウイグル人を移送した事実を伏せ、外部に漏れないよう全ての情報を厳密に隠していました。ウイグル人を管理する刑務所職員は守秘義務契約に署名する必要があり、刑務所の仕事に関する情報は家族を含むいかなる人にも明らかにすることは厳しく禁じられており、ルールを違反する者は責任を問われると言われています。
 先述した東トルキスタンの強制収容所も中国各省の刑務所と同じように厳格に管理されています。YouTubeでは、内部から漏洩した動画を見ることができます。そのひとつが「寒冬」というインターネット雑誌の記者が独占で撮影した東トルキスタンのグルジャ市内にある職業訓練センターの動画です。その内容から明らかにここが刑務所と同じ内部構造を持っていることが分かります。
 ビデオでは、敷地内にいくつかのオレンジ色の建物が並んでおり、それらは収容者のための寮であるとされています。施設の外観をよく見ると、各建物には4つのフロアがあり、すべてのフロアの窓には防護柵と防護ネットが取り付けられています。各建物の廊下の出口に3台のカメラが設置され、左、中央、右の3つの側面すべてから監視しています。建物の外壁には「習近平国家主席を中心とした党中央委員会のご厚意に心から感謝いたします」というスローガンが貼ってあります。
 カメラが建物に入ると、中の構造は刑務所や拘留センターのセルと同じで、各部屋には二重の鉄製扉があり、最外の鉄の扉に防護柵が加えられ電子ロックが装備されていました。各寮にはトイレと監視カメラが取り付けられています。
 情報提供者によると、各寮は15人を収容でき、各フロアに28の寮と3つの教室があることが確認されています。「中国語を習得しましょう」「習近平を中核とする中国共産党の指導を擁護する」など、さまざまなスローガンが教室の外壁に書かれています。さらに、このフロアには別の監視室があり、大規模な監視画面を通して教室、寮、廊下、トイレを含む360度の監視カメラが教育訓練センターの隅々に配置されていることがわかります。プライバシーを保てる空間が存在しないことは明らかです。建物全体が厳重に監視されており、隅々に設置されたカメラに加えて、鉄の門も入り口に設置されています。廊下では、部屋のすべての窓も堅固な鉄の手すりと有刺鉄線で塞がれており、収容者の夕食のために使用できるカフェテリアの窓も例外ではありません。このような施設からの逃亡は、ほとんど不可能でしょう。
 

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ウイグルジェノサイドに抗議し、東京の中国大使館前でデモを行なう日本ウイグル連盟の関係者(2019年6月10日)

カシュガル市近郊の「職業訓練センター」(Googleマップより)

強制収容所で〝再教育〟を受けるウイグル族(写真はいずれもトゥール・ムハメット氏提供)

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カシュガル市近郊の「職業訓練センター」(Googleマップより)

狙い撃ちにされる富裕層と女性たち

 
 中国当局は、ウイグル人の中で特に経済的に成功した人を重点的に逮捕し、でっちあげた罪で裁判にかけて投獄してきました。トルコ在住のウメル・ハムドゥラさんの兄弟はその典型です。
 彼の2人の兄弟は、東トルキスタンにおいて不動産事業で最も成功した大物です。多くの行方不明のウイグル人と同様に、ロジィ・ハジ・ハムドゥラさん(43)とメメト・ハムドゥラさん(37)の2人は、行方不明になってから二度と姿を見せていません。
 最近、この2人は中国で厳しい刑を宣告され、密かに投獄されていたという情報が出ています。ウメルさんの長兄であるロジィ・ハジさんは刑務所内で25年の刑を宣告されたそうです。彼が何の「犯罪」に問われたのか、家族には全く知らされていません。そのため、トルコに逃れたウメルさんは彼らの自由のために戦うことを決意し、国際最高裁判所に訴訟を起しています。
 2010年代以来、多くのウイグル人男女が中国本土に強制連行され奴隷労働に従事させられています。昨年11月のある日、福建省鎮江市の村人が地元の施設で先祖を称える祝賀会を開いていました。演目のひとつはウイグル民族舞踊であり、イベントに参加している村人は、ごちそうを食べながらパフォーマンスを見たといいます。
 舞台に立つ若者たちはプロのダンサーではなく、東トルキスタン出身のウイグル人で、地元の工場で働かせるために福建省に連れて来られていました。報道によると、このウイグル人達には専属の警察が付き添い、彼らの自由な移動を制限し、全ての活動を監視しているとのことです。
 先述した強制収容所に入れられたウイグル人はやがて労働力として中国本土の各工場に運ばれ、無給で奴隷のように働かされています。一説では、中国本土に連れて行かれたウイグル人労働者の数はすでに数百万人にのぼるといいます。さらに問題なのは、中国本土で臓器移植のドナーにさせられ、内臓が外国人などに移植されてから蒸発するケースが後を絶たない事実があることです。
 そもそも東トルキスタンではウイグル人が厳しく管理・監視下に置かれています。本土に連れ去られたウイグル人は東トルキスタンの家族と連絡が途絶え、何年経っても消息が分からない。そんな人は夥しい数にのぼります。政府は彼らについて何の情報も提供しません。もし家族が行方不明になった息子や娘を捜し出したいと申し出ると、当局は脅したり移動に必要な身分証明書を発行しなかったりして家族を諦めさせる行動に出ます。それでもなお追及する家族は、国家治安を脅したという容疑で警察に逮捕されて投獄されます。
 2000年以降、毎年中国政府は東トルキスタンから、数万人のウイグル人未婚女性を中国本土に就職の名目で連れて行き、さまざまな工場に配置して、本土の労働者の半分以下の賃金で働かせていることが分かっています。
 彼女達は外部と隔離された状態に置かれ、全ての行動が工場側に監視される状態で就労しています。労働者としての基本的な権利は踏みにじられ、正当な給料も支払われることなく、強制売春、人身売買の犠牲にもなっています。彼女達のその後の運命は謎に包まれており、あまりの迫害に耐えきれなく、自殺するケースも後を断ちません。
 そして東トルキスタン本土に残っているウイグル人女性達は、中国政府の打ち出しているいわゆる民族融和政策の犠牲になり、政府の移民政策で中国本土から移住して来た中国人と結婚することを迫られています。
 東トルキスタンの村に移住してきた中国人男性は、政府から住居などすべての生活用品を無償で提供され、また十数万元の生活補助金をもらえることになっています。
 そして彼らは、好き勝手に村のウイグル人女性を選んで結婚を申し込んで来ます。もし女性やその家族がその申し出を受け入れなければ、村からはさまざまな罰則を受けることになります。特に酷いのは、中国人との結婚を拒否した場合、地元の裁判所から実刑判決が言い渡され、投獄されることすらあるのです。
 これまで述べてきた事柄は、欧米や日本のような民主主義の国々で暮らす人たちにとって俄かに信じ難いことかもしれません。しかし、これが21世紀のいま、中国で起きている現実なのです。
 次号では、ウイグルの子供たちが置かれている現状から報告していきたいと思います。 (続く)
 

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