緊急寄稿【2】いま、ウイグルの声に耳を
思想改造の拠点、強制収容所
トゥール・ムハメット(日本ウイグル連盟会長) (トゥール・ムハメット)1963年東トルキスタン(中国・新疆ウイグル自治区)ボルタラ市生まれ。北京農業大学(現在の中国農業大学)卒業後、85年から94年まで新疆農業大学で講師を務める。94年に訪日し九州大学に留学。留学中に中国で秘密扱いになっている天安門事件(89年)を知り、97年に新疆で起きた中国によるウイグル人弾圧事件を契機に人権活動家として歩み始める。2015年日本ウイグル連盟会長に就任。新疆にいる娘と連絡が取れない状態にある。農学博士。58歳
1994年に訪日し、現在人権活動家として中国共産党の暴挙を告発し続けている日本ウイグル連盟会長、トゥール・ムハメット氏の緊急寄稿、第2弾をお届けする。国際社会から非難を受けている新疆ウイグル自治区にけるジェノサイド、民族虐殺とはどのようなものか。今回は、膨大な数のウイグル族が押し込められている「職業訓練センター」という名の強制収容所の恐るべき実態が明らかにされる。苦難を受けているのは同じアジアの同胞である。日本は、いつまでこの問題に及び腰を続けるのか──。
「職業訓練センター」という欺瞞
強制収容所で〝再教育〟を受けるウイグル族(写真はいずれもトゥール・ムハメット氏提供)
ウイグルジェノサイドに抗議し、東京の中国大使館前でデモを行なう日本ウイグル連盟の関係者(2019年6月10日)
カシュガル市近郊の「職業訓練センター」(Googleマップより)
強制収容所で〝再教育〟を受けるウイグル族(写真はいずれもトゥール・ムハメット氏提供)
ウイグルジェノサイドに抗議し、東京の中国大使館前でデモを行なう日本ウイグル連盟の関係者(2019年6月10日)
カシュガル市近郊の「職業訓練センター」(Googleマップより)
狙い撃ちにされる富裕層と女性たち
中国当局は、ウイグル人の中で特に経済的に成功した人を重点的に逮捕し、でっちあげた罪で裁判にかけて投獄してきました。トルコ在住のウメル・ハムドゥラさんの兄弟はその典型です。
彼の2人の兄弟は、東トルキスタンにおいて不動産事業で最も成功した大物です。多くの行方不明のウイグル人と同様に、ロジィ・ハジ・ハムドゥラさん(43)とメメト・ハムドゥラさん(37)の2人は、行方不明になってから二度と姿を見せていません。
最近、この2人は中国で厳しい刑を宣告され、密かに投獄されていたという情報が出ています。ウメルさんの長兄であるロジィ・ハジさんは刑務所内で25年の刑を宣告されたそうです。彼が何の「犯罪」に問われたのか、家族には全く知らされていません。そのため、トルコに逃れたウメルさんは彼らの自由のために戦うことを決意し、国際最高裁判所に訴訟を起しています。
2010年代以来、多くのウイグル人男女が中国本土に強制連行され奴隷労働に従事させられています。昨年11月のある日、福建省鎮江市の村人が地元の施設で先祖を称える祝賀会を開いていました。演目のひとつはウイグル民族舞踊であり、イベントに参加している村人は、ごちそうを食べながらパフォーマンスを見たといいます。
舞台に立つ若者たちはプロのダンサーではなく、東トルキスタン出身のウイグル人で、地元の工場で働かせるために福建省に連れて来られていました。報道によると、このウイグル人達には専属の警察が付き添い、彼らの自由な移動を制限し、全ての活動を監視しているとのことです。
先述した強制収容所に入れられたウイグル人はやがて労働力として中国本土の各工場に運ばれ、無給で奴隷のように働かされています。一説では、中国本土に連れて行かれたウイグル人労働者の数はすでに数百万人にのぼるといいます。さらに問題なのは、中国本土で臓器移植のドナーにさせられ、内臓が外国人などに移植されてから蒸発するケースが後を絶たない事実があることです。
そもそも東トルキスタンではウイグル人が厳しく管理・監視下に置かれています。本土に連れ去られたウイグル人は東トルキスタンの家族と連絡が途絶え、何年経っても消息が分からない。そんな人は夥しい数にのぼります。政府は彼らについて何の情報も提供しません。もし家族が行方不明になった息子や娘を捜し出したいと申し出ると、当局は脅したり移動に必要な身分証明書を発行しなかったりして家族を諦めさせる行動に出ます。それでもなお追及する家族は、国家治安を脅したという容疑で警察に逮捕されて投獄されます。
2000年以降、毎年中国政府は東トルキスタンから、数万人のウイグル人未婚女性を中国本土に就職の名目で連れて行き、さまざまな工場に配置して、本土の労働者の半分以下の賃金で働かせていることが分かっています。
彼女達は外部と隔離された状態に置かれ、全ての行動が工場側に監視される状態で就労しています。労働者としての基本的な権利は踏みにじられ、正当な給料も支払われることなく、強制売春、人身売買の犠牲にもなっています。彼女達のその後の運命は謎に包まれており、あまりの迫害に耐えきれなく、自殺するケースも後を断ちません。
そして東トルキスタン本土に残っているウイグル人女性達は、中国政府の打ち出しているいわゆる民族融和政策の犠牲になり、政府の移民政策で中国本土から移住して来た中国人と結婚することを迫られています。
東トルキスタンの村に移住してきた中国人男性は、政府から住居などすべての生活用品を無償で提供され、また十数万元の生活補助金をもらえることになっています。
そして彼らは、好き勝手に村のウイグル人女性を選んで結婚を申し込んで来ます。もし女性やその家族がその申し出を受け入れなければ、村からはさまざまな罰則を受けることになります。特に酷いのは、中国人との結婚を拒否した場合、地元の裁判所から実刑判決が言い渡され、投獄されることすらあるのです。
これまで述べてきた事柄は、欧米や日本のような民主主義の国々で暮らす人たちにとって俄かに信じ難いことかもしれません。しかし、これが21世紀のいま、中国で起きている現実なのです。
次号では、ウイグルの子供たちが置かれている現状から報告していきたいと思います。 (続く)
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