床が見えないほどゴミが積み重なった室内(写真は公営団地の清掃業務)
Business Report
ESIが新事業でゴミ屋敷問題に挑戦
安価で安全な「次亜塩素酸水溶液」を活用してウイルスや細菌を不活化する技術が、コロナ禍の中であらためて関心を集めている。この資材に着目し、今回のパンデミック以前からさまざまな関連商品を開発・販売してきたのがESI(株)(本社札幌・菊地匡彦社長)だ。その同社がこれまでのノウハウを活かし大きな社会問題の解決に向け動き出している。それが高齢化が著しい公営住宅で起きている諸課題を解決する、ワンストップ型の循環経済事業。最も懸念される住居不衛生化、ゴミ屋敷化に次亜塩素酸水という武器で立ち向かうのはもとより、リサイクルや見守りといった住民の利便性や福祉につながるスキームを構築しているのが大きなポイントだ。「我が国の未来の縮図」とも言える公営団地を舞台にした同社の挑戦をレポートする。
こと単身高齢者の入居割合が多い公営住宅。そこで大きな問題になっているのが、住居の不衛生化に伴うさまざまなトラブルだ。住人が半ば生活を放棄する中で掃除や片付けがおろそかになり、結果として室内がゴミだらけとなる。そこから出る悪臭などが近隣入居者に迷惑を及ぼすのは言わずもがなだ。
最悪の場合は、人知れず亡くなる「孤独死」を招いて事故物件化。昨今では新型コロナウイルスで亡くなるケースも増加しているとされ、公営住宅の場合、それらの事後処理には税金が投じられることになる。少子高齢化が進む中で、同様の事例は今後間違いなく増えていくと思われ、公費の負担増加が懸念される事態となっている。
このような現状について、ESIの菊地貴俊常務はこう話す。
「お住まいの中も問題ですが、住まわれている方がセルフネグレクト(自己放任)や認知症などで、購入日が定かではない傷んだ食品を食べるなどの事例もあり、健康状態も危惧されるところです。ゴミ屋敷になるのはまだいい方で、室内で犬猫を多頭飼育している住民がペットと共に亡くなるケースなどは酸鼻を極め、床や壁を全て取り換える必要も出てきます。このような最悪の事態に招かないためには、高齢独居世帯に対する見守りをはじめ定期的な室内清掃や片付けが欠かせません」
こういった状況を受け、同社がこのほど立ち上げたのがC E(CIRCULAR ECONOMY=サーキュラーエコノミー)事業部だ。
和訳で「循環経済」という意味の「サーキュラーエコノミー」とは、EUが2015年に公表した概念で、製品や素材、資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小限化する経済システムのことを指す。
この概念をもとに同社では、都市部で高齢化が最も進んでいる公営団地を舞台に「循環経済」を創り出すことを目標にしている。
その手始めが事故物件化に繋がる最悪のケースを回避する対策だ。具体的にはゴミ屋敷の住人と話し合いを重ね、本人負担の承諾を得た上で室内を清掃。この際に大きな武器となるのが同社の事業の主力である次亜塩素酸水関連商品だ。作業に当たっては、当初から次亜塩素酸水の空間噴霧を行ない、目に見えない有害な細菌やウイルスを不活化させつつ室内まるごと消臭する。
これまでこういった「特殊清掃」と呼ばれてきた作業では、室内の消毒にあたり劇薬を使用することが多く、作業者は健康リスクがつきまとっていた。
「次亜塩素酸水であれば確実な除菌消臭はもちろん作業者の健康リスクを減らすことが可能です」(菊地常務)
特筆されるのは、同社のCE事業では、このような自社製品活用による清掃を「循環経済」の入口として捉えていることだ。