告発・拾得物めぐる不当捜査 
「お前が盗んだんだ」

2021年04月号

任意聴取は約3時間に及び、捜査員はひたすら虚偽自白を迫り続けたという(札幌市中央区の札幌方面南警察署)

善意あだの冤罪被害、国賠提訴へ。指紋、写真、自白強要の札幌南署

コンビニでお金を拾った。警察に届け出ようとしたら、泥棒にされた。「盗んだ」と自筆するまで帰さないと言われ、さらに指紋を採られ、顔写真を撮影された――。昨年11月下旬に札幌市で起きた出来事だ。善意を踏みにじられて犯罪者にされた男性は、3カ月が過ぎた今も真っ当な謝罪を受けることができていない。「夜も眠れないぐらい腹が立つ」という冤罪被害者は、近く地元警察を相手に国家賠償請求訴訟を起こす考えを固めている。
 

コンビニ前に警官集結。衆人環視下で泥棒扱い

 
 札幌市中央区の会社役員・鈴木義孝さん(84)はその日、自宅近くのコンビニエンスストアを訪ねた。目的は、ネット銀行への入金。店内はさほど混雑していなかったが、入り口から向かって右奥にある銀行ATMの前に1人、男性の先客がいたことを憶えている。昨年11月26日の、午後2時を少し回ったころだった。
 眼の前の男性と入れ替わりにATM前に立った鈴木さんは、そこで自身の口座に6万円を入金。手続きを終えて端末を背にした直後、床の隅に紙片が落ちていることに気づいた。拾い上げると、真新しい一万円紙幣が1枚。先ほどの男性の姿はすでになく、落とし主が誰なのかは見当がつかない。急ぎの用が迫っていた鈴木さんは、まず予定を終えてから店を再訪しようと、紙幣を手に一度コンビニを出ることにした。
 自宅と市内豊平区で所用を済ませてコンビニへ戻ったのは、4時間ほどが過ぎた午後6時ごろ。のちに鈴木さんは「そこで無理にでも店にお金を預けておけば…」と悔やむことになる。折悪しく、夕刻の店内は利用客で混雑しており、店員を掴まえて詳しい事情を説明することは憚られた。店から車で5、6分の距離に札幌南警察署があることを知っていた鈴木さんは、自ら同署へ落とし物を届け出ることにし、再びコンビニをあとにした。
 今日ここに来ませんでしたか――。
 不意に話しかけられたのは、店を出た直後のこと。声の主は、制服姿の女性警察官だった。
 午後2時ごろに来店した旨を告げると、続けて「ATMの近くでお金を拾わなかったか」と女性警察官。「1万円を拾いました」と答えると、傍らにいた若い男性警察官が突然、怒鳴りつけてきた。
 お前がそれを盗んだんだ!――。
 

「警察は衿を正し、自分たちの非を認めなくてはいけない」と鈴木義孝さん(2月19日夕、札幌市内)

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怒りが収まらない冤罪被害者は、未だに警察から納得できる説明を受けることができていない(鈴木義孝さんが南署に宛てた昨年11月30日付の抗議書)

鈴木さんは職歴60年超の左官職人――これまで重要文化財・豊平館の補修や新幹線函館車両基地の一部施工などを手がけたほか、現在は北広島ボールパークの工事などにかかわっている(札幌市中央区の現場店舗前)

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