医療現場で散った命⑩
「誰も恨まないで」

2020年9月号

遅咲きの新人看護師は、過剰な「指導」に追い詰められて命を絶ったことを疑われている(亡くなる4カ月前――2013年3月に撮影された卒業記念写真)

看護師パワハラ死訴訟、結審。吃音咎める不適切指導の疑い

7年前の夏、札幌の病院に勤務していた男性看護師(当時34)が自ら命を絶った。強く疑われたのは、吃音があった男性への執拗なハラスメント。当時の上司の指導には、患者さえもが行き過ぎを指摘していたという。労働災害を否定する国を相手に遺族が法廷で闘い始めてから、もうすぐ3年。訴訟は本年6月の証人尋問で結審し、今秋の判決を待つのみとなった。長い闘いを続ける原告の背中を押したのは、本人が最後に遺した一言。「誰も恨まないでください」――。(取材・文 小笠原 淳)
 

「大丈夫」の一言で内定。4カ月後に訪れた悲劇

 
 和服でカメラの前に立つその人は、ようやく叶った夢に向かって小さな一歩を踏み出したところだった。右手に扇子、左手には長い筒を持ち、両の頬に笑窪をつくっている。
「岩見沢の看護学校に社会人の枠ができて、最初の期だったんです」
 そう振り返りながら母親(71)が眼をやる写真は、卒業記念に撮影されたものだ。今は、小さな仏壇の傍らにある。
「世の中がもう少し優しくなれば」と母親は言う。
「最近の“自粛警察”とか、おかしいですよね。みんな病気になりたくて感染したわけじゃないのに」
 かつての長男の職場に求めたかったのは、突き詰めるとそういうことだ。
「息子を指導した人たちにも、ほんのちょっとの優しさがあれば…」 笑窪の主は、本来ならば念願の職に就いてから8度めの夏を迎えている筈だった。
 

 
 6月17日午後、札幌地方裁判所。
「病院の看護部長から小樽の実家に電話がありまして、弟が無断欠勤をしている、とにかく心配なのでアパートまで見に行って欲しいと」
 7年前の出来事が、法廷で再現される。語り手の女性(43)にとって、2歳下の弟を喪った日のことは忘れようもない。
 

遺された家族は、不自然な一言に背中を押された(亡くなる直前に作成されたメッセージの出力紙)

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警察官の目標は、幼いころから抱いていたようだ(就学前年の1984年8月、姉と)

本人に吃音があることは、職場の病棟で把握していた筈だった(自筆の自己紹介書)=一部墨塗り処理は本誌編集部

部屋の主は最後の夜に好物の回転寿司を味わった後、翌朝になってから〝必要な物〟を買い求めに出かけたことがわかっている(札幌市内)

遺族は早い時期から労働災害の認定を訴えてきた――過労死問題の報告会で発言する母親(2017年7月、札幌市内)

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