現在の「中川リプロベース」。人の気配は全くなかった(12月25日撮影)
実態なきプロジェクトに投じられた1億円
道北の中川町で国や町の補助を受けて約2年前に始まった野生エゾシカ肉の解体加工事業「イノチヲツナグ・プロジェクト」の不透明な運営に批判の声が高まっている。解体加工場となっている現地を訪れると、エゾシカ搬入口の扉などが壊れたままで、とても食肉を提供できるような施設とは思われなかった。この問題では「調査中」を理由に町からも納得できる説明は得られていない。合計1億円ともいわれる事業資金はいったいどこへ消えたのか。(ジャーナリスト 黒田 伸)
天塩川の流れに沿って南北に集落が広がる中川町。かつては樺太などからの引揚げ者などによって昭和20年代から30年代初頭は7000人近い人口があり、農業を主体とした静かな田園風景が広がっていた。
その後、人口が徐々に減り始め、昭和50年代には4000人台、現在では1500人あまりとなり、過疎化と高齢化が急速に進んでいる。
そんな中で、全国的に知られているのが、アンモナイトやクビナガリュウの化石が産出される土地柄であること。天塩川が大きく蛇行する町南部の佐久地区にある中川エコミュージアムセンターには、1991年に発見された国内最大級の全長11メートルのクビナガリュウの骨格標本や多くのアンモナイトの化石が展示されている。
そのミュージアムセンター近くの道路沿いにあるのが、エゾシカの解体と食肉加工を目的に作られた工場、「中川リプロベース」だ。保育所だった施設を中川町が提供。札幌で犬の訓練施設などを経営していた「フォーシーズン・アカデミー合同会社」が中心となり、工場を運営することになっていた。
中川町が2017年8月下旬に1800万円を拠出し、総務省から地域経済循環創生事業交付金が2500万円、地元信用金庫の融資3000万円を合わせて7300万円が事業資金として調達され、フォーシーズン社が一括管理していたという。関係者によると、その後、同社の追加融資も含めると1億円近い資金がこのプロジェクトに投下されたもようだ。
その名称は「イノチヲツナグ・プロジェクト」。中川町内で年間300頭のエゾシカを駆除し、中川リプロベースで解体、処理して鹿革製品やペットフードなどをつくり、全国や海外にも輸出する計画だった。このプロジェクトには札幌大谷大学も加わり、北星信金中川支店とともにコンソーシアム(共同事業体)を組み、次のようなコンセプトが掲げられた。
「人間社会の都合により、その命を絶たざるを得なかったものを無駄にはしたくない、という思いから、駆除したエゾシカ個体を有効活用することで、エゾシカと人とが共存できる社会を目指し、さらには未来における人と自然との共存を新たなビジネスモデルとして創造し、具現化するために活動していくものです」
近年、国はペットフード向けの加工施設整備にも補助金を出すなど、エゾシカ肉の解体・利用は新しい事業として注目されている。現在は廃棄されている肉の少ない部位も骨付きのままミンチにしてペットフードの原料にすることができるためだ。中川町においても農作物に被害を与えるエゾシカの有効利用を新たな産業にしようと、効果が期待されていたわけだ。
それが計画通りに進んでいない事実が明るみになったきっかけは、プロジェクトの一翼を担い、皮なめしと製品加工を請け負うはずだった
「エゾプロダクト」(本社札幌)の菊地隆代表が昨年10月頃、中川町や道内のメディアに送った告発文だった。