札幌・平岸 不動産店爆発事件④
「長く、つらい1年に」――

2020年2月号

傍目にはわかりにくい「寒さと音と匂い」の被害が1 年ほど続き、住民の心理的な負担は今も残る(爆発翌日の2018年12月17日午後、札幌市豊平区)=札幌市消防局提供

近隣住民、アパマン北海道を提訴。スプレー噴射の元店長は書類送検

とりあえずの原状回復までに、1年の時間が過ぎ去った。被害補償の交渉では半年ほどで「最終合意」が通告され、示されたのは実際の被害にほど遠い補償額。合意を迫る加害者は、被害世帯に“守秘義務”を求めさえしたという。「このまま事件を終わらせてはならない」。30人の被害者が声を挙げたのは、何よりも事件の風化を喰い止めるためだった。不動産仲介店アパマンショップ爆発事件は、まだ終わっていない――。
 

「戦争が起きたのか」その一瞬、消えない記憶

 
「雷か爆弾でも落ちたのか…」と、その女性(50歳代)は振り返る。床から突き上げるような揺れと、耳をつんざく轟音。何の前触れもなく訪れた事態は、生まれて初めて経験する“事件”だった。一昨年12月16日、午後8時半ごろ。札幌市豊平区の不動産仲介店「アパマンショップ平岸店」で爆発が起きた時、現場真裏のマンションに住むその女性は、30分ほど前に帰宅したばかりだったという。
 同じころ、別の部屋に住む男性(40歳代)は長女との入浴を終え、浴室を出たところだった。不意に耳を襲った「ドーン」という爆音。3カ月前に経験した胆振東部地震とは較べものにならない衝撃に、思わず「戦争が起きたのでは」と疑った。傍らの妻がふと外に眼をやると、30mほど下の居酒屋から火の手が上がっていた。
「入浴後の身体を拭く暇もない状態でしたが、居酒屋さんの裏手にプロパン庫があったことを思い出して『引火したら大変なことになる』と」
 エレベーターは動かないと予想できた。家族全員で外の非常階段に回ると、すでにほかのフロアーの住民も避難を始めているところだった。
 同じルートで外に出た先の女性は、共同玄関の窓ガラスが割れてサッシが歪んでいたことを憶えている。自室の窓は爆発現場に面していたが、マンションの玄関は90度南向き。後になって、爆風が隣りの建物の壁に“反射”して吹き込んできたことを知った。
「一歩出ると瓦礫の山。不幸中の幸いだったのは、
 

被害に遭った住民らは、異口同音に「あの日の記憶が消えることはない」という(12月16日午後、札幌市内)

1年あまり稼働していた相談窓口は官庁御用納めの日の午後に閉鎖、翌日にはシャッターで出入り口が塞がれた(12月28日午後、札幌市豊平区)

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マンション12階に住んでいた男性は、被害の実態を多くの写真に納めていた(いずれも2018年12月、札幌市豊平区)

 

 

 

被害に遭った住民らは、異口同音に「あの日の記憶が消えることはない」という(12月16日午後、札幌市内)

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