ゆうらく号 NSP-35DX 大仁サービス 左側がNSP-35DX。大仁サービスの敷地内に設置された常設展示場で
90 年代にブレークし、2000 年代後半に急速に萎んだ〝融雪バブル〟。北海道発祥の技術として開発された融雪機や融雪槽は東北や北海道の積雪都市を中心にブームを巻き起こしたが、灯油高や排雪業者の台頭などで市場が一気に縮小。リーマンショックが起きた2008 年前後から専門業者の廃業や関連団体の解散が相次いだ。ところがどっこい、それから10 年あまりを経た現在も「融雪」はしっかり生き残り、人々の冬の暮らしを支えている。除雪から解放される春は、融雪機器の購入を検討するいい機会。本特集では、かつてのベストセラーで今でも根強い人気を誇る2つの製品を紹介しよう。
今も健在なトップブランド家庭用融雪機「ゆうらく号」
1985 年に発売されて以来、シャワー方式の融雪機として延べ1万台以上を売り上げた「ゆうらく号」。今回紹介するNSP -35DX(旧SP -35DX)は、その多彩なラインナップの中でも最もユーザーに支持された1台だ。メーカーだった大仁(だいと)は残念ながら2008年に経営破綻したが、同社の関連会社だった大仁サービス(札幌市白石区・福士賢一社長)が事業を引き継ぎ、現在に至っている。その福士社長は工学博士の肩書きを持ち、かつて大仁の技術開発を支えたことで知られる人物だ。「ブームの最盛期だった2000年の頃は、ゆうらく号だけで年間1500台前後が売れ、ロードヒーティングなどを合わせると20数億円の売り上げがありました。あいにく会社は倒産してしまいましたが、多くのユーザーさんを抱えていたこともあり、保守メンテを中心にこれまで事業を継続することができました」
こう語る福士社長によれば、往時の“バブル”には及ばないまでも融雪機器への引き合いは今でも根強いものがあるという。「高齢化社会を反映したニーズが色濃くなっていると思います。かつては雪の捨て場所がないというのが主な理由でしたが、現在はデイサービスを利用するうえで転ばないように歩く場所を確保したいといった声をよく聞きます」(同)
かつて「ゆうらく号」について取材していた時、多くのユーザーから「とにかく早く融ける」という声をよく聞いた。厳寒期の除雪作業を少しでも手短に終わらせたい。そんな切実な願いを製品に反映させ、ベストセラーとなったのがNSP -35DXだった。
ここで簡単に説明しておこう。融雪機は投入した雪を灯油バーナーなどの熱源機で短時間に処理するもので、炉体に直接雪を接触させて融かす「直熱熱風方式」と炉体が露出していない「水中熱交換方式」に大別される。NSP -35DXは後者の水中熱交換方式を採用。バーナーで水を温め、その温水をポンプで汲み上げて散水噴射し、雪を融かすシステムだ。
どちらの方式にしろ雪を融かすために必要な熱量に違いはない。かつて北海道工業試験場が行なったテストでは、1.の灯油で融かすことができる雪の量は最大約100kgとされた。融かす早さを求めるなら時間当たりの灯油燃焼量を増やすしかない。このような中で性能の向上を追求し、開発に成功したのが1時間当たり約32.の燃焼量を誇る「NSP -35DX」だった。
家庭用融雪機として販売されている製品の大半は、燃焼量が1時間当たり15.前後のものが大半。つまりNSP -35DXなら同じ量の雪を処理する時間は半分以下で、投入後に雪が融けるのを待つ必要もなくサクサク作業が進む。ユーザーが早さを実感できるのはそのためだ。
かつての大仁はこのような高性能な製品を代理店などを介さずメーカーで直販。流通マージンを省くことでリーズナブルな価格を実現していた。同社が融雪機器国内最大手と謳われるほど成長できた大きな理由のひとつがそこにある。
「現在のNSP -35DXは、SP-35DXと基本構造は一緒ですが、以前に比べて耐久性がアップしています。水中熱交換式のメリットのひとつは、炉体が剥き出しになっていないため安全性が高いことですが、これにより大型化が可能です。この特性を利用して旧大仁では業務用の大型融雪機を開発。区役所やスーパー、ガソリンスタンドなどの駐車場に数多く納入した実績があります。この財産は今でも大きく、昨年は東京の高速道路で使いたいということで声をかけていただき、首都高速道路さんに車載型融雪機を納入させていただきました」(同)
優れた製品をリーズナブルな価格で提供する。これは現在同社が扱っているロードヒーティングや屋根融雪といった分野でも同様だ。旧大仁のDNAを受け継ぎ、融雪に関する確かな技術と豊かな製品ラインナップを有している大仁サービス。
市場が縮小した中にあって今なお堅実に売れ続けているNSP -35DXの実力は、融雪機の購入を検討している人にとって要チェックだ。