道内初。カレス記念病院の長谷龍之介医師がロボット手術で国際B級ライセンスを取得
新設の呼吸器外科で取り組むダヴィンチによる肺がん治療

新天地のカレス記念病院でロボット手術を担う呼吸器外科部長の長谷医師
(はせ・りゅうのすけ)1972年札幌市出身。旭川医大を卒業後、北大第2外科に入局し2007年に学位を取得。帯広厚生病院や北大病院、札幌南三条病院などを経て製鉄記念室蘭病院で2019年から手術支援ロボットを使った肺がん手術を開始。2025年4月にカレス記念病院の次席副院長、呼吸器外科部長として着任。同年12月末に呼吸器外科領域で日本ロボット外科学会の「国際B級ライセンス」を道内で初めて取得した。日本外科学会専門医・指導医、日本呼吸器外科学会専門医・評議員、医学博士。53歳
Medical Report
社会医療法人社団 カレスサッポロ(大城辰美理事長)が運営するカレス記念病院(札幌市東区・320床)の呼吸器外科部長(次席副院長兼務)を務める長谷龍之介医師(53)が昨年末、同領域で日本ロボット外科学会の「国際B級ライセンス」を取得した。道内で初の国際ライセンス取得者となった長谷医師は、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った肺がんなどの手術を約340症例手掛けてきた第一人者で、昨年春の病院オープンとともに着任した期待のドクター。「ダヴィンチでは手術のクオリティが圧倒的に高く、患者さんの治療成績もいい。症例を重ねながらカレス記念病院の呼吸器診療全般を強化していきたい」と話している。
(4月24日取材 工藤年泰・武智敦子)
ダヴィンチで道内最多の実績
国際B級ライセンスを取得した長谷龍之介医師が、手術支援ロボットによる執刀を始めたのは今から7年前の2019年。18年4月に肺がんと縦隔腫瘍に対するロボット手術が保険適用されたのを受け、当時勤務していた製鉄記念室蘭病院が手術支援ロボット「ダヴィンチ」を導入したのがきっかけだった。
当時は関連情報やプロクター(手術指導医)も少なく試行錯誤だったが、最初の1年は札幌医科大学の渡辺敦教授(現・同医大附属病院長)の指導を受け技術を教わった。この時期を長谷医師は「当初はダヴィンチの良し悪しが分かりませんでしたが、学んでいくにつれ手術のクオリティの圧倒的な高さに驚きました」と振り返る。
肺がんは、がん細胞の形や状態により「非小細胞がん」と「小細胞がん」の2種類に大別される。非小細胞がんは肺がん全体の80%以上を占め、肺腺がんや扁平上皮がん、大細胞がんなどに分類される。その中で肺腺がんは非喫煙者や女性にも多く、肺がん全体の半数に上る。
治療法には手術、薬物療法、放射線治療があるが、手術では開胸術より低侵襲で術後の回復が早い「胸腔鏡手術」を行なうことが多い。これは、小さく切開した複数の場所から胸部の内部空間(胸腔)にカメラと手術用の鉗子を挿入して治療を行なうもので、開胸術に比べ低侵襲で手術後の回復が早いのがメリットだ。
これに対し手術支援ロボットでは、執刀医が手術台から離れた操作部でモニターを見ながらロボットのアームを動かして術式を行なう。最大のメリットは、高画質で立体的な3D(三次元)ハイビジョンシステムの手術画像を映し出し患部の状況を確認できることだ。さらに、ロボットのアームは人間の手より大きな可動域と手振れ防止機能を備えているため、困難な症例にも対応できる。
「ロボット手術のアームは、多関節構造により人の手首以上の可動域を持ち、非常に細かな操作が可能です。一方、胸腔鏡手術は患部の近くにまでカメラを挿入すると鉗子とぶつかる恐れがあり、肋骨がある胸腔内は狭いので、動きが制限されます。ロボット手術の経験を積むうちに、そのクオリティの高さや患者の手術成績がよくなることを実感しました」(長谷医師、以下同)
長谷医師はダヴィンチによる手術のメリットを証明するため、室蘭での症例が150症例に達した時、過去に自分が行なった胸腔鏡手術150症例の成績と比較したことがある。それによると、胸腔鏡手術ではがんの進行や炎症のため開胸手術に移行したケースが4例あったが、ダヴィンチではなかったことが分かった。
ロボット支援手術のライセンスは、下から「国内B級」「国内A級」。国際では「国際B級」「国際A級」「国際S級」に区分されている。国内ライセンスは、症例に術式係数と役割係数を乗じた値がポイントとなり、必要係数を満たすとランクアップすることができる。
一方、国際B級のライセンスを取得するには、ロボット関連の英文論文の執筆が必須なほか約300症例の執刀経験が求められるなど厳しい条件がある。長谷医師は25年3月時点で340症例の実績があり、現在も道内トップ。この豊富な手術経験に加え英文論文の発表実績など高い専門性が評価され、昨年12月末に呼吸器外科領域で日本ロボット外科学会の国際B級ライセンスを取得した。26年1月現在、同領域での取得者は国内でわずか6名。道内では長谷医師が初の取得者となった。
カレス記念病院は25年4月に札幌市東区の旧札幌卸センター跡地に新築移転しオープンしたが、長谷医師は新病院の開業に合わせて着任したニューフェイスという位置付けだ。
「4年ほど前に新病院で呼吸器外科を設けたいという話をカレス側からいただいていました。ただロボット手術をするには呼吸器内科で検査を行ない、肺がんなどが見つかってからという流れになります。この点でも協力いただけることになり、こちらで仕事をすることになりました」
カレス記念病院に呼吸器内科の医師が着任したのは昨年の夏で、長谷医師はこれまでに同病院でダヴィンチによる肺がん手術を4症例を手掛けており、「今後、適応するロボット手術の症例を増やしていきたい」と意気込む。

コンソールでオペに臨む長谷医師

ダヴィンチ手術の実際の様子(胸腔内)

PET-CTで画像化された肺がん(赤い範囲)
コンソールでオペに臨む長谷医師
ダヴィンチ手術の実際の様子(胸腔内)
PET-CTで画像化された肺がん(赤い範囲)
男性に高い肺がんリスク
日本での死因の第1位はがんで、部位別のがん死亡率では肺がんがトップ。国立がん研究センターのデータでは、2023年に国内で12万4千人(男性約8万1千人・女性約4万2千人)が肺がんと診断されている。5年相対生存率(※肺がんと診断された人が日本人全体の5年生存率と比較して、どのくらい生存しているかを示す割合)は、現在のところ男性が29.5%で女性が46.8%。24年に肺がんで亡くなった人は約7万600人にのぼる。
これらからは発症の割合は男性に多く、5年生存率も男性が女性よりかなり低いことがうかがえる。男性に喫煙者が多いこと、そして肺がんは進行が早く、見つかった時に手術ができるのは約3割に留まるということも関係していると考えられる。
がんの原因のひとつとして知られるのがタバコだ。紙巻きタバコの煙の中には4千種類以上の化学物質があり、この中には発がん物質とされるものが70種類以上含まれている。こうした有害物質は遺伝子に損傷を与え、がんの発症原因となる。
肺がんの中でも特に小細胞がんはタバコと密接な関係にあると言われる。この小細胞がんは割合は少ないものの、脳転移を起こしやすく予後も悪い。手術ができるのはステージ1に限られている。一方、非小細胞がんのうち日本人に多い肺腺がんは喫煙者でなくとも発症し、PM2.5も関係しているとされる。
「扁平上皮がん、小細胞がんと最も関係があるのはタバコです。今は喫煙率が徐々に下がっていますが、フィルターの付かないタバコが多く出回っていた時代は、扁平上皮がん、小細胞がんが多かったようです」
手術方法には、最も標準的な術式である「肺葉切除」と、肺を小さく切除する「部分切除」がある。肺葉切除は、肺以外の臓器に転移がない、主にステージ1・2および3の一部に対して行なわれる基本的な手術だ。一方、部分切除は、体力が著しく低下している場合や、呼吸器・心臓の状態が不良な場合などに適応される。
肺は左右にひとつずつあり、さらにその中で分かれているのが「肺葉」だ。右の肺には3つの肺葉、左の肺には2つの肺葉があり、腫瘍などの病変のある肺葉を切除することで、肺機能を温存する。長谷医師は肺葉切除が必要な人には、患者への負担が少ないことからロボットでの手術を勧めている。ただ、入院日数はロボット手術であっても通常の胸腔鏡などの外科手術と変わらない。
「肺を切除すると心臓に負担がかかるので、術後3日~1週間は心不全を起こす可能性があります。このため1週間程度は入院して様子をみることが必要ですが、私の場合は、胸腔鏡手術と比較するとロボット手術の方が合併症は少なくなっています」
手術支援ロボットは、肺がんのほかに「縦隔腫瘍」に対しても用いられる。縦隔とは左右の肺の間にある空間で、心臓、食道、気管などの重要な臓器が存在し、これらに由来して発生する腫瘍を縦隔腫瘍と呼ぶ。中でも胸腺に由来する腫瘍が多い。良性・悪性を問わず初期には無症状であることが多いが、腫瘍が大きくなった場合や、悪性で周囲に浸潤した場合には、胸の圧迫感や痛み、声のかすれなどの症状が現れることがある。製鉄室蘭記念病院では年間の手術件数は約20症例だった。
充実するカレスの呼吸器診療
カレス記念病院は、社会医療法人社団 カレスサッポロの「時計台記念病院」と「北光記念病院」を移転統合して昨年4月1日にオープン。院長には北大病院長や北海道医療大学の学長を歴任し、ピロリ菌研究の第一人者として知られる浅香正博医師を迎えた。320床全てが洗面台、シャワー、トイレを備えた個室で差額ベッド代が不要な療養環境。また血管内治療と外科手術を同時に行なえる「ハイブリッド手術室」を導入し、3Dナビゲーションを活用した精密な治療を可能にするなど、医療の高度化と情報化を進めたインテリジェントホスピタルを標榜している。
こうした中で昨年10月に開設したのが、これまでなかった呼吸器内科と呼吸器外科。呼吸器内科には現在、医師が2人いるが、来たる8月には1人増えて3人体制になる。
「呼吸器外科は現在の所、私1人ですが、まずは呼吸器内科の体制をしっかり整えてから、手術の適応となる患者さんを外科で受け入れていきたい。当院はオープンしてから日も浅く、ロボット手術が稼働したのは昨年11月からです。まずは、呼吸器診療全般の強化に最優先で取り組んでいきたい」と意欲を見せる。
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