中村記念病院 脳血管内治療センターで指揮を執る荻野達也センター長に訊く
脳梗塞や脳動脈瘤に卓効
低侵襲なカテーテル治療

(おぎの・たつや)2002年札幌医科大学卒業後、中村記念病院に勤務。専門は脳神経血管内治療、脳神経外科救急、脳神経障害、脳卒中の外科的治療、内科的治療。脳神経外科部長、脳卒中センター副センター長、脳血管内治療センター長。日本脳神経血管内治療学会専門医・指導医、日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医・指導医。48歳
Medical Report
札幌の都心部に立地し、国内屈指の脳神経外科専門病院として知られる社会医療法人医仁会 中村記念病院(中村博彦理事長・院長/ 499床)。脳卒中をはじめ未破裂の脳動脈瘤や脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、頚動脈狭窄症などの治療を手がける同院だが、近年は開頭などによる外科手術から低侵襲な脳血管内治療への転換が顕著となっている。同院の脳神経外科部長で、脳血管内治療センター長を務める荻野達也医師(48)に、最新の「WEB留置術」など進化が目覚ましいマイクロカテーテルを使った治療法について訊いた。
(2月17日取材 工藤年泰・武智敦子)
兼ね備えた安全性と治療効果
外径が直径1ミリ未満のマイクロカテーテルと呼ばれる細い管を脳内の血管に挿入し、未破裂の脳動脈瘤などさまざまな脳神経疾患にアプローチする脳血管内治療は、患者の負担が少なく安全性の高い治療だ。
例えば血管が血栓で詰まり脳の一部がダメージを受ける脳梗塞の治療も、近年はカテーテルで血栓を取り除いて血流を回復させる「血栓回収療法」が主流になっている。昨年は同院で200件弱あった脳血管内治療で約70件が血栓回収療法だった。
荻野医師は「治療機器がどんどん進化し、私たち医師の経験も蓄積されています。低侵襲で予後の良い脳血管内治療は今後ますます増えていくと思います」と話す。
脳動静脈奇形は脳内の動脈と静脈が血管の塊で直接つながった脳血管の異常だ。通常、心臓から送り出された血液は動脈を通り毛細血管を通じて組織に栄養を与えてから静脈を通って心臓に戻る。しかし、脳動静脈奇形では動脈と静脈が異常血管を介して短絡しており、脳出血を起こす恐れがある。これにはカテーテルから液体塞栓物質を注入する治療法が有効だ。足の付け根や手首の血管からカテーテルを挿入し、レントゲンと造影剤で透視しながら病変部に導入。液体塞栓物質を注入して異常な血管を閉塞させる。
脳を包み込む硬膜の動脈と静脈が直接つながる硬膜動静脈瘻の治療も、現在では液体塞栓物質を使ったカテーテル治療が行なわれている。
「動脈は拍動する血管なので構造がしっかりしていますが、心臓に血液が戻っていく静脈はあまり丈夫ではない。両者がつながると、圧力の高い動脈血が弱い静脈側に流れてしまうため静脈が膨らんで出血したり、本来流れていかない方向に逆流する静脈還流障害を起こすこともあります。液体塞栓物質による治療は、こうした硬膜動静脈瘻にも有効です」(荻野医師、以下同)
入院日数は脳血管内治療なら5日前後となり、開頭手術の半分程度の日数で退院できるという。
「手術を受けた後の負担が少ないため、手術した当日に普通に歩く患者さんもいます。脳梗塞、特に脳塞栓は高齢者に多い病気ですが、脳血管内治療は年齢に関係なく行なうことができます。ただし大動脈自体に病気があるケースでは、カテーテル操作そのものがリスクになるので向かないこともあります」

ステントリトリーバーと吸引カテーテルで取り出された脳血管内の血栓

籠状の金属メッシュが脳動脈瘤の塞栓機器として働くWEB(画像提供:テルモ)

脳底動脈瘤にWEBを誘導する

内頚動脈に大型動脈瘤を認める(矢印)

フローダイバーター(青色の部分)
留置後に動脈瘤が消失
ステントリトリーバーと吸引カテーテルで取り出された脳血管内の血栓
籠状の金属メッシュが脳動脈瘤の塞栓機器として働くWEB(画像提供:テルモ)
脳底動脈瘤にWEBを誘導する
内頚動脈に大型動脈瘤を認める(矢印)
フローダイバーター(青色の部分)
留置後に動脈瘤が消失
画期的な動脈瘤治療「WEB」
この脳血管内治療は日進月歩で進化している。例えば、脳の血管が枝分かれする分岐部にできた動脈瘤の治療については、以前からプラチナ製の細長い糸状となった「塞栓コイル」をマイクロカテーテルで挿入し瘤を閉塞させる「コイル塞栓術」が行なわれている。
しかし現在では動脈瘤内にメッシュの金属でできた袋状の塞栓デバイスを留置する「WovenEndoBridge(WEB)留置術」が最新治療として登場しており、同院にも導入されている。WEBでは、この袋状の塞栓デバイスが動脈瘤の入り口を閉塞して血流を止め短時間で治療を完結することができる。
このほか動脈瘤の種類によっては、瘤のネック(入り口)を覆うように「フローダイバーター」というメッシュでできた筒状のステントを留置する方法もある。
コイル塞栓術では、複数の塞栓コイルを入れて動脈瘤を閉塞するが、ネックの広い動脈瘤の場合はコイルを固定するためのステントを血管内に留置することもある。これに比べて先述のWEBはひとつのデバイスで完結でき、治療時間を短縮することができるだけでなく、術後の抗血小板薬内服が原則不要という大きなメリットがある。
「WEBは未破裂の動脈瘤だけでなく破裂動脈瘤に使うこともできます。血管そのものが膨らみ詰められない動脈瘤でも筒状のフローダイバーターで病変部をカバーし血管の内皮化を得ることで、動脈瘤を治療することができます」
先述の血栓回収療法についても進化が見られる。脳血管に詰まった血栓を捕捉し対外へ取り出すための医療機器「ステントリトリーバー」を使う方法が主流だったが、今は吸引カテーテルを併用することで、血栓を取り逃がすことを防いでいる。
「発症してからそんなに時間が経過していない、あるいは症状は重く出ているが、発症後1~2時間しか経っておらず完全に脳梗塞になっていない状態で血栓回収療法ができれば症状は劇的に改善します」
荻野医師は同院で脳卒中などの外科手術にも携わってきたが、現在は手掛ける半数以上が脳血管内治療だ。脳血管内治療センターでは、荻野医師ら脳血管内治療のエキスパート約10名がくも膜下出血や脳梗塞などの緊急疾患に24時間対応している。
「センターの開設以来、札幌はもとより道内各地から多くの患者さんを受け入れており、紹介状がなくても受診は可能です。私たちの目標は脳血管内手術を多く行なうことではなく、一人ひとりにとって最も負担が少なく、かつ質の高い医療を提供することなのです」
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