「さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック」に乳がん検診の必要性と治療トレンドを訊く
早期発見なら怖くない乳がん
トリプルネガティブにも朗報

2025年02月号

最新の知見を踏まえた治療に取り組む亀田院長

(かめだ・ひろし)1980年北海道大学医学部卒業。同大第一外科入局、小児外科・乳腺甲状腺外科の診療と研究に従事。2001年麻生乳腺甲状腺クリニック開院。17年6月に法人名・施設名を医療法人社団北つむぎ会 さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニックに改称。日本乳癌学会専門医、日本外科学会専門医、日本がん治療認定医療機関暫定教育医・認定医、アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)会員、医学博士

Medical Report

乳がんは日本女性が最も多く罹患するがんで、生涯罹患率は50年前の50人に1人から近年は9人に1人と増加の一途をたどっている。一方、検診率はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも日本は低く、乳がん検診をどう普及させるかが社会課題となっている。この状況を変えていくにはどうしたらいいのか──。乳がん治療のエキスパートで医療法人北つむぎ会「さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック」(札幌市北区・19床)の亀田博理事長・院長に乳がん検診の必要性と喚起策、乳がん治療の実際、ADC(抗体薬物複合体)といった最新の治療法を訊いた。乳がん治療に現れた新たなゲームチェンジャーの光と影にも注目だ。

(12月20日取材 工藤年泰・武智敦子)

早期乳がんの発見に寄与するマンモグラフィー

多くの医療機関での使用が待たれる「エンハーツ」(画像は第一三共のホームページより)

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乳がん検診の必要性とトレンドを「さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック」に訊く

戦後に激増した乳がん


 日本女性に最も多い乳がんは早期発見、早期治療が要となる。40歳からの女性の罹患率が高いため、各自治体は40歳以上を対象に乳がん検診を実施している。ただ、日本の乳がん検診率をOECD加盟国38カ国で比較すると、最も検診率が高いのは欧米で1位がアメリカの76・5%、次いでイギリスの74・2%で、日本は44・6%と加盟国の中でも低い水準であることが分かる。
 さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニックの亀田博院長は「韓国の65・9%と比べても日本の検診率の低さが分かります。日本の乳がん検診は自治体が行なうものが約28%で、それ以外は会社での検診や個人が受ける人間ドックです。日本の受診率が低い理由は、乳房を露出するのを恥ずかしいと感じる人が多いことや、乳房のエックス線検査をするマンモグラフィが痛いと思っているからでは」と説明する。
 欧米での検診率が高いのは、元々乳がんに罹患する人が多かったことが背景にある。一方、50年前の日本は乳がんの患者が少なく生涯罹患率は50~60人に1人程度しかいなかったが、戦後になると患者が増え続け今では9人に1人が乳がんに罹患するようになった。これは、アメリカの8人に1人に迫る勢いだ。
 原因は何か。
「食生活の変化が大きいと考えています。戦後は肉食が増え学校給食でも牛乳を飲むようになり、高たんぱく高脂肪の食生活に変わった。かつて日本のハワイ移民を対象に行なった移住数十年後の調査では、乳がんの割合は15人に1人でした。当時、日本人の乳がんは30人に1人程度だったのでハワイでは倍に増えています。こうしたことからも、アメリカナイズされた食生活で乳がんが増えたのは間違いないと思います」(亀田院長、以下同)
 日本で増える乳がんだが、悲観することはない。腫瘍の大きさが2センチ以下で脇のリンパ節への転移がないステージ1では、術後10年の無再発生存率は99%に上る。早期発見すればほとんどが完治するということだ。
 検診などで見つかった乳がんの治療は手術、抗がん剤、放射線があるが、最近は早期であればがんを熱で死滅させる「ラジオ波焼灼療法」が高い効果を上げている。治療はエコーで確認しながら患部に針を刺し、ラジオ波の電波を流し熱で腫瘍を焼灼させるもの。元々は早期の肝がんの治療に用いられていたが、乳がんでも2023年12月から保険医療として北海道大学病院、北海道がんセンターで行なわれるようになった。

右側の丸く白い部分が乳がん組織
(マンモグラフィーの診断画像)

右側の丸く白い部分が乳がん組織
(マンモグラフィーの診断画像)

早期乳がんの発見に寄与するマンモグラフィー

多くの医療機関での使用が待たれる「エンハーツ」(画像は第一三共のホームページより)

タイプ別に進化する治療


 実際の乳がん治療について説明しよう。まず、乳がんはおとなしいものから増殖が活発なものなどさまざまで、基本的に次の5つのサブタイプに分類される。
 乳がんで最も多いタイプは、「ルミナル・タイプ」というホルモン受容体陽性のもので、ホルモン剤が効き腫瘍の増殖能力が低いものは「ルミナルAタイプ」。ホルモン剤は効くが、腫瘍の細胞分裂が盛んなものについては「ルミナルBタイプ」と呼ばれる。さらに、ホルモン受容体が陰性でがん細胞の表面に存在するたんぱく質であるHER2が陽性の「HER2タイプ」。ホルモン受容体と、HER2がどちらも陽性の「ルミナル-HER2タイプ」。そしてホルモン受容体とHER2たんぱくのいずれも持たない「トリプルネガティブタイプ」がある。
「ルミナルAタイプ」は活動がおとなしいため、ほとんどがホルモン治療で済むが、乳房を温存する場合は放射線の照射が必要となる。「ルミナルBタイプ」は、ルミナルAタイプに比べ、増殖能力が高いため多くの場合はホルモン療法に加えて抗がん剤を併用した治療を行なう。
 治療に抗がん剤が必要かどうかは、多遺伝子検査「オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラム」で見極める。この検査では、乳がんの組織から21の遺伝子を取り出し解析。結果は0~100の数値で表し、26点以上なら原則抗がん剤を使う。
 ホルモン受容体、HER2とも陽性の「ルミナル-HER2タイプ」は、ホルモン療法、分子標的薬「トラスズマブ」の効果が期待できる。一方、ホルモン受容体陰性の「HER2陽性」はホルモン受容体を持たないため、ホルモン療法は期待できない。このため、治療には分子標的薬と抗がん剤を併用する。
 分子標的薬のトラスズマブは、乳がんの15%で存在する受容体のHER2とがん細胞が結合するのを阻止することでがん細胞の増殖を抑えることができる。
「細胞膜にはHER1~4までの増殖因子に関する受容体があり、トラスズマブが入ってくるとHER2のみに結合し他の細胞を傷付けずにがんを退治する仕組みです。乳がんは治らないとされた時期もありますが、この薬ができてから劇的に完治するようになりました」
「トリプルネガティブタイプ」は、ホルモン受容体もHERたんぱくのいずれも持たない。このため、ホルモン剤も分子標的薬も効かないので、抗がん剤で治療を行う。抗がん剤が効かない場合は、「ADC」(抗体薬物複合体)という分子標的薬に抗がん剤を結び付けた新しいタイプの薬も保険適用となった。

新薬を広く使える体制に


 ADCは文字通り抗体と抗がん剤を合わせた薬で、がん細胞の増殖を促すHER2のあるがん細胞に結合することで、抗がん剤を送り込みがん細胞を死滅させる。この薬は、「HER2陽性」や「HER2弱陽性」の他にホルモン剤が効くタイプの「ルミナル」タイプの再発やトリプルネガティブタイプの再発にも使うことができる。
 亀田院長は、「ADCが登場したことで薬物治療の選択肢が広がり、治療が難しかったトリプルネガティブ乳がんについても効果を発揮するようになりました。従来の抗がん剤はがん細胞だけでなく正常な細胞にダメージを与えるため、吐き気が抜け毛、全身倦怠などの強い副作用が出ていましたが、ADCはこうしたダメージがかなり減っているので、抗がん剤やホルモン剤などさまざまな治療を受けてきた女性にとって朗報です」と高く評価する。
 ADCの中でも保険収載されている「エンハーツ」(ハーセプチン+デルクステカン=抗がん剤)は2020年に日本で開発された抗HER2薬で、再発した乳がんでHER2陽性だけでなく、HER2の発現が少ないHER2(1+)、HER2(2+)でも使うことができ、「良く効く薬」として世界中で話題になっている。
 一方で課題もある。現在ADCで治療できるのは大学病院やがんセンターなどの医療機関などに限定され、呼吸器内科の専門医が常駐することも条件となっている。つまり中小規模の医療機関ではADCを使った治療はできないということだ。
「薬の発売1週間前に、大学病院やがんセンターの重鎮が間質性肺炎で患者が1人亡くなっているとして使用に制限をかけたためです。このため使用できる医療機関が限定され、我々のようなクリニックではADCを扱えなくなりました。私は、裏で厚労省が使える病院と使えない病院を分けるため動いたのだと見ています。これは医療の分断であり、ひいては患者の分断にもつながります。日本医師会はこのような状況に手を打つべきですし、開発した製薬会社も国に働きかけるべきです」と亀田院長は憤りを隠さない。

動機付けが検診率向上のカギ


 低い水準にある日本の乳がん検診率を上げるために何か秘策はないか。札幌市は10月を「乳がん普及月間」とし啓発活動を行なっており、市内で40歳になった女性にクーポンを郵送。それを使うと通常5千円かかる検診料が無料になる。ただ無料で乳がん検診(子宮がん検診とのセット)を受けることができるのは1回だけ。
「クーポンが来ても検診を受けない人がたくさんおられる。以前、札幌市は検診を受けなかった人に対して5年おき、60歳までクーポンを配布していましたが、今は行なっていません。欧米は早期発見、早期治療により乳がんで死亡する人が減りましたが、日本はまだ死亡者が増えていくと思います。乳がん死を減らすには検診を増やすしかありません」
 国の資金を原資に全国の市町村はクーポン配布などに取り組んでいる。まずこれらを使わない手はない。
 乳がん検診を増やすために、亀田院長がイメージしているのはクーポンを手にした人が「ナッジ(※相手に気づかれないよう選択を誘導する手法)理論にもとづき、行かなければ損」と思えるような動機付けだという。例えば、検診をした人に札幌の地下鉄、バス、市電で利用できるICカードが当たったり、小さな子どもを持つ女性のために子どもを預かる施設を確保するなど検診を身近に感じてもらう工夫だ。
「アメリカの黒人女性やヒスパニック系の女性は経済的に困窮している人が多いため、検診を無料で受けることができます。我が国の実情に照らして日本でも女性がもっと気軽に検診を受けられる動機付けがほしいところです」
 乳がんの発症リスクは40代から60代が台形状に高い。乳がんを早期に発見し適切な治療を受けるためには検診を受けるしかない。さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニックでは札幌市在住の40~50歳未満の女性であれば、マンモグラフィ2方向で1800円。50歳以上は1方向1400円でがん検診ができる。国の指針によると、検診で正常であれば2年に1度のチェックでいい。
 乳がんの早期発見のメリットは、この疾患で亡くなるリスクが大きく減ること。そのためにも、乳がん検診を受けて自分の希望する治療法を探ることが大事だ。


医療法人社団北つむぎ会
さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック

札幌市北区北38条西8丁目2-3
☎:011-709-3700
HP:https://www.asabu.com/

旭川 少女凍死事件
再調査を批判する元校長が当時を証言

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道「パワハラ」無かった

「高裁判決は違憲」
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乳がん検診の必要性とトレンドを「さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック」に訊く

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