つしま医療福祉グループの対馬徳昭代表が「ケアテックス札幌24」で講演
地方の介護施設が生き残るため必要な選択と集中とは

2024年11月号

介護事業者に「生き残る道」を熱く語った対馬代表(9月19日午前、アクセスサッポロ)

介護業界における北海道最大級の商談型展示会「ケアテックス札幌24」が9月18日と19日、アクセスサッポロ(札幌市白石区)で開催された。その経営者向け専門セミナーで「少子高齢化、人口減少が加速する日本のこれからの介護」をテーマに講師を務めたのが、我が国における高齢者介護のキーマンと言える、つしま医療福祉グループ(本部・札幌市豊平区)の対馬徳昭代表だ。人口減少が進む奈井江町での事業経験などをもとに、地方の特別養護老人ホームや介護老人保健施設が生き残る方法について説いた対馬代表の示唆に富む直言を紹介したい。

(9月19日取材 工藤年泰・佐久間康介)


人口減の奈井江町での挑戦


 私たち、つしま医療福祉グループは、医療福祉に関わる2つの大きな政策を前提にさまざまなシステムを開発、実践してきました。多くの高齢者が住み慣れた地域、住み慣れた家で過ごすことができるように開発したのが社会福祉法人ノテ福祉会による地域包括ケアです。もうひとつは、社会福祉法人日本介護事業団が開設した「ココルクえべつ」です。これらの取り組みによって高齢者、若年層、障害者、子供、外国人がひとつのコミュニティで生活する共生社会への挑戦を続けています。
 ここでは、これまでの事業の経験から地方の特別養護老人ホーム(特養)と介護老人保健施設(老健)が生き残る方法をお伝えしたいと思います。地方では介護職員がなかなか集まらないほか、入所する高齢者が少ないという課題があります。特養であれば本来は要介護度3、4、5の高齢者が対象ですが、1と2の方々も入所させて定員を充足している施設もあります。ただそうしても要介護度1、2は介護報酬が低いため経営は厳しく、「何か良い方法はないでしょうか」と聞かれることが多々あります。
 私たちの事業地は札幌や江別など道央圏がメインですが、地方が1カ所だけあります。それが社会福祉法人日本介護事業団で運営している奈井江町(空知郡)の施設です。
 地方で高齢者が住み続けるためには病院や診療所といった医療機関、そして特養もしくは老健が必要になります。しかし、この2つだけでは足りません。在宅の高齢者を支える仕組みも必要です。それが小規模多機能型居室介護(以下、小多機)、看護小規模多機能型居室介護(以下、看多機)、それに私どもが開発した定期巡回・随時対応型訪問介護看護などの在宅の高齢者をサポートするサービスが必要なのです。
 奈井江町の施設構成は、特養の「やすらぎの家」と老健の「健寿苑」です。これらは元々は町の施設だったのですが、なかなか良いサービスを提供できないうえ、それぞれの施設で毎年1億円ずつ赤字を出し、町が補填していました。それで当時の町長だった北良治さん(※2021年に死去。8期32年、2018年まで奈井江町長を務めた)から強く要請されて、引き受けることにした。もうひとつの理由は、私が三井美唄の炭鉱街で生まれたからです。閉山した三井美唄の炭鉱労働者の多くが奈井江に移り住んでいました。その縁もあって引き受けることを決めた次第です。
 2つの施設の運営だけではなく、人口減少に歯止めをかけるような役割もさせてほしいと北さんに話して了解をもらい、施設内で看多機を導入したり障害者グループホームを運営するなどして、働き手と入所者を集め、人口減少問題に多少なりとも貢献できる取り組みを進めることにしました。
 引き受けた当時、特養は60ベッド、老健も60ベッドでしたが、とにかく地方で老健を運営するのは大変です。まず老健をどうするかについて議論した中で、20ベッドを特養に持っていき、特養を80ベッドにすることにしました。奈井江町だけではなく広域で入所者を集めることができるため、10年スパンで考えれば、入所者を確保できるだろうという読みがあったからです。
 そのうえで老健をどうするか。20ベッドがなくなって空いたスペースを利用して看多機を設置したのがひとつ。それでもまだスペースがあるので何に使うか、町と話すとサ高住はどうかと言ってきましたが、そこでは経営は成り立ちません。いろいろと考え、障害者グループホームを10室作ることにしました。というのも全国で障害者グループホームが足りていないからです。東京の障害者が東北、北海道のグループホームに入所しているのが実情です。町と相談してその方針が決まりました。

(つしま・のりあき)1953年美唄市出身。83年札幌栄寿会(現ノテ福祉会)を設立し翌年豊平区に特別養護老人ホーム「幸栄の里」を開設。2014年清田区真栄のアンデルセン福祉村に日本医療大学を開学。15年学内に認知症研究所を開設。21年4月に日本医療大学の真栄キャンパスと恵庭キャンパスを創業の地である豊平区月寒東(月寒本キャンパス)に新築移転。同年8月に月寒本キャンパス敷地内に日本医療大学病院を新築移転。社会福祉法人ノテ福祉会理事長。学校法人日本医療大学理事長。つしま医療福祉グループ代表。71歳

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共生型ホームで生き残り


 この時、老健を改修して看多機とグループホームを作るのに合計8800万円の投資になりましたが、経営が成り立たなければ大変な負担です。私どもは看多機を10カ所ほど運営していますが、そのうち業績があまり良くないところを2カ所抽出したところ、それでも年間2300~2700万円くらいの利益が確保できることが分かりました。障害者グループホームでは、この規模で利用者を確保できれば年間900万円くらいの利益が出ます。そうすると合計で3400万円くらいの利益が見込める。
 当初は難しくても、2年間で軌道に乗ればこれくらいの収益を見込めるようになります。そうすると、8800万円を投資しても3年ぐらいで回収ができ、それが終われば利益になって残っていく。これなら大丈夫だと進めることにしました。
 老健を改修して、障害者グループホーム(20室)を導入しましたが、障害者は身体、精神、知的などに分かれていて薬の管理や調整が必要になります。医師がそれをしてくれれば良いのですが、地方では難しい。それで看多機の看護師に見てもらうことにしました。しかし、看多機を障害者が利用した時の共生サービスの単価は低く、看多機は赤字になってしまいます。この問題点は将来的には是正されると思いますが、現状はそうなっていません。
 先ほど要介護度1や2の高齢者も入所させて赤字を出している特養のこと触れましたが。そういうことは止めて、こういう転換をやれば、まだ生き残れる道はあると思います。特養の50ベッドが30しか埋まっていないのなら、障害者グループホームやサ高住を導入するなど、バリエーションを考えていくべきです。
 皆さんは公益的な貴重な社会資源であり、とにかく潰してしまってはだめです。地域の実情に応じて、どのような組み合わせをしていくかを考え実行してほしい。
 これから求められるのは、単なる特養ではだめだということ。共生型ホームという考え方が必要です。地域の実情に合わせて特養の建物と職員を活用すれば、社会福祉法人として地方でもやっていけるはずです。

大勢の関係者で賑わった「ケアテックス札幌’24」

(つしま・のりあき)1953年美唄市出身。83年札幌栄寿会(現ノテ福祉会)を設立し翌年豊平区に特別養護老人ホーム「幸栄の里」を開設。2014年清田区真栄のアンデルセン福祉村に日本医療大学を開学。15年学内に認知症研究所を開設。21年4月に日本医療大学の真栄キャンパスと恵庭キャンパスを創業の地である豊平区月寒東(月寒本キャンパス)に新築移転。同年8月に月寒本キャンパス敷地内に日本医療大学病院を新築移転。社会福祉法人ノテ福祉会理事長。学校法人日本医療大学理事長。つしま医療福祉グループ代表。71歳

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大規模化で統合効果を発揮


 全国的に見ると赤字経営の介護事業者が多く、今年4月の介護報酬改定が私たちが望むようになっていない中で、厚労省が盛んに言い始めているのが大規模化です。
 確かに小規模法人が合併して大きくなれば、さまざまなメリットがあります。しかし、合併に躊躇する事業者も多い。先祖代々の土地を寄付していたり、社会福祉法人の役員は無報酬で退職金規定もない。経営者の身内が働いていて、合併すると職を失なうかもしれない恐れもある。
 しかし、気がついたら銀行から融資を制限され、最終的に資金繰りがショートして倒産してしまいかねません。こういう事態を避けるためには合併、統合が不可欠です。
 厚労省は統合を推進するため、いろいろな施策を考えています。社会福祉連携推進法人もそのひとつ。新たな法人に既存の社会福祉法人をぶら下げる形で、株式会社のホールディングスのようなもので、今年3月時点で全国に21カ所あります。
 法人統合による経費削減効果には、大きいものがあります。本部経費縮減や人材募集費の縮減、紙オムツなど消耗品の一括購入、食材費の合同購入による削減などが期待できる。健全な経営体質である時に統合しなければ意味がありません。経営体力が落ちてきて死に体になってからの合併では、後の祭りです。とにかく今のうちに介護業界が手を結びあって、しっかりした組織体を作っていくべきです。
 介護が主体の社会福祉法人の赤字割合は、2021年が39・4%、22年が44・8%でしたが、現在は60%を超えています。現在の介護報酬は今後2年半続くので、この状況は変わらないでしょう。介護主体の法人の売上げに占める人件費比率は、21年が66・3%、22年が66・3%と横這いでしたが、経費率は25・9%から27・1%に上昇しました。電気代、水道代など今後も経費は上がりますから、赤字法人の割合はまだまだ増えていくと思います。
 事業規模から言うと、売上げが12億円以上になるとサービス増減差額が0・2%~2・3%のプラスになることが分かっています。2法人で12億円に足りなかったら3法人、4法人が合併して12億円以上にすれば黒字になって経営維持ができます。
 合併、統合をする際には監査法人や公認会計士を入れて、決算書類が適切なのかどうか、互いの財務内容を調査をすることが必要です。合併、統合によってそれぞれの法人の長期借入金の総額を組み直し、支払いを繰り延べする方法もあります。減価償却年数の再評価を行ない、償却年数を伸ばすこともでき、その分収益が上がる可能性があります。
 特養は、築40年を過ぎるとあちこちが傷んできて、更新の必要性が出てきます。札幌市で、特養を建設すると1ベッド当たり約350万円の補助が出ます。しかし、建て替えの場合は1ベッド約170万円しか出ません。いま100ベッド規模の特養を建設するには20億円が必要です。建て替えで20億円かかっても、補助は1億7000万円です。これではなかなか建て替えに踏み切れません。せめて新設と同じ額の補助が出るように、札幌市にはしっかり対応してもらいたい。


働く国を外国人が選ぶ時代


 先輩の介護事業者から建て替えの相談を受けることもあります。繰越利益を聞くと3000万円だと。しかし、その額では、特養の建て替えはできません。私どものグループでは毎年2つくらいの特養を建てています。特養の収益だけでは返済が厳しいため、看多機、小多機も併設して、その収益を含めて返済に回しています。いずれにしても潰れてはだめです。何としても残るためには、どうしたら良いかをしっかりと考えることが必要です。
 介護の担い手不足も深刻です。国が試算した2040年の介護職員不足人数は69万人と言われています。この数字も見直しせざるを得ないでしょう。全国の介護士養成施設は大幅に定員を割っている状況です。新しい人材養成が追いつかない中で、69万人の不足では留まらない。私の予測では、おそらく倍以上の介護職員不足になると思います。
 では、担い手不足の解消のためにどうするか。ひとつは高齢者を活用することです。既に介護職員の中には高齢者の従事者が多くなっている施設もありますが、さらに70代後半でも元気な人たちも雇用してベッドメイキングや清掃、食事の盛り付けなどの仕事についてもらうことが必要です。障害者も同様の仕事を、個人の能力に応じて就いてもらうことが必要でしょう。
 3番目が、外国人介護者の活用です。この面では介護事業者の中には様子を見ているところも多いと思いますが、様子を見ていたら手遅れです。もはや勝敗が付きつつあります。
 いまや介護事業者が、どの国の人を介護者として招くかという時代ではありません。すでに外国から来る人たちがドイツへ行くのか、日本に行くのか、シンガポールに行くのか、アメリカに行くのかを決めています。選ぶのは我々ではありません。以前の外国人介護者はベトナムが一番多かったが、いま彼らの目は、給与が高くて生活サポートが日本よりも充実しているドイツに向いています。
 当グループもそうですが、最近はミャンマーからが多い。個人的には、地球上にまだこんなに心が綺麗な人たちがいるのかと思うほどです。当グループでは、約100人が従事しています。外国人介護者を雇うには、日本語能力検定試験N2以上取得の支援や介護福祉士取得の支援、生活支援などの体制を整え、外国人労働者から選ばれる事業者にならなければなりません。
 最後に経営体制の再構築はもちろん、介護する人たちにとって働きやすい事業者になる必要があることを強調しておきたいと思います。残業が多く休みが取れないような事業者はやがて淘汰される。有給休暇を全部消化でき、働きがいのある職場をつくらない限り介護業界の未来はありません。

(構成・編集部)
 

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