道内初導入。診断と治療を一体化した札幌東徳洲会病院の「ハイブリッドER」
3次救急に遜色ない体制で重症患者の救命率をアップ

2024年10月号

「ハイブリッドER」導入後、確かな手応えを感じている松田医師(写真はアンギオ室)

(まつだ・のりふみ)1987年千葉県千葉市出身。2007年札幌医科大学入学。卒業後は静岡県の聖隷三方原病院、同高度救命救急センターを経て2016年に札幌東徳洲会病院救急科に入職。2020年同院放射線診断科(画像・IVRセンター)、2022年から救急集中治療センター部長と放射線診断科部長を兼任。札幌東徳洲会病院初期臨床研修管理委員長、日本救急医学会専門医。36歳

Medical Report

24時間対応の急性期総合病院として知られる、医療法人徳洲会 札幌東徳洲会病院(札幌市東区・山崎誠治院長/336床)で本年4月から「ハイブリッドER」が稼働し、大きな成果を挙げている。ハイブリッドERとは同じ部屋にCT(コンピュータ断層撮影装置)やアンギオ(血管造影装置)などの検査機器を導入し、患者を移動させることなく、スピーディーに検査・診断・治療を行なえる救急救命室。道内の医療機関では初となるハイブリッドERの導入を手掛けた救急科部長の松田律史医師(36)は、「診断と治療を並行して行なえる救急救命体制をさらに充実させ、ひとりでも多くの患者さんを救いたい」と話している。

(8月22日取材 工藤年泰・武智敦子)

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道内初、ハイブリッドERを導入した札幌東徳洲会病院
3次救急に遜色ない体制で重症患者の救命率をアップ

検査・診断・治療を並行して行なえる「ハイブリッドER」


 札幌東徳洲会病院の救急救命室(ER=Emergency Rescue)には、オーバードーズ(薬物の過剰摂取)、アルコール中毒、転倒外傷、交通事故による骨折、心筋梗塞や狭心症などのACS(急性冠症候群)、脳卒中など、さまざまな救急患者が搬送されてくる。その数は年間9千件前後、1日換算では20~30件にのぼる。
 そんな同病院にこのほど導入された「ハイブリッドER」は、「2ルーム型」と呼ばれるタイプ。CTとアンギオの間に扉を設け、普段はそれぞれ独立したスペースとして使用。必要に応じて扉を開け、CTのガントリをアンギオ室に移動できるようになっている。これによりアンギオとCTが一体化したIVR-CTのシステムとなり、救命に必要な検査・診断・治療をシームレス、かつ迅速に行なえる体制が整えられた。
 同病院のこれまでのERでは、搬送された患者がCTなどの検査を必要する場合、別の部屋との間を行き来せねばならず、治療の開始までそれなりの時間を要していた。救急隊の到着からCT撮影までに混雑状況によっては最長で30分以上かかることもあったが、今回のハイブリッドERでは最短で5~10分に短縮されたという。これは救急救命の現場にとって大幅なスピードアップと言ってよく、患者や医療者双方の負担軽減とともに一刻を争う重症患者の救命率向上が図られた形だ。
 今回の導入を主導した同病院の松田律史医師(救急集中治療センター部長)が実例を語る。
「この前、ある病院で血管内治療をしていた中年の患者さんが腹腔内出血を起こし、私たちのハイブリッドERに救急搬送されました。連絡を受け、すぐに治療ができるよう外科医にスタンバイしてもらい、到着後にCT撮影で出血している部位を特定。そのまま止血治療を行ないました。このケースでは、出血が止まらなかったら大動脈遮断ができる準備もしました。救急医療においては検査・診断・治療を迅速、かつ正確に行なうことが何よりも大事。ハイブリッドERはそういう要望に応えるものだと思います」と評価する。
 松田医師がハイブリッドERの導入を考え始めたのは2018年から。2020年からは放射線診断科(画像・IVRセンター)に所属し、レントゲンやアンギオ、CTで体内の中を見ながら血管に管を通すカテーテル治療などを行なうIVR(画像下治療)に携わっていた。その中で「IVR-CTがあれば画像下治療をより迅速かつ安全に治療できる」という声も出ていたが、部屋の面積の問題などもあり導入は難しかった。従来の手術室にIVR-CTを導入するという話もあったが、手術室でのCT撮影も現実的には難しい。
 その一方で救急部門からは病院内の動線の悪さが指摘されていた。救急外来からレントゲンなどの一般撮影を行なう部屋まで遠かったうえ、カテ室は2階でCT室は1階。この中で出血性のショック状態で血圧の低い患者を移動させるのはリスクがあった。さらに病院フロアは絨毯張りなので、患者を載せたストレッチャーの移動もスムースというわけにはいかなかった。
 こうした環境は治療のスピードやスタッフのモチベーションにも影響する。救急救命室自体を再設計すべきという考えに松田医師が傾いていったのは、ある意味必然だったと言える。

CTをアンギオ室にスライド移動しIVR-CTとして利用する(写真は同病院提供)

「ハイブリッドER」に到着した救急車

ERの入口からアンギオ室に直進できる動線になっている

CTをアンギオ室にスライド移動しIVR-CTとして利用する(写真は同病院提供)

「ハイブリッドER」に到着した救急車

ERの入口からアンギオ室に直進できる動線になっている

一刻を争う患者の治療に何より求められるスピード感


 札幌市内には重症・重篤の救急患者に対応する3次救急の医療機関として北大病院、札幌医科大学附属病院、市立札幌病院、北海道医療センター、手稲渓仁会病院があるが、総じて市内中心部と西側に偏っている。
 札幌東徳洲会病院は2次救急の医療機関に位置付けられているが、今年4月にハイブリッドERを導入してから、早急な診断・治療が求められる交通事故による大怪我や虚血性心疾患、大動脈解離といった重症患者をこれまで以上に受け入れることが可能になった。
「例えば大学病院はマンパワーが潤沢で設備も整っていますが、3次救急のキャパシティが少ないため受け入れが厳しいというのが実情。であれば札幌東徳洲会病院に3次救急相当、ないしはそれを超える施設を整備し、私たちが担えるようになればいいのではと。コロナ禍前の2018年12月に上司にそういう考えを伝え、病院全体のコンセンサスを得るため設立準備委員会を立ち上げました。そこで私の構想やデザインについての説明を続け、ようやくゴーサインが出た流れです」
 松田医師によると、救急専門医は救命に必要な検査・診断・治療を1カ所で行なえるハイブリッドERのスピード感を評価しているが、実際の治療に当たるIVR医は「発症から治療まで」の時間を重要視し、検査はあくまでも「プロセス」だと考えるという。
「従来のERの中にCTを設置するという話もありました。そうすると診断までの時間は短くなっても、それから先の治療は別ユニットになるの時間がかかる。そのような環境では、急いで開腹手術をしなければならない患者さんが来ると間に合わなくなります。今回はERで開腹手術などを行なえる環境をつくるためCTやアンギオ、レントゲン、カテーテル全てを揃えました。患者さんをCTで撮影し、出血が認められ治療が必要であれば患者や家族にその旨を説明して、すぐに治療を始める。このスピード感が大事なんです」と松田医師は強調する。
 ハイブリッドERではスペースを従来の約1・5倍となる約1000平方メートルに拡大。動線にもこだわり、搬入口からそのままアンギオ室に直進できるようにした。4つある診療スペースは全て個室用にレイアウトするなど患者のプライバシーにも配慮したデザインに。またハイブリッドERは救急だけではなく、通常診療での使用も想定した造りになっており、救急患者とは別の入室経路も確保されている。

ICUの再整備でさらに進化する「札幌東」の救急救命医療


 医療法人 徳洲会の創設者で初代理事長の故・徳田虎雄氏は幼い弟を病気で失った経験から医師を目指し、「断らない医療」を掲げたことで知られる。その徳洲会グループの札幌東徳洲会病院は、文字通り「24時間365日」の体制で救急患者を受け入れている。
 千葉県出身の松田医師は、札幌医大に2007年に入学。卒業後は静岡県の聖隷三方原病院勤務を経て2016年に札幌東徳洲会病院に入職した。
「入職時は『命だけは平等だ』という徳田先生のDVDを見て感想文を書いていました。こういう仕事をしていた人が世の中にいるんだというのが率直な感想で、大学の価値観とは全く違い、自分のやりたい医療がこの病院にはあると思いました」
 急患の受け入れもさることながら札幌東徳洲会病院では、日中に病院を訪れることのできない患者のための「夕診」、つまり午後5時から7時までの夕方診療も行なっている。
「夕診は徳洲会のグループ病院としてのタスク(やるべき仕事)になっています。勤務を終えた患者さんが受診でき、通常の内科や外科で治療を受けられる体制は、私には新鮮で珍しかった」と振り返る。
 当時のERについてはどう考えていたのか。以前に勤務していた静岡県の聖隷三方原病院は、900床以上の大きな病院だったこともあって救急患者の受け入れを断ったことがなかった。
「聖隷三方原病院は潤沢なベッド数がありましたが、こちらは救急搬送の数が非常に多いのに300床程度でいつも満床に近い状態。どうしたらいいのかと頭を抱えていたら、上司から『ベッドはベッド、救急は救急だから』と言われ、この状況でどうしたら受け入れを断らずに済むかを考えるようになりました。救急患者の中には、CPA(心肺停止)といった重症者もいますが、入院の必要のない軽症者も少なくありません。満床だから断るというのは、必ずしも理由にならない。医療者は治療を待っている患者さんに手を差し伸べるのが使命です」
 医学部に進んだのは研究者を目指していたから。がんや神経難病の研究をしようと、卒業後は初期研修を受けながらラボに通うというビジョンを持っていたが、転機が訪れたのは4年の時だった。
「たまたま学会で知り合った同学年の学生がすごく優秀で、こんな人がいるなら私が研究者になるよりも臨床医療に進んだほうが世のためになるんじゃないかと。丁度その頃、大学で臨床研修が始まったことも進路を決める追い風になりました」
 今後の目標としては、「まずは、私がいなくてもハイブリッドERがうまく回るようになること」とし、松田医師は病院全体としてこの先進的な救命救急施設を使いこなしていくことが大事だと強調する。
 現在、札幌東徳洲会病院では今年12月までの完成を目指し、ICU(集中治療室)とHCU(高度治療室)の増改築工事も進められている。ICUは生命の危険があり、集中治療が必要な患者が入室する病棟で、HCUはICUの患者ほど救急度は高くないものの、急変のリスクがある患者を扱う病棟という位置付け。今回のハイブリッドERとの連携という意味でもICUとHCUの整備は重要な意味を持つ。
 外傷や脳卒中、血管内治療など急性期患者の受け入れは札幌東徳洲会病院の大きな要でもある。同病院における救急救命医療のさらなる進化に期待したい。


医療法人徳洲会
札幌東徳洲会病院

札幌市東区北33条東14丁目3-1
☎:011-722-1110
HP:https://www.higashi-tokushukai.or.jp/

通信大手元幹部の不動産投資詐欺を追う

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市が虐待認識を否定

道内初、ハイブリッドERを導入した札幌東徳洲会病院
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