中村記念病院の大竹安史センター長に頸椎椎間板ヘルニアと頸椎症の治療を訊く
首の可動性を温存し再発を予防する人工椎間板置換術

2024年05月号

頸椎関係の疾患で多くの治療実績を有する大竹センター長

(おおたけ・やすふみ)1979年福島県出身。2007年札幌医科大学卒業後、中村記念病院に勤務。脊椎脊髄・末梢神経センター長、脳神経外科副部長。専門は脳神経外科全般のほか脊椎脊髄抹消神経外科。日本脳神経外科専門医・指導医、日本脊髄外科学会認定医・指導医・代議員、脊髄外科専門医、日本脳神経外傷学会指導医・学術評議員・代議員、術中脳脊髄モニタリング認定医。45歳

Medical Report

札幌の都心部に位置し、国内屈指の脳神経外科専門病院として知られる社会医療法人医仁会 中村記念病院(中村博彦理事長・院長/499床)が頸椎椎間板ヘルニアや頸椎症の治療で成果をあげている。中でも「人工椎間板置換術」は、従来のインプラントによる固定術と違って首の可動性が損なわれず再発の可能性が少ないのが特徴だ。同病院の脊椎脊髄・末梢神経センター長を務め、頸椎疾患のエキスパートである大竹安史医師は「メリットやリスクを理解した上で治療を受けてほしい」と呼びかけている。

(3月18日取材 工藤年泰・武智敦子)

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半端ではない神経の痛み


 首の骨である頸椎は7つの椎骨で構成され、頭部を支えると同時に脳からつながる脊髄の通り道でもある。椎骨と椎骨の間にあるのが椎間板と呼ばれる軟骨で、重たい頭を支えるクッションのような役割をしている。
「頸椎椎間板ヘルニア」はこの椎間板が飛び出し神経を圧迫する病気で、加齢などで椎間板の水分が減り負担がかかることや、仕事やスマートフォンの操作などで長時間同じ姿勢でいたり、スポーツが引き金となることもある。30代に多く、症状は首や腕のしびれ、筋力低下など、ひどくなると歩行障害が出ることも。
 一方の「頸椎症」は加齢などにより椎間板に変性が生じ、頸椎を通る神経が圧迫されることで起こり、圧迫される神経の場所によって「頸椎症性神経根症」と「頸椎症性脊髄症」がある。
 前者の神経根症は、椎間板の変性などで関節部の骨が増殖してできる骨棘が神経根を圧迫することで発症。症状は首と肩の凝りや痛みに加え、腕や指先のしびれ、痛み、重症化するとマヒなども見られる。
 後者の脊髄症は大きくなった骨棘が脊柱管の中に飛び出して脊髄を圧迫するなどして起こる。症状として首から下肢の広範囲にしびれや痛みが見られ、重症化すると歩行が困難になる。
 これらの「頸椎椎間板ヘルニア」と「頸椎症」は、初期なら投薬や神経ブロック注射による保存療法やリハビリが有効だが、改善せず歩行障害がある場合は手術が選択肢となる。
「腕を切り落としてほしいと訴えるほど強い痛みを感じる人もおり、神経の痛みは半端ではありません。保存療法で改善せず、痛みで夜も眠れない人には早めに手術することを勧めます」(大竹医師、以下同)
 その手術には「頸椎前方除圧固定術」と「頸椎人工椎間板置換術」がある。頸椎前方除圧固定術は、首の前を3~5センチ切開して食道や気道、頸動脈を避けながら病変部(椎間板)を取り除き、骨棘を削った後に、空いた椎間板のスペースをインプラントでつなぎ固定するものだ。
「この手術は1950年代から行なわれており、脊髄や神経根への圧迫を取り除き安定化させることで症状の改善が期待できます。ただ椎間板が固定されるので、首の可動性が少し失われるという欠点があり、固定している分、周囲に負担がかかり再発する懸念もありました」

人工椎間板置換術を受けた患者のレントゲン写真と人工椎間板のイメージ

人工椎間板置換術の様子

人工椎間板置換術を受けた患者のレントゲン写真と人工椎間板のイメージ

人工椎間板置換術の様子

人工椎間板置換術のメリット


 この“首の可動性”を残すことができるのが、椎間板を摘出したスペースに金属製の人工椎間板をセットする「頸椎人工椎間板置換術」だ。この術式では可動性が温存されるため他の椎間板への負担が少なく再発のリスクを低減できるメリットがある。
「3時間で手術は終わり翌日には歩くこともできますが、1週間程度の入院が必要です。ただわずか5ミリほどの狭い隙間に人工椎間板を埋め込む難易度の高い術式で、ミリ単位の削り残しも許されません」
 対象となるのは、成人で椎骨が成熟しており健常な状態であること、保存療法を3カ月以上行なっても症状が改善しない、脊髄神経が圧迫され手の運動障害や歩行障害が起こっている、そしてCTやMRIなどの画像診断で医師が必要と判断した場合だ。対象外となるのは、脊椎腫瘍や外傷、感染症などがある人や著しく骨が弱く損傷・変形している人、インプラントにアレルギーがある人などで、手術を検討する患者の3%程度しか適応にならないのが現状だという。
 頸椎人工椎間板置換術は、欧米では1990年頃から臨床での使用が始まった。アメリカでは2007年に食品医薬品局(FDA)の承認を得て年間約1万症例の実績がある。現在は世界約20カ国で導入されており、日本では2017年に承認され、19年に保険収載されている。
「この術式に限らず、脊椎脊髄手術全般は神経領域を扱うので、世界的に脳神経外科で行なっている国が多い。アメリカでは、どんな症状であってもまず、かかりつけ医を受診し、手術が必要であれば外科を紹介されるシステムなので脳神経外科領域の手術の8割は脊椎関係です。しかし、日本は患者が自分で病院を選ばなくてはならない。イメージ的に骨の病気なので整形外科を受診する人が多く、脳神経外科でこの治療を行なう施設は意外に少ない」
 手術付近に気管や食道、頸動脈などがあるため不慣れな医師には難しい。施設基準も厳しく、日本脊髄外科学会指導医が常勤し頸椎前方除圧固定術の経験が20症例以上あるなどの要件がある。
 大竹医師は、「頸椎人工椎間板置換術は患者さんの理解が必要な治療です。若い人にとっては選択肢のひとつでもあるので、メリットやリスクを理解した上で手術を受けてほしい」と呼びかけている。


 1967年に日本初の脳神経外科単科病院として開院。数多くの専門医を育てたことでも知られる中村記念病院は、同分野の疾患を総合的に診療する医療機関として24時間365日体制の救急体制を整備。各分野の疾患を正確かつ安全に治療するためセンター化を進め、「脳卒中センター」「脳腫瘍センター」「MVD(微小血管減圧術)センター」「神経内視鏡・下垂体センター」「ガンマナイフセンター」「脊椎脊髄・末梢神経センター」を設け、循環器内科など他の診療科と連携しながらチーム医療にも力を入れている。
 大竹医師は福島県出身。サナトリウムで結核患者の治療に尽力する祖父母の後ろ姿に刺激され医師を志し、札幌医大に進学。脳神経外科に進んだのは救急医療に関心があったからだという。医大卒業後は中村記念病院に赴任し、現在は「脊椎脊髄・末梢神経センター」センター長と脳神経外科副部長を兼任。年間150症例の手術を手掛けるベテランだ。


社会医療法人医仁会
中村記念病院

札幌市中央区南1条西14丁目
☎:011-231-8555
HP:https://www.nmh.or.jp/

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