坂泌尿器科病院に道内初導入された放射線治療装置「ハルシオン」の実力
高まった治療精度と利便性
前立腺など様々な癌に対応
ハルシオンの傍らで今後の展開に意欲を見せる原田センター長
(はらだ・けいいち)埼玉県出身。2008年北海道大学医学部卒業。北大病院で2年間の臨床研修後、同病院放射線治療科に入局。恵佑会札幌病院を経て17年に北腎会坂泌尿器科病院が運営する「脳神経・放射線科クリニック」に入職。23年11月に同病院「放射線治療センター」センター長に就任。放射線治療専門医、放射線科専門医
Medical Report
全国有数の泌尿器科専門病院として知られる社会医療法人北腎会 坂泌尿器科病院(坂丈敏理事長・院長/札幌市西区・59床)。昨年11月、同病院が開設した「放射線治療センター」に道内初導入され注目を集めているのが、がんを対象にした最新鋭放射線治療機器「ハルシオン」だ。これにより画像撮影時間は従来の10分の1、治療時間も大幅に短縮されたほか、センターには最新鋭の MRI「グラシアン」も導入されている。同センター長の原田慶一医師は「ハルシオンは前立腺がんだけでなく骨転移がんや乳がん、肺がんなどにも対応でき、グラシアンとの相乗効果も期待できます。今後はいっそう、がん治療を手がける他の病院と連携していきたい」と意欲を口にしている。
(3月21日取材 工藤年泰・武智敦子)
放射線治療の切り札ハルシオンへの期待
昨年11月、坂泌尿器科病院の「放射線治療センター」に道内初導入されたのが放射線治療機器「ハルシオン」だ。
このハルシオンは、アメリカのバリアンメディカルシステムズ社が手掛ける最新鋭の放射線治療機器。複雑な形状の病変に合わせコンピュータ制御で放射線を照射できる「強度変調放射線治療」(IMRT)に特化した医療機器で、「強度変調回転照射法」(VMAT)を採用し、連続撮影が可能なコーンビームCT(コンピュータ断層撮影装置)が組み込まれている。
このコーンビームCTの働きにより、変化する病変の位置補正や周辺の正常な臓器の状態を確認できる再現性の高い画像誘導放射線治療(IGRT)が可能。これらにより従来より照射時間が短くなり、全体の治療時間も短縮された。
同センターの原田慶一センター長は、「ハルシオンによる実際の照射時間は1、2分で終わりますので、従来20分かかっていた放射線の治療時間は10分程度に短縮されました。また、コーンビームCTは動く臓器を正確に追いながら病巣の位置を撮影できるので、これまで以上に安全かつ精度の高い診断、治療ができるようになりました」と説明する。
ハルシオンは、リニアモーターによる静かな動作音をはじめ患者が入る開口部の直径も圧迫感がないよう1メートルと広く取っているなど、がん治療に不安を感じる患者のストレスを軽減。安全安心な治療環境を提供している。
ハルシオンと同時に導入されたのが、こちらも最新鋭のMRI(磁気共鳴画像法)装置「グラシアン」。強い磁力で体の内部を画像化するグラシアンでは全身拡散強調画像(DWIBS=ドゥイブス)の撮影ができるようになり、病変部だけでなく周辺のリンパ節や骨などへの転移を被曝することなく安全に検査することが可能になった。
同センターではMRI融合前立腺生検システム「トリニティ」(TRINITY)も導入しており、これをグラシアンと連動させている。
これまで前立腺がんの確定診断は、針生検で病変部の一部を採取し顕微鏡検査でがん細胞を確認。医師は事前に得られたMRIの画像を踏まえ、エコー(超音波画像)を見ながらがんと思われる場所を14カ所穿刺していたが、それでも発見できないことがあった。
最新鋭のMRI「グラシアン」
MRI融合前立腺生検システム「トリニティ」
坂丈敏理事長・院長
MRIとの組み合わせで骨転移がんも検査し治療
今回、グラシアンの導入によりMRI画像を超音波診断装置内に取り込み、MRIとエコーの画像を融合。前立腺がんの疑いのある部位を立体的な映像にすることで、より正確な針生検が可能になった。
「グラシアンの導入による副次効果として、MRI画像融合で前立腺針生検ができることによって陽性率が上がっており、針生検で前立腺がんの確定診断となる患者さんが増えてきました」(原田医師、以下同)
11月にグラシアンとハルシオンを導入してから3月21日までに同センターで検査を受けたのは104人で、治療を開始したのは98人に上る。この9割以上は前立腺がんの患者だ。
同センターの前身「脳神経・放射線科クリニック」の年間患者数は150人前後で、そのうち前立腺がんは100人ほど。5カ月足らずで過去における1年間の症例数を達成しており、精度の高い検査と最新の放射線治療機器の効果が見てとれる。
「以前のクリニックでは、前立腺がんの骨転移を調べるため放射線を出す薬を注射し全身を撮影する骨シンチグラフィー検査をしていましたが、被曝のリスクもあり何回も検査することはできませんでした。
しかし、ドゥイブスと言われる全身拡散強調画像を導入したことで、全身の骨の状態をMRIの画像で確認することができるようになったことは大きく、骨に転移したがんについてもハルシオンで治療ができます」
ハルシオンは泌尿器科領域のがんだけでなく、ほとんどのがんに有効で特に首から下の乳がん、肺がん、食道がん、すい臓がんなどの治療にも効果を発揮する。
「札幌市内では、それぞれの医療機関で陽子線など特徴のある放射線治療を行なっているので、それぞれの強みを生かしながら当病院の役割を果たしてきたい。今後はがん治療を手掛けるほかの医療機関との連携を強めていく考えです」
前立腺がんでハルシオンによる治療を行なう場合は、毎日照射で平均37回。進行が遅く悪性の度合いが低いケースなら20回以下の照射で終えることもできるという。
放射線治療には痛みはない。頭頸部がんや乳がんなどについては皮膚のただれがリスクとしてあるが、体の奥にある前立腺がんについては皮膚の炎症はほとんどないという。
ハルシオンによる治療の予後(治療後の経過)と今後について、原田医師は次のように語る。
「予後の検証についてはもう少し先のことになるでしょう。頭頸部がんや子宮頸がんなどの放射線治療の効果は目に見えて分かりますが、前立腺がんは体内の奥にあり、ほとんどの場合は大きな塊になってない状態から治療に入るからです。前立腺がんの可能性を血液で調べるPSA検査を中心に、画像検査などを組み合わせて長年にわたり経過をみていきます。
いずれにしても新たな医療機器の導入でより安全で質の高い医療を提供できるようになりました。これまで培ってきた経験と技能を生かし、センターの放射線技師や医学物理士のスタッフと共に、さらにより良い治療を行なっていきたい」
前立腺がんの疑いのある部位を立体的な映像に
最新鋭のMRI「グラシアン」
MRI融合前立腺生検システム「トリニティ」
前立腺がんの疑いのある部位を立体的な映像に
坂丈敏理事長・院長
泌尿器科の拠点病院としてさらに高まる存在感と役割
坂泌尿器科病院は泌尿器領域の専門病院として1987年、札幌市北区に開院。地域に根差しながら前立腺肥大症や尿路結石などに対し体に負担が少なく治療効果が高い医療を実践してきた。その後、2006年には北腎会グループとして病院隣接地に定位放射線でがん治療を行なう「脳神経・放射線科クリニック」を開院した。
医師の大都市集中で地方によっては泌尿器科の治療を受けられない医療格差にも挑み、千歳市や北広島市といった専門医が少ない地域にサテライト機能を持たせたクリニックをオープン。泌尿器科の医師のいない新ひだか町や新篠津村、夕張市に定期的に医師を派遣する診療支援にも取り組んでいる。
全国屈指の泌尿器専門病院に相応しい施設にグレードアップするため、2020年9月1日には北区から西区八軒に新築移転を果たした。新病院はJR琴似駅から徒歩7分とアクセスが良い。
新病院では手術室や外来診療室、病床、透析ベッド数を増やすなどハード面を強化した。また、災害対応にも万全を期し、地震などで停電になった場合に電力を安定的に供給できるよう大型の非常用電源を備え、病院の機能や透析治療が支障なく行なえるよう配慮した。
理事長兼院長の坂丈敏医師は、三樹会病院泌尿器科病院(札幌市白石区)の勤務医時代に体外から衝撃波を与え結石を粉砕する「対外衝撃波結石粉砕術」(ESWL)をアジア圏で初めて導入したことで知られ、新病院にもこのESWLの専用処置室も設けている。北区の旧病院は無床の「坂泌尿器科新川クリニック」として千歳や北広島に次ぐサテライト施設になっている。
泌尿器分野では国内屈指の実績を持ち、前立腺肥大症や前立腺がん、尿路結石症、膀胱がん、過活動膀胱などの治療を手がけ、年間の手術件数は約2300件と全国でもトップクラスを誇る。23年11月には次代を担う泌尿器科専門病院としての体制整備を狙い、前述の「放射線治療センター」を開設。最新鋭の放射線治療機器ハルシオンを道内で初めて導入するなど最新のがん検診、治療にも力を入れている。
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