札幌東徳洲会病院の新院長に就任した山崎誠治医師に訊く
ソフトとハードを再構築して「断らない救急医療」を目指す

2023年12月号

「救急部門の立て直しが私の使命」と語る山崎院長

(やまざき・せいじ)1967年音更町出身。93年旭川医科大学医学部卒業。94年~97年まで同医科大医局から札幌東徳洲会病院、旭川赤十字病院、北海道立紋別病院に赴任。97年から東徳洲会病院循環器科に勤務。副院長、循環器内科部長を経て2023年10月院長就任。日本循環器学会専門医、日本内科学会認定医、日本内科学会総合内科専門医、日本心血管インターベンション治療学会認定医・専門医。56歳

Medical Report

24時間救急対応の急性期総合病院として知られる、医療法人徳洲会 札幌東徳洲会病院(札幌市東区・336床)の新院長に、10月1日付けで副院長・循環器内科部長だった山崎誠治医師が就任した。前院長の太田智之医師は総長という役職に就き、運営法人の常務理事として本部とのパイプ役を担う。新型コロナの対応で受け入れが落ち込んでいた救急救命医療を山崎院長と太田総長が力を合わせて立て直すのが今回の人事の狙い。山崎院長に「断らない医療」にかける意気込みを訊いた。

(10月23日取材 工藤年泰・武智敦子)

遅れる移転計画
課題山積み北海道医療大の北広島移転

厚真の砂利採取場で起きた産廃不法投棄問題を追う

江差パワハラ死問題で交渉決裂
道「因果関係」否定貫く

つしま医療福祉グループ 「ノテ幸栄の里」が新築移転
地域包括ケアの拠点として在宅生活を支援

道内初のハイブリッドERを導入し救急の受け入れを強化


 ──10月1日付けで徳洲会の基幹病院のひとつである札幌東徳洲会病院の院長に就任された。
 山崎
 8月の頭に、運営法人の東上震一理事長から打診がありました。急な話であり何の準備もしていなかった状況でしたが、私は臨床を続けたかったので「院長になっても外来や入院患者を診たい」と申し上げたら「望むところです」と(笑)。
 この3年間、当院は新型コロナの対応に追われ、救急患者を一部キャンセルせざるを得ませんでした。今年に入り5類に移行しても、救急のキャンセル率は依然として高かった。原因はベッドが埋まりがちであること、そしてマンパワー不足です。しかし、それらをやり繰りしてひとりでも多くの患者を受け入れるのが徳洲会の理念。救急を断らないために、どう動くかが院長としての使命だと思いました。
 ──救急医療の改革を担うと。
 山崎
 救急医療については医師や看護師といったスタッフだけでなくハード面でも多くの課題がありました。それを改革していくには、まず病院の幹部が救急の状況を把握しなければなりません。そして現場から意見を吸い上げ、問題点を見つけて早急に解決していくことが大事です。これを実践してから、当初は30%以上あった救急のキャンセル率が現在は10%を切るようになりました。
 ──院内の満床問題は。
 山崎
 基本的に当院は満床であることが多く、検査と処置・治療を終えた患者は速やかに他の医療機関に紹介しなければならない状態です。
 ただ、救急患者の中には、CPA(心肺停止)といった重症者もいますが、中には入院の必要のない軽症者もおります。満床だから断るというのは、必ずしも理由になりません。医療者は治療を待っている患者さんに手を差し伸べるのが使命です。この意識がこれまで少し疎かになっていたと思います。
 まずは職員の意識改革が大事。私は院長就任後に医局会や「8時会」という医師・幹部・職員が集まる会議で救急の受け入れを断らないように訴えました。最初は少し抵抗感があったようですが、ここ2、3週間で救急外来の医師や看護師、研修医の目の色が変わってきました。
 ──救急救命センターの機能拡充工事を行なっている最中です。
 山崎
 10年越しの計画がようやく実りました。IVR-CTといって、断層画像を撮影するCTで身体の中を見ながらカテーテルで治療できる装置を道内初導入します。検査と治療を同時に行なうことが可能なハイブリッドER(救急医療室)となります。当院はこれまで2階にカテ室があり、CT室は1階でした。この中で出血性のショック状態で血圧の低い患者さんを移動させるのはリスクがあります。それらを一体化すれば検査と治療がひとつの部屋ですむ。建物は年内に完成し、機器の搬入を経て来年4月から稼働する予定です。
 これと同時にICU(集中治療室)とHCU(高度治療室)の増改築工事も進めています。ICUはより重症度の高い集中治療室で、HCUはそれより少し軽い症状の患者さんの治療を行ないます。外傷や脳卒中、血管内治療など救急の受け入れはこの病院の要でもあるので、どんどん拡充させていきたいと思います。

生まれ変わる「救急救命センター」の
イメージ

総長に就任した太田医師

生まれ変わる「救急救命センター」の
イメージ

総長に就任した太田医師

ERの現場と連携し情報共有日頃から救急隊とも関係構築


 ──貴院では、多い時で年間約1万件の救急受け入れがあった。
 山崎
 現在の受け入れは6千人台で最盛期に比べると4割ほど落ちています。当時1万人も受け入れていたのは「絶対に断らない」という職員の意識に負うものです。ただ、医療は複雑化しており外傷で来た患者さんであっても全身くまなくCTを撮り臓器損傷がないかを調べるなど、検査の質、量とも圧倒的に多くなってきました。そういう意味でここ10年で病院側の負担は増えています。ただ軽傷でそこまで検査の必要のない人もおり、ある程度患者さんのスクリーニングをしながら適切にやっていくことが必要だと思います。ただ、一度断り癖が付くと「満床だから」との理由ですぐ白旗を上げてしまう。本当にそれでいいのかと、職員が再認識することが大事です。
 ──救急搬送される患者の疾患は何が多いのですか。
 山崎
 オーバードーズ(薬物の過剰摂取)、アルコール中毒、転倒外傷、交通事故による骨折、心筋梗塞や狭心症などのACS(急性冠症候群)、脳卒中などさまざまです。
 私は毎日、夜10時~11時と朝6時~7時の間に必ず現場に顔を出すようにして、どのような患者さんが来ているかをチェックしています。さまざまな症例を通して、どうマネジメントするか当直医の能力が試される場でもあり、研修医のトレーニングの場となっていると信じております。
 ──貴院のERには1日20件以上の急患が来ている。
 山崎
 10月の救急搬送件数は900件を超えそうです。院長になってから職員の啓発を進めており、10月2日以降は、キャンセルがゼロになる日も稀ではなくなりました。現場からは「これを解決したら受け入れができる」という声があがっています。先ほど8時会の話をしましたが、この会に10月から当直医も出席してもらい、前日にあった問題点などを話していただき、それを病院幹部が謙虚に聞き入れ、早期に解決する仕組みを作りました。
 ──こうであれば受け入れられるという方向に職員の意識が向いた。
 山崎
 そうです。救急受け入れについて院長として取り組んでいることは4つあります。
 ひとつはキャンセル理由となる、ベッド満床・マンパワー不足を改善することです。院長になってからつながりのある病院やクリニックを訪ね、後方病院としての協力を依頼しました。一次的な処置をして手のかからなくなった患者さんの受け入れをお願いするのが後方病院です。マンパワー不足については適材適所の人員配置が非常に大事で、これは自分が現場に出向いて状況を把握しないと見えてきません。新規採用についても本部にお願いしながら、下の意見を拾い上げていきたい。
 2つめは、病院の幹部(院長、副院長、事務長、看護部長)とERの現場の医師と連携です。「幹部に意見を出しても通らないだろう」という雰囲気を作らないようにする。先ほどの8時会での意見の吸い上げもそうですが、私や副院長が救急の現場を巡回して現場で困っていることを聞くのもその一貫です。
 3つめは救急隊とのコミュニケーションです。私は、院長になって、既に札幌市内に10ある消防署のうち9カ所を訪ね、救急患者の受け入れを断られる実態を聞きました。当直医の電話対応やマナーが悪いという話も耳にしました。これでは、こんな病院には患者を送れないと思われてしまう。そんなつまらないことで搬送されない事態は避けたい。消防署の署長には、当院においても、何か問題点があれば私の耳に入れるようお願いしています。情報をフィードバックしてもらい、必要あれば当直医を指導していくつもりです。
 4つめは職員のモチベーションを維持することです。職員だれもが目につくように電子カルテのトップページに毎月のスローガンを掲げ、救急搬送の件数やキャンセル数がグラフで表示されるようにしました。また、現場の職員への声掛けや感謝の言葉も忘れないようにしました。加えて報酬の面でも頑張った人が報われるシステムを構築しました。


山崎院長、太田総長の両輪で救急とがん治療の充実目指す


 ──札幌市外からの救急患者も受け入れている。
 山崎
 石狩市や当別町、北広島市、江別市、千歳市などです。これからは他の自治体の消防隊とも話をしていこうと思います。
 ──「心当たりの病院に電話をして断られるのは辛い」という救急隊員の話を聞いたことがあります。
 山崎
 患者の受け入れ先が見つからず何時間も帰ることができない、途中でトイレに行けず水も飲めない状況になるそうです。受け入れを断ってはいけないと思いました。
 ──総長になられた太田先生への期待をお聞かせください。
 山崎
 徳洲会のグループ病院は札幌市内に当院を含めて3カ所。このほか帯広、日高、函館を合わせて全部で6つあります。いま過疎化で地域医療が手薄になっており、医療を満足に受けられなくなっている現状があるので、患者さんのやり取りがスムーズにいくようにグループ病院が互いに連携することが必要です。将来的にはオンライン操作で術者に指示を出しながら手技を行なう遠隔医療もできると思います。広域な北海道の地域医療を崩壊させないためにも、太田総長には道内のグループ病院を上手くまとめてほしい。
 ──今回の人事が大きな節目になりそうですね。
 山崎
 太田先生が総長、常務理事になられたことで我々の課題や要望がダイレクトに本部に伝わりやすくなりました。院内のことは私が責任を持って行なうので、太田総長には本部とのパイプ役、地域医療全体の舵取りをお願いしたい。


 2016年から7年間にわたり院長を務めてきた太田医師は、今回の人事で総長という立場で山崎院長とタッグを組むことになった。述べてきた救急医療の強化をはじめ、自身の専門領域である消化器内科やがん治療への対応、本部とのやり取りなどより重要な仕事を担うことになった。その太田総長は、山崎院長について次のように期待する。
「当院はもともと救急医療を大切にする病院。山崎院長はその分野にも精通しておられるので、ER部門を再生してくれるでしょう。彼の指導の下、すでにこの1カ月で救急患者の受け入れが増えています。私は消化器系のがんの専門医なので、救急との両輪で山崎院長をサポートしていきたいと思います」



医療法人徳洲会
札幌東徳洲会病院

札幌市東区北33条東14丁目3-1
☎:011-722-1110
HP:https://www.higashi-tokushukai.or.jp/




遅れる移転計画
課題山積み北海道医療大の北広島移転

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