我汝会えにわ病院が2台目を導入 手術支援ロボット「Mako」の実力
膝関節・股関節両分野に貢献 正確で安全な人工関節置換術
「Mako」のロボティックアームを手にする木村理事長
Medical Report
医療法人社団我汝会(木村正一理事長)が運営し、人工関節置換術で全国屈指の実績を誇る「えにわ病院」(恵庭市・150床)がこの春、アメリカで開発された手術支援ロボット「Mako」(メイコー)の2台目を導入した。これにより人工膝関節置換術と人工股関節置換術を手掛けるチームがそれぞれ独自に使える体制が整った。このМakoを同病院は3年前に道内で初導入。術前のCT 画像のデータから組み立てた治療計画に基づきロボットアーム(機械の腕)が医師の執刀をサポートすることで正確かつ安全な手術を可能にしている。人工関節置換術の治療体制を強化した木村理事長に今回の導入の狙いや我汝会グループの今後について訊いた。
(5月24日取材 工藤年泰・武智敦子)
必要だった「2台体制」
整形外科分野の手術支援ロボットとしてアメリカ・ストライカー社が開発したMakoは欧米やオーストラリアで多くの治療実績がある。日本では2019年6月にMakoによる膝関節と股関節の人工関節全置換術が保険収載されてから、この手術支援ロボットを導入する医療機関が増えている。道内では人工関節置換術で実績のある我汝会えにわ病院が3年前の20年6月に初めて導入。今年3月から2台目となるMakoが稼働を始めた。
えにわ病院では年間2500症例以上の整形外科手術を行なっており、このうち人工膝関節と人工股関節関連は合わせて年間約1000症例にのぼる。20年のMako導入後は、この手術支援ロボットによる人工膝関節置換術が600症例以上を数えており、国内でも屈指の実績を持つ。
この中で木村理事長は、2台目の手術支援ロボットを導入した経緯について次のように説明する。
「Makoは人工膝関節、人工股関節両方の手術に使用できますが、私たち膝関節チームが使用している間は、当然ながら股関節チームは手術支援ロボットを使うことができないわけです。若い医師たちにMakoによる手術を手掛けてもらうためには、2台目はどうしても必要でした」
膝関節や股関節は体重を支えて立つ、歩く、しゃがむなど生活する上で必要な動作を司っている。変形性膝関節症・股関節症は関節軟骨の老化により発症することが多く、肥満や遺伝性の素因も関与することがある。また、骨折や靭帯、半月板損傷などの外傷の後遺症として発症することもある。
初期では立ち上がりや歩き始めといった動作の開始時に痛みを感じるが、休めば痛みは取れる。中期になると正座や階段の上り下りが困難になる。さらに末期では変形し膝がピンと伸びなくなり普通に歩いたり座ったりすることも困難になり、日常生活に支障を来す。
このような変形膝関節症・股関節症の治療は薬物療法やリハビリを続けても症状が改善しなければ手術が選択肢になる。症状が中期なら傷んでいる側のみを人工関節に置き換える片側置換術で済むが、末期であれば膝関節全体を人工関節に置き換える全置換術しかない。
従来の手術ではX線検査などで患部の症状を確認してから関節表面の骨と軟骨をカッティングブロックという手術器具の型に合わせて切り取り、人工関節を軟骨の代わりに挿入し固定していた。ただ、この手術は医師の経験に負う所が大きく、骨を削る部分が不正確だと痛みが残ったり、早期に緩みが生じるなどのリスクがあった。
えにわ病院でのMako による人工関節置換術の様子
人工膝関節全置換術を施した後(左)と典型的な変形性膝関節症のレントゲン写真
(きむら・しょういち)1960年新潟県出身。88年旭川医大卒業、89年北大整形外科入局。函館中央病院、美唄労災病院などを経て2001年4月えにわ病院に勤務。05年整形外科部長、11年理事を経て17年1月に医療法人社団我汝会理事長に就任。医学博士、日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医
えにわ病院でのMako による人工関節置換術の様子
人工膝関節全置換術を施した後(左)と典型的な変形性膝関節症のレントゲン写真
(きむら・しょういち)1960年新潟県出身。88年旭川医大卒業、89年北大整形外科入局。函館中央病院、美唄労災病院などを経て2001年4月えにわ病院に勤務。05年整形外科部長、11年理事を経て17年1月に医療法人社団我汝会理事長に就任。医学博士、日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医
短縮化された術前準備
一方、Makoの支援による手術では、術前にCTで撮影した骨格のデータをコンピュータ処理し3Dで可視化。そのデータを元に人工関節のサイズや設置する位置、骨を切除する部分や量などを決める手術計画を作成する。膝関節であれば、手術中にO脚やX脚などの変形を矯正し適切な人工関節の位置を3D画像で確認し調整する。
近年は術中に得られたデータに基づき、赤外線モニターで患部を正確に計測する「ナビゲーション手術」が普及しているが、Makoでは前述のようにCT撮影で得られた画像データから組み立てられた治療計画に基づきロボットアームを操作し、傷んだ骨を切除した場所に人工関節を設置することができる。
木村理事長はMakoのメリットを次のように説明する。
「これまで人間が1ミリ、1度単位の精度で手術をすることは非常に困難で、一定の頻度でヒューマンエラーがありました。しかし、Makoではこのようなエラーを回避することができます。さらに計画外の動きをしないよう制御されているので、経験の少ない医師でも安全かつ正確に手術することができます」
Makoによる恩恵は絶大だが、これまで手術までの準備期間が長いのがネックとされていた。CT画像をメーカーに送り、解析と治療計画のデータが出てくるまでに3週間程度を要していたからだ。しかし、木村理事長によると最近はデータ作成が迅速化し、10日間程度で完成するようになったという。
「手術の後方支援を行なうMPS(Mako Product Specialist)という専門知識を持つストライカー社の日本のスタッフが術者の考え方に合ったプランを立ててくれるので、手術までの準備期間は以前に比べるとかなり短縮化されています。今では急ぎの手術にも対応できるようになりました」
出てきた治療計画のデータはMPSによりMakoにインプットされる。専門知識のあるMPSは手術にも立ち会う。術中に医師が靭帯バランスを見ながら微調整する時などもMPSがいなければできない。
手術時間については従来の手術とほとんど変わらず、手術後は「膝が良く曲がるようになった。痛みを感じなくなった」という患者が多いという。
「手術支援ロボットならではの正確性です。コンピュータが制御するロボットが人間より正確なのは当たり前。この特性を利用してこれまでは脛骨に対して直角に切っていたものを1度もしくは2度内反させるなど微妙なニュアンスが正確に再現できるようになり、成績向上に役立っています」(木村理事長)
充実させたい地方との連携
最先端医療機器であるMakoの使用については、海外の実績ある医師や国内の指導医の下での訓練が義務づけられている。えにわ病院では人工膝関節置換術の有資格者は木村理事長を含め4人。人工股関節置換術では3人が有資格者だという。
変形性膝関節症の治療に当たり同病院ではAPS療法と呼ばれる再生医療も行なっている。患者の血液から分離した自己タンパク質溶液を膝に注入し、症状を緩和させていく手法だが、自由診療なので治療費は高額になる。効果については、
「臨床的に効いている患者さんもいます。ただ全ての患者さんで100%良くなることが保証されている治療法ではありません。希望される患者さんと十分話し合い慎重に適応を判断しています」(同)とのことだ。
また、近年テレビCMなどで健康補助食品のグルコサミンやコンドロイチンが関節の痛みを改善するなどと喧伝されているが、こちらについては、「グルコサミンとコンドロイチンを混ぜて服用すると、多少痛みが緩和するという論文もありますが、これらはあくまでも健康補助食品。患者さんに聞かれたら、害はないのでご自由にとは言いますが、服用したからといって、すり減った軟骨が復活するわけではありません」と注意を呼びかける。
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