藤井美穂院長がチーム医療で取り組む 時計台記念病院「女性骨盤底センター」
骨盤臓器脱患者に大きな朗報 新体制で臨む治療と再発予防

2023年06月号

「女性骨盤底センター」を支えるコアスタッフ(右から大科看護師、藤井センター長、三浦看護師、小島理学療法士)


Medical Report

骨盤の中に収まっている子宮などの臓器が腟から外に出る「骨盤臓器脱」。尿失禁を伴うことがある中高年の女性に多い病気で、羞恥心から受診をためらう患者も少なくない。社会医療法人社団カレスサッポロ(大城辰美理事長)が運営する時計台記念病院(札幌市中央区・225床)では、この病気で悩む女性のため、5月の大型連休明けから女性診療科に新たに「女性骨盤底センター」を開設。チーム力を高め、婦人科領域の中でも骨盤臓器脱の治療に力を注ぐ体制を整えた。同病院院長でセンター長を兼ねる藤井美穂医師は、「再発予防を含めてこの病気を正しくかつトータルに治療し、苦しむ女性をひとりでも多く救いたい」と熱意を込める。

(4月26日取材 工藤年泰・武智敦子)

骨盤臓器脱にはさまざまな種類がある

模型で骨盤底筋の役割を説明する理学療法士の小島さん

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ヒグマ駆除裁判で逆転判決
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患者に寄り添うチーム医療


 骨盤臓器脱は内臓を支える骨盤底筋が弱ることで子宮や膀胱、直腸などが下がり、腟から外に出てしまう疾患だ。出産経験のある女性に多いが、相談しにくいため悪化してしまうケースもある。この中で時計台記念病院では2007年に「女性診療科」を開設し、骨盤臓器脱についてこれまで約3千症例の治療を手掛けてきた。そして5月8日付けで女性診療科内に「女性骨盤底センター」を新たに立ち上げ、骨盤臓器脱とそれに伴う尿失禁などの症状を集中的に治療する体制を整えた。
 院長で婦人科と女性泌尿器科(ウロギネコロジー)の国内第一人者でもある藤井医師は、今回の開設を次のように説明する。
「骨盤臓器脱の患者は9人にひとりと言われますが、これは何らかの形で治療を受けている数。実際の患者数はもっと多いはずですが、私たちのような専門の治療機関があることはあまり周知されていません。一方で、通販雑誌などでは女性の骨盤底を支える下着も出ており『骨盤底』という言葉はポピュラーになっています。そうしたことから『女性骨盤底センター』を開設し、脆弱化した女性骨盤底の治療により集約し、チーム医療で患者に寄り添った治療法を発信していきたい」
 女性骨盤底センターではセンター長を藤井医師が務め、婦人科、泌尿器科の医師、看護師、理学療法士、コンチネンスアドバイザー(排泄ケア専門員)ら女性を中心とした専門スタッフが外来→入院、手術→外来まで連携しながら治療に取り組んでいく。
 例えば看護師でコンチネンスアドバイザーでもある大科宣子さんは20年に亘り藤井医師の片腕として活動してきたベテラン。センターでは外来を担当し、初診患者から生活習慣や家族環境などを聞き取り、保存的療法でいいと判断した時はペッサリーを30分ほど付けてもらい様子を見るなど、入口の段階でしっかりケアをする。理学療法士の小島伸枝さんは、骨盤底筋をリハビリの視点で学んだスペシャリストであり、再発予防に向けた全身運動指導を担う。看護課長の三浦理恵さんは、院内の看護師に骨盤臓器脱についての知識を習得してもらうため院内研修を手掛け、入院中の患者に寄り添う看護を実践している。
 6月12日から1週間、同センターでは骨盤臓器脱に関する電話相談(専用ダイヤル☎011-251-1363)も実施する。「チーム力を高め、ハードとソフトの両面から骨盤臓器脱の患者さんを支えていきたい」(藤井医師)

多職種による生活指導など患者のアフターフォローにも万全を期している

多職種による生活指導など患者のアフターフォローにも万全を期している

骨盤臓器脱にはさまざまな種類がある

模型で骨盤底筋の役割を説明する理学療法士の小島さん

骨盤底筋の弱体化が主原因


 前述のように骨盤臓器脱は、骨盤内で臓器を正しい位置に支えている骨盤底筋という筋肉が出産や加齢で緩み、支持組織が弱ることで膀胱や子宮などが下がってくる疾患だ。閉経後にエストロゲンなどの女性ホルモンが減少することも筋肉や靭帯の緩みを加速させる。肥満や力仕事などで骨盤底に腹圧がかかっていたり、慢性的な便秘や喘息などで強い腹圧がかかる場合も骨盤底を緩みやすくする。同病院で確認された患者の発症年齢は40代から80 代と幅広く、平均年齢は67・5歳。
「骨盤臓器脱が起こるのは、骨盤底の筋肉と支持組織がダメージを受けているということ。これまで日本では、一次産業に従事する女性や自然分娩、特に難産の女性に多いとされてきました」(藤井医師)
 骨盤臓器脱には腟壁を通して膀胱や子宮、直腸が脱出する膀胱瘤、子宮脱、直腸瘤などがあるが、症状も頻尿、尿が出にくい、残便感、便失禁とさまざまだ。
「多種多様な骨盤臓器脱を治療するには、患者一人ひとりに合った医療を提供していかなくてはなりません」と藤井医師は強調する。
 腟から何かが出てくると、股間に違和感を覚えたり排尿トラブルを伴うこともあるが、痛みはほとんどない。長い間立ち仕事をして腹圧がかかった時に一時的に出てくることが多いが、症状が進むと常に臓器が脱出した状態になるため、脱出部分がこすれて出血することもある。場合によっては尿もれや頻尿、便秘になるケースも。外出や趣味を控えるようになりQOLは大幅に低下する。
 予防は出産後から骨盤底筋のトレーニングが重要だ。ごく初期なら骨盤底の筋力を鍛える体操で進行を抑えることが可能だが、自然に治ることはなく効果的な薬剤がないことも覚えておきたい。保存的治療では、ペッサリーリングを挿入し臓器を固定する方法やサポート下着のフェミクッションや骨盤底サポーターで脱出を防止する方法がある。これらの方法は、医師による適応の判断と専門職によるサポートがなければ患者自身で実践するのは難しい。相談先もなく悪化する患者がいることもうなずける。


患者に合わせた術式を選択


 根治治療には手術しかない。従来は腟を通して子宮を全摘し腟壁を形成する手術が主流だったが、再発率が高いという課題があり、近年は腹腔鏡を用いた「腹腔鏡下仙骨腟固定術」(LSC)が主流となっている。
 LSCは腹部に空けた複数の小さな穴から内視鏡や手術器具を挿入。下がっている臓器をメッシュで持ち上げて骨盤底を補強する治療で、再発率が低くメッシュによる合併症も少ない。傷も小さくて済むため出血もほとんどない低侵襲な手術として広まっている。
 2007年から16年頃まで同病院で最多の術式だった「腟式手術」(TVM)は、膀胱と腟壁の間、直腸と腟壁の間にメッシュを押し入れ、メッシュのアームを周囲の筋膜や靭帯に通して固定する術式だ。ただTVMについては、メッシュが腟壁から露出したり術後に痛みが生じるケースもあった。現在ではTVMは激減したが、前述のLSCでは修復が難しい症例にはTVMを選択している。メッシュを日本製のソフトな素材に変え、大きさも小型のものに切り替えた。日本製はレントゲンに写る利点があり、手術後のメッシュがきれいに広がっているかどうかなどを検証できるのも利点だ。
 藤井医師はTVMを道内で初めて導入し、年間300件程度の手術を行なってきた。2011年には腹腔鏡を使ったLSCを日本で2番目に行なっており、同病院では17年から腹腔鏡下に仙骨腟固定を行なうLSCが主流になった。2020年に手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った仙骨腟固定術が保険収載されたことを受け、21年4月にダヴィンチを導入し「ロボット支援下仙骨腟固定術」(RSC)を開始。LSCと術式は同じだが、ダヴィンチのカメラの拡大率は最大15倍で腹腔鏡より深い場所の細かい神経や血管を確認することができる。
「腹腔鏡では届きにくい部分も手ぶれなしで手術することができる。出血もほとんどなく安全に手術することが可能になりました」(藤井医師)
 2022年4月から今年3月末までのダヴィンチによるRSCによる手術は117症例。LSCはその2倍に当たる239件だった。ただ手術の実施や術式については、患者の生活環境を十分に考慮する。例えば仕事内容、生活様式など、さまざまな背景から患者に合った術式を選択する。症状や手術後の生活を見据えて経験豊富な藤井医師ならではの完全オーダーメイド手術も行なう。
 本人が介護などで忙しく時間が取れないなら一旦ペッサリーなどの保存療法を先行する。糖尿病など合併症のある女性には、メッシュを使う手術を避けたり、腹腔鏡手術ではなく腟式手術に、またできるだけ短時間で終了できる術式を選択している。
「術式はひとつではありません。個別化医療で患者一人ひとりにあった術式で対応しなければ患者のQOLを上げることはできません。当センターでは骨盤臓器脱や尿失禁まで包括して治療、手術を受けることができます」(同)
 一方で、藤井医師は腹腔鏡やロボット支援下手術の進化で、多くの医師が手術をできるようになったことに危機感も持っている。腹腔鏡手術では画像を見れば術式を覚えることができるが、一方で工夫や研究を重ねながら術式を進化させる必要がある。不十分な手術のために再発して時計台記念病院に駆け込んでくる患者もいるという。
「私は札幌医科大学の解剖室で手術を安全に行なうための研究をし、術式を教えてきましたが、新型コロナで3年間中止に追い込まれました。常に進化する術式を学んでもらうためにもトレーニングを再開したいと考えています」(同)


 骨盤臓器脱は手術をして終わりではない。先述のように、この病気は肥満や便秘による腹圧が影響する。特に腹回りに脂肪が付くと腹圧が高くなると言われており、体重を増やさないよう生活習慣を見直し、骨盤底筋体操を毎日続けていくことが病気の進行を止めることにつながる。
 同センターでは看護師・理学療法士など多職種で便秘予防や運動、排便機能を整えるなど手術後の生活についても指導。退院の際には、再発を予防し快適に過ごしてもらうための留意点などを記載したパンフレットを渡し、生活管理のスコアを付けてもらうなどアフターフォローを続けている。
 骨盤臓器脱の女性に寄り添う「女性骨盤底センター」の躍進に期待が高まる。





社会医療法人 社団 カレスサッポロ
時計台記念病院 女性骨盤底センター
札幌市中央区北1条東1丁目2の3
☎:011-251-1221
HP:http://www.caress-sapporo.jp/




中和興産
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