中村記念病院の佐光一也副院長に「慢性頭痛」の原因と治療法を訊く
QOLが低下するケースにも専門外来の最新治療で対応
「多くの方が抱えている頭痛ですが、適切なケアで軽減してほしい」と語る佐光副院長
(さこう・かずや)1961年滝川市出身。87年札幌医科大学卒業。同年から中村記念病院に勤務し、現在副院長。専門は臨床神経学、パーキンソン病など。日本神経学会認定神経内科専門医、日本内科学会認定内科医。日本神経学会、日本内科学会、日本神経治療学会、日本核医学会、日本定位・機能神経外科学会、日本神経免疫学会所属。61歳
Medical Report
「たかが頭痛」と言うなかれ。ただちに命に関わることはないにしても、重篤な疾患が隠れていたり、痛みで体が動かなくなるなど日常生活がスムーズにいかなくなるケースもあるので注意が必要だ。そんな中、難治性の慢性頭痛患者を救おうと、国内屈指の脳神経外科専門病院、社会医療医仁会 中村記念病院(札幌市中央区/中村博彦理事長・院長/499床)が「慢性頭痛専門外来」を開設し、治療効果を上げている。同病院の副院長で脳神経内科を専門とする佐光一也医師を訪ね、慢性頭痛の症状や最新の治療法について訊いた。
(2月27日取材・工藤年泰)
侮れない片頭痛の苦しさ
慢性頭痛には主に「片頭痛」「緊張型頭痛」「群発頭痛」の3種類があり、中村記念病院では初診の頭痛については、くも膜下出血や脳出血といった重篤な病気かどうかを見極めたうえで、各科の医師がそれぞれ治療に当たっている。
その中で10年ほど前から同病院では、慢性頭痛専門外来を開設。ここでは日本頭痛学会専門医の仁平敦子医師が質の高い治療を行なっている。
「慢性頭痛の中でも難治性の症状に苦しむ患者さんがおられます。そういう方々を当院の専門外来で対応させていただく体制です」(佐光一也副院長)
片頭痛はその名の通り、頭の片側がズキズキ痛む症状。頭痛の中でも患者数が多く、我が国の年間有病率は8・4%とされ女性に多い。はっきりした原因は判明していないが、過労や睡眠不足などの体調不良、喫煙、アルコール、低血糖、チョコレート、チーズ、ピルなどが誘因としてあげられている。
また、女性の生理とも因果関係があると言われ、生理になると必ず片頭痛になるという女性もいる。女性ホルモンであるエストロゲンのバランスが崩れ、それが脳に影響し痛みを感じると言われており、生理時の片頭痛がひどくて動くことすらできなくなる女性もいる。通常の片頭痛治療が奏功しない患者には、婦人科で女性ホルモンの治療をして頭痛を軽減。症状がさらに重い時は生理を止める場合もある。
中には「いつも天気が悪くなる前に強い頭痛が起きる」と訪れる患者もいる。
これを佐光副院長は「病原体が体に入ると、それを攻撃する免疫システムが働いて発熱や倦怠感を生じさせ、わざと動けないようにして体を休ませることで治癒を早めると言われます。片頭痛も同じように環境や体調の悪化を敏感に予知して、体を休ませるようにサインを出しているのかもしれない」と説明する。
片頭痛で軽い人は市販の頭痛薬を飲んで済ませることが多いが、その一方で「市販薬が効かなくなった」と受診する患者もいる。寝込んでしまうような時は急性期治療薬で頓服のトリプタン製剤を使う。嘔吐感で飲み薬を吐いてしまう時は、鼻スプレーや自己注射という選択肢もある。
緊張型頭痛は「肩こり頭痛」と言われるように、肩こりを伴うことが多い。圧迫されるような痛みを感じ両側性で持続時間が長い。ストレスや不安が関与しているとされ、一般的な頭痛薬を飲んだり肩こりのマッサージを行ないストレスを軽減する。
群発頭痛は片側の眼窩周囲に激しい痛みがあり、同側の流涙、結膜充血、鼻閉、鼻汁、眼瞼下垂、眼瞼浮腫などを伴う。1回の発作は15分から3時間、1日おきから1日8回まで2~12週間に亘って群発する苦しい頭痛だ。半年から数年に1回起きるとされ、トリプタン製剤の皮下注射などで処置する。
「群発頭痛では100%酸素を使う場合もありますが、痛み止め注射や薬の服用で嵐が収まるのを待つしかない。かなり特殊なケースですが、毎日、群発頭痛に悩まされる患者さんもおり、そういう場合は、自宅で酸素吸入をしてもらうこともあります。片頭痛とは異なり、群発頭痛は男性に多い。しかし近年は女性の社会進出が関係しているのか、群発頭痛になる女性が増加傾向です」(同)
耐えられないような痛みが出る場合も
治療には内服薬のほか予防的な注射薬もある
耐えられないような痛みが出る場合も
治療には内服薬のほか予防的な注射薬もある
患者の朗報となった予防注射
従来、片頭痛の治療薬はトリプタン製剤が主なものだった。しかし、いま患者に朗報となっているのが予防注射として用いる「抗CGRP抗体薬」だ。片頭痛のメカニズムでは痛みを伝える三叉神経が顔や頭の血管を拡張、収縮させる働きを担っている。痛みを出す時にCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)が関係していることから、それを抑えようと開発されたのが抗CGRP抗体薬だ。CGRPが頭痛を起こすのを阻止し、片頭痛の予防効果がある。
佐光副院長によると、抗CGRP抗体薬は、2年前に「エムガルティ」などの商品名で3種類の薬が出ており、保険収載もされている。「厚労省も安全性を認め、現在は月に1度の自己注射を認めています。もちろん全ての人に効果があるわけではないが、効く人にとっては奇跡のような薬です」
薬代は3割負担でも1回1万円以上かかるため安くはないが、QOLが各段に向上したと多くの患者に喜ばれているという。
片頭痛の予防薬をめぐっては20年ほど前に「ミグシス」という錠剤も出ており、こちらは1日2回、時間を決めて内服する。バルプロ酸やベータ・ブロッカーなど他の内服薬が効果的な患者もいる。
ただ述べたようにCGRP抗体薬やミグシスは基本的に予防薬であり、頭痛の回数や程度を抑えることが期待されるが、頭痛が起きた時は痛み止めを飲まなければならない。
「片頭痛というと軽くみられがちですが、慢性化するとQOLが低下するなどさまざまな支障が出てくるもの。この中で抗CGRP抗体薬が登場するなど、治療は日進月歩で進化しています。心当たりのある人は我慢せず、早めに専門医療機関を訪ねてもらいたい」(同)
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