PCIロボット補助システム「コーパス」を導入した札幌心臓血管クリニックに訊く
1ミリ違わず正確に心カテ 患者とDr. に朗報の遠隔操作

2022年01月号

コーパス導入は循環器の高度専門病院として当然の責務」と話す藤田理事長

(ふじた・つとむ)1961年稚内市出身。86年旭川医科大学医学部卒業。札幌徳洲会病院、国立循環器センターなどを経て90年に札幌東徳洲会病院に赴任。同病院副院長兼循環器センター長、院長代行を歴任し、2008 年に札幌心臓血管クリニックを開院。11 年に医療法人化し札幌ハートセンター理事長に就任。日本内科学会認定医、日本救急医学学会専門医、日本循環器学会専門医、日本医師会認定産業医、日本心血管インターベンション治療学会指導医。60歳

Medical Report

循環器分野の疾患で全国トップクラスの症例数を誇る医療法人札幌ハートセンター(藤田勉理事長)の拠点病院「札幌心臓血管クリニック」(東区・104 床)。同病院が10月から狭心症や心臓梗塞を治療する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)のロボット補助システム「コーパス(CorPath)」を導入した。X線を照射しながらカテーテル操作を行なうPCIは、医師の被曝が課題のひとつだが、遠隔操作が可能なコーパスでは被曝を回避し、なおかつ標準治療のクオリティアップも期待できるという。道内では名寄市立総合病院に続き2例目の導入となった中で、藤田理事長は「将来的にはコーパスによって遠く離れた患者の治療も可能にしたい」と意欲を示す。(11月30日取材)

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医師の被曝を大幅に低減


 PCIは手首や脚の付け根からカテーテルを血管に挿入し、狭くなった心臓の冠動脈をバルーン(風船)やステント(金網)を用いて広げる内科的手術だ。開胸術と違い、患者にとっては合併症が少なく低侵襲といったメリットがある一方で、医師はX線で冠動脈やカテーテルの状態を撮影しながら治療を行なうことから被曝のリスクが生まれる。これを防ぐため術者やスタッフは鉛入りの重たいプロテクターを着用しなければならなかった。
 被曝のリスクはそれでもある程度高く、海外では放射線被曝が原因とみられる白内障や脳腫瘍などの症例も報告されている。被曝だけでなく1日複数回の治療に携わることにより腰や膝を痛めるケースもあり、このため女性医師の中にはPCIを避ける人も少なくないという。
 この中でロボット補助システム、コーパスは放射線が出る装置とは別の部屋で医師がカテーテルを遠隔操作するため、プロテクターを着用する必要がない。ガイドカテーテルを体内に挿入するまでは医師の手で行ない、実際のカテーテル治療はX線装置から3~5m以上離れたコックピットに座りバルーンカテーテルやステント留置カテーテルを遠隔操作する。
「コーパスの最大のメリットは医師の被曝量の減少です。さらに手術においては1ミリ単位で正確にステントの留置などができるので、何度も見直したりせず短時間でできる。このため患者さん自身の被曝量低減にもつながります。コーパスを使えば女性医師の活躍にも期待ができるのではないか」と藤田理事長は話す。
 コーパスは米国のコリンダス・バスキュラー・ロボティクスが開発し、2019年にドイツのシーメンスヘルスケアが同社を買収し製造販売を手掛ける。海外では米国やインド、シンガポール、イスラエルなどで導入されているが、高額なこともあり日本での導入実績はまだ少ない。国内の医療機関では同病院で8施設目、道内では名寄市立総合病院に続き2施設目となる。 

コーパスによるロボット補助でPCIを行なう藤田理事長

コーパスを使用することで全ての患者に同じレベルの治療が可能に

同病院には手術支援ロボット「ダヴィンチ」も導入されている

同病院には手術支援ロボット「ダヴィンチ」も導入されている

コーパスによるロボット補助でPCIを行なう藤田理事長

コーパスを使用することで全ての患者に同じレベルの治療が可能に

同病院には手術支援ロボット「ダヴィンチ」も導入されている

同病院には手術支援ロボット「ダヴィンチ」も導入されている

導入で高度な標準治療を提供

 
 藤田理事長が導入を決めた理由のひとつが、手術の標準化に役立つと考えたからだという。
「以前は自分でPCIを行なったほうが効率がいいと思っていましたが、実際にやってみるとコーパスは極めて正確にカテーテルを制御できるというメリットがあり、手が震えて微妙に動くといった手技の影響を受けないことが分かりました。このため、経験の少ない医師でもより精度の高い手術を行なうことができるし、経験を積んだ医師であれば尚更のこと。補助ロボットで全ての患者さんに等しく高いレベルの治療を行なうことも期待できます」
 コーパスによるPCIは、30症例の手術を行なえばシーメンスヘルスケアの認定医療機関になることができる。藤田理事長は実践に備え名寄市立総合病院で症例を視察。その後は海外医師の治療動画で20ほどの症例を勉強し、これまでにコーパスによる18症例の手術を手掛けてきた。手術は3つのコントローラーを使ってカテーテルを回したり押したりしながら操作するが、押し引きのタイミングが難しく、これまでの手技による経験も重要だと実感したという。
「コーパスチームは現在3人体制ですが、まず私自身で30症例を達成し、教えられる立場になることを優先しています。精度の高い手術ができるということでしたが、実際にやってみると自分の熟練度も問われると感じました」と藤田理事長は振り返る。
 コーパスの認定医療機関になると、このロボットを使っている世界の医師のコミュニティに日本代表として参加できる特典もあるそうだ。
「こうした世界の医師たちと情報を共有しながらロボットを進化させることも夢ではありません。将来的にコーパスがもっと進化したら、遠く離れた場所にいる患者さんの治療も可能になるでしょう。そのためにも世界のコミュニティに入り、メーカーに意見を言えるようになれば、もっといいロボットが開発されるかもしれない。これは手術支援ロボット、ダヴィンチも同じで、実現すれば患者さんにとっては朗報です。循環器分野の高度専門病院を標榜している我々の責任として常に新しい技術を取り入れるのは当然。それらを検証し、より高いレベルに持っていくこともミッションだと思っています」と、より高みを目指す姿勢を鮮明にする。 


開院以来続ける成長と進化


 患者に負担をかけない断らない医療、最先端を取り入れた最善の診断と治療──。
 このような目標を掲げた藤田理事長が現在地に19床の循環器内科医院として2008年に開院したのが「札幌心臓血管クリニック」の始まりだ。以後、あらゆる循環器疾患に対応するためスタッフと設備の充実を図り、2012年には心臓血管外科を開設。病床も74床に増やして循環器専門病院に変貌を遂げた。患者数の増加に対応するため18年に85床、そして21年8月には104床に増床し、現在に至っている。
 近年では、カテーテルを用いたPCIでは年間約2600症例と全国有数の症例数を数える。特に最近は心臓血管外科や不整脈などの患者が昨年より1・5倍ほど増えているという。「アブレーション(心筋焼灼術)も増加しており、スタッフが不足するほどです」と藤田理事長。
 コーパスのような最先端医療の導入も積極的に行ない、2019年には手術支援ロボット「ダヴィンチ」も本格稼働。心臓の血流が逆流する僧帽弁閉鎖不全症の治療などに高い効果を上げている。見逃せないのが地域医療への貢献で、同院の医師が札幌市内だけでなく道内の医療機関に出前で診察する「サテライト外来」を開くなどして地域に喜ばれている。
 2020年と21年は多くの医療機関が新型コロナへの対応で苦戦を強いられた2年間でもあった。この中で同病院は昨年5月、独自のネットワークで医療物資を中国から調達し、医療用マスクや防護服の不足に苦しむ医療機関に寄付する取り組みも行なった。
 藤田理事長にとって2021年はどんな年だったのか。
「経営面で新型コロナの影響はあまりなく、新規の患者さんは逆に増えたほどです。セカンドオピニオンを求めてやってくるケースが多いこともその背景にあるのかもしれません」
 課題もある。そのひとつが医師や医療スタッフが辞めない仕組みづくりだ。職員の定着率は他の病院と比べて低くはないが、それでも退職者は出てくる。欠員が出ると補充をし、新たに業務を教えなくてはならない。働き手が入れ替わるのは好ましいことではないし、時間のロスにもつながる。
「職員には本当に長く働いてほしい。しかし、将来を見据えて同時に若い人たちもどんどん採用したい。そのためには、それぞれが活躍できる場所をつくらねばなりません」(同)


新さっぽろでサテライト開院へ


 その“それぞれが活躍できる場所”を実現するため、医療法人札幌ハートセンターでは2022年7月、厚別区にサテライトクリニックをオープン予定だ。進出先は、現在JR新さっぽろ駅周辺で進められている大規模再開発地区で、サテライトはここの「I街区」に設置されるメディカルモールの一角を占めることになる。名称は「新さっぽろ心臓血管クリニック」(仮称)で無床の診療所(延床面積約150坪)とし、本院と同レベルのCTやエコーを導入し外来診療を行なう。手術などの治療が必要な患者は本院と連携して対応するため、厚別区や清田区など遠方の患者にとっては朗報と言えそうだ。
 活躍できる場所はまだ広がる。これまで増築を繰り返してきた本拠地「札幌心臓血管クリニック」だが、年々患者とスタッフが増加し院内が手狭になってきたことから、このほど建て替えることが決まったという。
「完成は3、4年後になると思いますが、現在の建物の後方の広いスペースに新病院を建設し、カテーテル室を10室と手術室5室を設けます。現病院の跡地は駐車場のほか市民講演会を行なうためのモールをつくるなど大がかりなものになると思います」(藤田理事長)
 年に2回、市民の啓発向けに無料講演会「札幌ハートセミナー」などを開いてきた同病院。新型コロナのため現在、開催は控えているが、専用の施設ができれば広く市民に情報発信する場として期待を集めそうだ。
 現在、医師の数は循環器内科・心臓血管外科・麻酔科を含めて28人を数えるが、新病院の完成を見据え3年後には50人体制にする計画。これを生かさない手はないと医療人材を活用した新しいビジネスへの挑戦も視野に入れている。
「最近は麻酔科の医師が増えており、例えば今後は麻酔科医が不足している地域・病院に当院から人材を派遣することもできるでしょう。近い将来には循環器の医師が減少し、地域医療が停滞することも考えられます。そのような場合にも当院が人材面で貢献できれば、これはまさに医療ベンチャーと言えるでしょう」(同)
 循環器分野で100年続く病院を目指し、地域医療にも寄与していく札幌心臓血管クリニック。
 次の時代を見据えた藤田理事長の舵取りに注目していきたい。

 


医療法人札幌ハートセンター
札幌心臓血管クリニック
札幌市東区北49条東16丁目8番1号
TEL:011-784-7847
HP:https://scvc.jp/

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