日本医療大学病院を新築移転したつしま医療福祉G対馬代表に訊く
介護と医療の高度な連携で「地域包括ケア」を完成形へ

2021年11月号

「一連の施設整備を経て新たなスタートラインに立った」と対馬代表

(つしま・のりあき)1953年美唄市出身。83年札幌栄寿会(現ノテ福祉会)を設立し翌年豊平区に特別養護老人ホーム「幸栄の里」を開設。2014年に清田区のアンデルセン福祉村に日本医療大学を開学。15年学内に認知症研究所を開設し、21年日本医療大学の清田区と恵庭市のキャンパスを創業の地である豊平区月寒東に新築移転。社会福祉法人ノテ福祉会理事長。学校法人日本医療大学理事長。つしま医療福祉グループ代表。68歳

Medical Report

我が国における地域包括ケアシステムを牽引する「つしま医療福祉グループ」(対馬徳昭代表・本部札幌)傘下の日本医療大学病院(大友透院長)が8月1日、今年4月に移転した日本医療大学月寒本キャンパスの隣に新築移転を果たした。大学と病院の間にはコミュニティセンター「リアン」も開設。9月1日には、江別市の「生涯活躍のまち」構想の中で同グループが整備を進めてきた「ココルクえべつ」が同市大麻地区で全面開業するなど、同グループにとって2021年はまさに飛躍の年となった印象だ。「多くの人の応援があったから」と語る対馬代表に介護福祉と医療の連携、江別における共生社会事業の意義などを訊いた。
(9月24日収録)

遅れる移転計画
課題山積み北海道医療大の北広島移転

厚真の砂利採取場で起きた産廃不法投棄問題を追う

江差パワハラ死問題で交渉決裂
道「因果関係」否定貫く

つしま医療福祉グループ 「ノテ幸栄の里」が新築移転
地域包括ケアの拠点として在宅生活を支援

介護福祉の先達者が念願した「自前の医療機関」が遂に実現


 ──4月の日本医療大学の月寒本キャンパス移転に続き、8月に同じ敷地内に日本医療大学病院が新築移転。さらには江別市の「生涯活躍のまち」構想で整備してきた「ココルクえべつ」が9月に全面オープンしました。今年はつしま医療福祉グループにとって大きな飛躍の年になった印象です。
 対馬
 感無量です。これらの施設を完成できたのは我々グループの力というより、今まで応援してくださった多くの方々のおかげであり、皆さんの気持ちをしっかり受け止めて、これからの運営に当たっていきます。
 ──日本医療大学病院は、社会福祉法人ノテ福祉会の一員になるそうですね。
 対馬
 10月1日付で運営をノテ福祉会が継承します。これまで医療法人社団日本医療大学が運営母体でしたが、これを財政基盤がしっかりしたグループの中核である社会福祉法人が引き継ぎ、地域包括ケアシステムを完成させていく考えです。
 ──新装オープンした病院の概要を教えてください。
 対馬
 診療科目は一般内科、循環器内科、呼吸器内科、リハビリテーション内科などの他に、もの忘れ外来も開設し、「生活リハビリ」と「看護の質」の2つに重点を置いた病院づくりを行ないます。ここは旧月寒病院時代から消化器外科を中心とする急性期を主体とする医療機関でしたが、運営がノテ福祉会に移ることにより今後は慢性期疾患に力を入れます。具体的には車いすを使っていても自宅で着替えや食事の支度などができるようにする生活リハビリに特化した機能訓練を取り入れ、日本医療大学の看護学科の機能も十分活用して病院における看護の質の向上にも取り組みます。
 ──許可病床は92床でした。
 対馬
 その半分の46床を慢性期の回復病床にします。生活リハビリの面ではスタッフを増員しながら準備を進めており、年内には地域包括ケア病床から始め、段階的に整備。36人のリハビリスタッフをさらに増員し、24時間365日リハビリテーションを受けられる体制にします。
 この他、医療法人が設置主体の介護老人保健施設(入所定員80人・通所定員10人)も併設される形でオープンしており、病院と連携を図っていきます。
 ──つしま医療福祉グループが大学病院を運営する意義は。
 対馬
 介護と医療は地続きの分野であり、長年福祉に携わってきた身としていつか自前の医療機関を運営しなければと念願してきました。
 日本医療大の学生にとって大学病院という臨床の場が身近にあることは、大きな朗報なのは言うまでもありません。大学病院は学生たちにチーム医療を学ぶ場を提供することができます。患者さんの生データを使いカンファレンスを行なうことができるメリットは非常に大きい。医療分野、介護分野における人材育成に大きく寄与してくれることを確信しています。
 ──その日本医療大では学科の新設が相次いでいます。
 対馬
 今年4月に臨床検査学科がスタートし、ここではPCR検査をはじめとする臨床検査のスペシャリストを育成します。
 当グループは、このコロナ禍の中で介護現場で新型コロナの濃厚接触者や疑いのある人のPCR検査を行なっていますが、その業務をここが担っています。さらに病院の入院患者の血液や尿などの検体についても臨床検査学科で分析します。来年4月には月寒本キャンパスに透析やECMO(体外式膜型人工肺)などを扱うメディカルエンジニアを育成する臨床工学科を開設。さらに清田区・真栄キャンパスの総合福祉学部には道内初となる介護福祉マネジメント学科、高齢者や障害者の相談に応じるソーシャルワーク学科もオープンする予定です。
 ──大学病院は、対馬代表のライフワークである認知症の研究にも大いに役立つのでは。
 対馬
 日本医療大に設置した認知症研究所では発症のメカニズムなどを調べていますが、大学病院とジョイントしながら発症を遅らせるための研究にも取り組んでいきます。来年4月には大学病院の「もの忘れ外来」に常勤の認知症専門医が就任する予定です。
 ──認知症研究所を運営してきた手応えは。
 対馬
 認知症を発症した親の介護のため離職を考えていた方が、小規模多機能居宅介護のサービスを使うことで介護と自分の仕事を両立できるようになることが分かってきました。その理由のひとつは、小規模多機能は「通い」と「泊り」「訪問」の3つのサービスの使いわけができるからです。
 認知症は患者一人ひとりの症状が異なるうえ、介護するご家族の就労状況もフルタイムで働いている人もいれば週3日という人もいて、実にさまざまです。このような状況に対し、小規模多機能は3つのサービスを組み合わせ、フレキシブルに対応することが可能なのです。
 3年前、認知症研究所は同居している家族の6割が小規模多機能を使って介護と仕事を両立できるようになったという研究成果を発表しました。これは国内初の調査結果として厚労省など国の審議会において私が報告しました。
 小規模多機能は今、全国で6000カ所ほど展開していると言われていますが、残念なことに半分が赤字経営です。その原因は、利用者に対して3つのサービスをフレキシブルに組み合わせるのではなく、通所なら通所だけと限定して使っているためではないかと私は見ています。本人や家族と相談しながらサービスを組み立てていけるよう、及ばずながら全国の研修会で小規模多機能の運営やサービス計画についてアドバイスさせていただいているところです。
 ──月寒本キャンパスには、コミュニティセンター「リアン」もオープンしました。
 対馬
 リアンはフランス語で「絆」を意味し、日本医療大学と大学病院の間にある3階建ての施設です。1階にコンビニやパン工房のほかATMを設置し、2階にはレストランを整備。3階のフィットネスジムも9月27日にオープンします。いずれも大学で年に一度学生たちに行なっているアンケートから生まれたものです。コンビニは当グループ関連企業が運営し、格安でお弁当などを提供しており全品100円のパンも人気があります。3階のフィットネスジムは学生と職員専用にしていますが、1階と2階は地域の人にも開放しています。是非ご利用いただきたいですね。
 

日本医療大学月寒本キャンパスの隣に新築移転した日本医療大学病院とコミュニティセンター「リアン」

学生たちの要望に応え「リアン」の3階にはフィットネスジムも整備された

「ココルクえべつ」でタッグを組んだ三好市長(右)と対馬代表
(4月26日午後、江別市役所)

「障害者が主役」を掲げる共生社会実践場「ココルクえべつ」
(江別市大麻元町154-17)

日本医療大学月寒本キャンパスの隣に新築移転した日本医療大学病院とコミュニティセンター「リアン」

学生たちの要望に応え「リアン」の3階にはフィットネスジムも整備された

「ココルクえべつ」でタッグを組んだ三好市長(右)と対馬代表
(4月26日午後、江別市役所)

「障害者が主役」を掲げる共生社会実践場「ココルクえべつ」
(江別市大麻元町154-17)

 
開業したココルクえべつを障害者が主役の共生社会に

 
 ──もうひとつのビッグプロジェクト、江別市の生涯活躍のまち「ココルクえべつ」が今年9月1日に大麻地区に全面オープンしました。
 対馬
 同市の公募プロポーザルで選ばれた事業主体として、北海道札幌盲学校の跡地の一部3・2haに高齢者介護と障害者支援関係の施設を集約したほか、地域交流のためのさまざまな施設も整備しました。
 ──具体的な内容は。
 対馬
 高齢者関連の内訳は特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、サービス付高齢者向け住宅、看護小規模多機能型居宅介護事業所です。障害者向けには障害者就労支援グループホーム、就労継続支援A型事業所を整備。このほか企業内保育所、とらふぐ養殖場、地域交流農園、パークゴルフ場、天然温泉施設、パン工房、レストランも集積しています。
 ──まさにひとつの「まち」ですね。江別市の構想と対馬代表の考えが一致した。
 対馬
 札幌のベッドタウンとして江別市の人口は増加傾向ですが、札幌圏への高齢者の流出という悩みを抱えていました。江別市はそれに歯止めをかけるため、江別版CCRC(Continuing Care Retirement Community)として生涯活躍のまち構想を練っていたのです。
 地域包括ケアシステムでは認知症の高齢者のもとへ看護師やヘルパーが訪れますが、実際に家に入ると子供さんやお孫さんが知的障害や自閉症であるケースも散見されます。そんな時に制度の縦割りで障害者へのサービスがこぼれ落ちていたことを実感させられてきました。
 それでいいのかと自問していた時に江別市の構想が出てきた。共生社会の実現に挑戦しようと市のプロポーザルに手を挙げたところ2018年8月に採択され、今年の9月に「ココルクえべつ」としてひとつの形になったという流れです。
 強調しておきたいのは、「ココルクえべつ」の主役は障害者であるということ。高齢者関連の施設の中で障害を持つ人が介護職として就労したり、パン工房でパンを焼く。ここには働ける職場がたくさんあるので、養護学校を出た人がやりたい仕事を選ぶことができます。
 ──対馬代表が「共生社会実践場」と呼ぶこの取り組みは、これからの地域モデルにもなりそうです。市民との連携も不可欠では。
 対馬
 温泉やパン工房など一部の施設がオープン年4月以来、「ココルクえべつ」の来場者は4万人を超しましたが、温泉やパン目当てだけではありません。一口に共生社会と言いますが、障害者が生きがいを持って働くために何をすべきかが問われます。私たちは過去2年間を費やし、障害を持つ子供の家族会などさまざまな団体と協議を重ね、どのようなサービスが必要かを聞いてきました。教育研修の場はもとより、最終的にはどのような環境でどう働くかが求められておりました。障害を持つ皆さんが生き生きと働ける環境を創出することこそ、真のノーマライゼーションにつながります。
 例えば、障害を持つ人がレストランで働く場合はカレーやハンバークなどの注文を厨房に間違いなく伝える工夫も必要になります。ボードを設けて注文を書き込むなど、上手く働くための知恵を出すことが求められる。「ココルクえべつ」では、そんな工夫や知恵を積み重ねて障害者のスキルを磨き、彼らを〝スター〟にすることを目指しているのです。
 ──江別市の協力も必要になりそうです。
 対馬
 同市の三好昇市長は、2015年に閉校した北海道札幌盲学校の跡地に養護学校の誘致を目指しています。在学期間中の3年間、当グループの高齢者施設で実習を行ない介護助手の仕事を覚えてもらい、卒業後は地元に戻り人手不足に悩む老人ホームで介護助手として働いてもらうというプランをお持ちです。
 我々もそれに賛同しており、特別養護老人ホームやサ高住での実習を考えています。お陰様で「ココルクえべつ」は全国最大のCCRCとして注目が集まり、コロナが終息したら見学に行きたいというオファーが各地や海外から舞い込んでいます。
 ──介護福祉・医療・教育を横断する月寒東エリアの取り組み、共生をキーワードにした江別でのまちづくり事業を踏まえ、今後の方向性は。
 対馬
 特別養護老人ホームを核とした札幌の地域包括ケアは、医療を取り込みながら完成に近づいており、それをベースに仙台市での事業も仕上げていきます。また、千葉県船橋市でも特別養護老人ホームの整備が始まり、オープンは来年を予定しています。地域包括ケアを全国各地で展開しながら持続可能で有意義なモデルをつくり、少しでもお役に立てたらと願っています。
 ──コロナ禍では、恒例だったアンデルセングルメ祭りも2年連続で中止に追い込まれました。
 対馬
 本当に残念です。全国的に第5波に見舞われた今年8月には全国の事業所を回り、1人5万円、総額約9000万円の慰労金を直接手渡しました。
 新型コロナの感染拡大時、私は現場からのPCR検査の要請などに備えて入浴時にも浴室の入口にケータイを置き対応していました。第5波に入ってから保健所に電話でお願いしてもPCR検査をしてもらえない状態が続いていましたが、先述のように日本医療大で検査が可能になり、土日も実施していたんです。
 グループ内ではワクチン接種を早期に実施し、6月単月で入所者全員と職員全員が接種を完了しています。日本医療大では職域接種を行ない、学生と教員、家族のほかに地域の人を含めた約3000人が2回の接種を終えました。新型コロナ禍で大学の授業はリモート授業を行なっていましたが、夏休み明けから対面授業に切り替えることができました。ワクチンの2回接種を終えてからは学生の実習を受け入れてくれる医療機関もあり、実習が増えてきました。
 ──これまで時代を先駆けた取り組みで国の介護福祉政策の手本となってきたつしま医療福祉グループですが、国への要望事項などは。
 対馬
 国のコロナ政策は説明不足が批判を受けているものの、かなり積極的によくやっておられ感染者は激減しています。また事業者は、さまざまな補助金のおかげで防護服やマスクを備蓄することができています。介護報酬について言えば、国民負担と介護事業の運営、この両面から最良のバランスが求められるのではないでしょうか。ただこれからの社会保障は、高齢者中心から子供世代の保障を手厚くする全世代型に変わってくることが予想されており、一層気を引き締めているところです。
 今回のコロナ禍では、緊急事態宣言が出てからデイサービスセンターの利用率が大幅にダウンしました。病院も患者さんが来院を控えるようになった。これまで不要不急だったものもあったのかもしれません。新型コロナがあぶり出したものを見極め、介護施設や病院の経営を考えるいい機会になったと思います。
 ──これからの展開が楽しみです。本日はありがとうございました。
 

 


社会福祉法人ノテ福祉会 日本医療大学病院
札幌市豊平区月寒東1条13丁目4-5
TEL:011-852-6777
URL:http://nihoniryou-h.jp/

遅れる移転計画
課題山積み北海道医療大の北広島移転

厚真の砂利採取場で起きた産廃不法投棄問題を追う

江差パワハラ死問題で交渉決裂
道「因果関係」否定貫く

つしま医療福祉グループ 「ノテ幸栄の里」が新築移転
地域包括ケアの拠点として在宅生活を支援

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