CCRC「ココルクえべつ」で目指す定住と共生、交流の新たな共同体
江別市の三好昇市長とつしま医療福祉グループ対馬徳昭代表に訊く
「ココルクえべつ」でタッグを組む三好市長(右)と対馬代表(4月26日午後、江別市役所)
Healthcare Report
江別市大麻地区に社会福祉の新たな地域モデルが誕生する。高齢者や障害者をはじめ地域住民、学生といったさまざまな人々が集うかつてなかった共同体。それが同市の「生涯活躍のまち」構想の中で整備が進められている江別版CCRC(Continuing Care Retirement Community)「ココルクえべつ」である。9月の全面開業に向け北海道札幌盲学校跡地約3.2haに高齢者介護と障害者ケア関係の施設を集約するほか、さる4月にはレストランやパン工房、入浴施設などがオープン。地域住民との交流や市内4大学との連携も図っていく計画だ。本稿の対談では独自のコミュニティ創出を目指す江別市の三好昇市長、そして事業主体に選ばれた地域包括ケアシステムの先駆者、つしま医療福祉グループの対馬徳昭代表に登場いただいた。政府が推進するCCRC構想の中で定住と共生、交流という3つのキーワードを掲げる野心的な取り組みとは──。(4月26日午後、江別市役所で収録)
高齢者と障害者が定住できる江別版「生涯活躍のまち」構想
(みよし・のぼる)1949年2月14日オホーツク管内津別町出身。72年3月明治薬科大学卒業。同年4月道職員として奉職。99年保健福祉部総務課長、2002年保健福祉部保健医療局長、04年保健福祉部次長、05年石狩支庁長を経て07年江別市長に初当選、以降19年の選挙まで連続当選し現在4期目。72歳
(つしま・のりあき)1953年空知管内美唄市出身。83年札幌栄寿会(現ノテ福祉会)を設立し、翌年豊平区に特別養護老人ホーム「幸栄の里」を開設。2014年清田区のアンデルセン福祉村に日本医療大学を開学。15年学内に認知症研究所を開設。21年日本医療大学を豊平区月寒東に移転。つしま医療福祉グループ代表、社会福祉法人ノテ福祉会理事長、学校法人日本医療大学理事長。68歳
地域包括ケアの先駆者として新たな社会福祉モデルを創出
──そういった経緯の江別版CCRCの運営主体に、プロポーザル公募でつしま医療福祉グループが選ばれた。対馬代表にお聞きします。グループとして同事業に手を挙げた理由は何だったのでしょうか。
対馬 ひとつには、この事業を担う当グループの社会福祉法人日本介護事業団が奈井江町で経験したことが大きくかかわっています。そもそもこの公益法人は、同町が運営していた特養や老健の事業を受け継いで欲しいとの町の要請を受けて設立したものでした。
ただ当初は、地方のまちに赴く形でただ単に特養・老健の運営だけを行なうということは我々には合わない、といった判断からお断りしていたんです。そうした中、当時の北良治町長から、施設の運営のみならず在宅の高齢者のケアを含め、高齢化が進む同町において人口減少を食い止めるための手立て、いわばまちづくりへの協力をお願いしたいとのお話があり、町長のまちを想う熱意に応えたいと考え、奈井江町での地域包括ケアを目指す取り組み、そして雇用創出に寄与する事業展開をさせて貰うことを条件に日本介護事業団を設立するに至りました。そうして展開した同町での取り組みで分かったのが「地域に病院や高齢者施設があればそれで良い」ではないということ。当然ながら施設などに頼らず在宅で暮らし続けたい方々もいらっしゃいますから、そのようなニーズに対応するためにはさまざまな基盤づくりが重要だということが分かったのです。
先に三好市長が触れた通り、江別市の生涯活躍のまち事業を推し進める大きなきっかけとなったのは、地元に暮らす高齢者の札幌転出に歯止めをかけること。すでに奈井江町で同じ目的の取り組みを実践してきた我々としては、より規模の大きな自治体でもチャレンジしたいという思いがありました。
もうひとつの理由は、我々が力を入れている地域包括ケアとの兼ね合いです。全国に先駆けて札幌を中心に構築・実践してきた当グループの地域包括ケアシステムは、お陰様で国から先進モデルとして認められるようになっています。これまでは、高齢者を中心にサービスを組み立ててきたわけですが、実際の事業フィールドは高齢者のみならず障害を抱えた若年層や子どもさんなど、支援が必要なさまざまな方々がいらっしゃる。ですから本来であれば、そのような幅広い方々を地域で共に支える、いわば共生社会の仕組み作りが必要と言えます。そういった地域づくりを思いを同じくする江別市とともに、ココルクえべつで目指したいと思ったんです。
──江別市として、応募事業者の中からつしま医療福祉グループを選定した理由については。
三好 選考委員会による議論の中で重視されたひとつが、これまで実績があり安心して任せられる事業者であるという点でした。
またつしま医療福祉グループは、多くの介護施設はもとより自ら大学も運営されるなど人材を確保しやすい事業環境にあるという点も大きかったと思います。我々が懸念していた事柄に、規模の大きな新規の施設が出来ることで、既存の福祉事業者が人材難に陥るのではないかというものがありました。そもそも現在はどこも介護人材不足に悩んでおり、この面での競争が起きることが心配だったんです。
これに対し、つしま医療福祉グループは、既存事業者に迷惑をかけることなく自分たちの力で責任を持って職員を確保できると表明していただいた。この点も選考委員会はとても高く評価していました。
加えて、先にも触れたような障害を持った方々とも一緒になって取り組む活動内容、さらには地元商店街や自治会、タウン型CCRCの象徴とも言える地元4大学(酪農学園大学・札幌学院大学・北翔大学・北海道情報大学)の学生などとの連携提案も我々の意に叶うものでした。また敷地内に温泉施設にレストラン、パン工房などを併設し、雇用の場を豊富に創出するといったプランも他の地域にはない内容で、大きな期待を寄せたところです。
──まさに両者の思惑が一致した感がありますね。ただ「CCRC」という言葉や取り組みは、まだ一般的に馴染みが薄い印象です。
つしま医療福祉グループの社会福祉法人日本介護事業団が運営を担う「ココルクえべつ」の完成予想図(江別市大麻元町154)TEL:011-807-7260=開設準備室
パン工房「あさのわ」の店内
「こう福亭」で提供されるふぐの刺身「てっさ」(昼はうどんの店「開拓うどん」、夕方からはふぐとうどんの店「こう福亭」として営業)
天然温泉が楽しめる入浴施設「ココルクの湯」
(みよし・のぼる)1949年2月14日オホーツク管内津別町出身。72年3月明治薬科大学卒業。同年4月道職員として奉職。99年保健福祉部総務課長、2002年保健福祉部保健医療局長、04年保健福祉部次長、05年石狩支庁長を経て07年江別市長に初当選、以降19年の選挙まで連続当選し現在4期目。72歳
(つしま・のりあき)1953年空知管内美唄市出身。83年札幌栄寿会(現ノテ福祉会)を設立し、翌年豊平区に特別養護老人ホーム「幸栄の里」を開設。2014年清田区のアンデルセン福祉村に日本医療大学を開学。15年学内に認知症研究所を開設。21年日本医療大学を豊平区月寒東に移転。つしま医療福祉グループ代表、社会福祉法人ノテ福祉会理事長、学校法人日本医療大学理事長。68歳
つしま医療福祉グループの社会福祉法人日本介護事業団が運営を担う「ココルクえべつ」の完成予想図(江別市大麻元町154)TEL:011-807-7260=開設準備室
パン工房「あさのわ」の店内
「こう福亭」で提供されるふぐの刺身「てっさ」(昼はうどんの店「開拓うどん」、夕方からはふぐとうどんの店「こう福亭」として営業)
天然温泉が楽しめる入浴施設「ココルクの湯」
世代の違いや障害の有無を問わず集えるコミュニティ
対馬 CCRCとは、1970年代以降、米国で生まれた概念と取り組みです。現役を離れたシニア層が大学院などで再び学びたいという動きに伴い、さまざまな州の大学を中心にシニア層のコミュニティが形成されるようになりました。富裕層を中心にした高齢者がリタイア後に健康な状態で入居し、学びながら人生の最後まで暮らすことができる生活共同体が生まれていったわけです。
これにより大学など学びの場がある地域の人口減は抑制されるようになった。そうした効果を狙ったのが日本版CCRCと理解しています。ですから当初の方向性は、首都圏の方々を地方への生活へと誘導することだったと言えます。
しかし江別のことに話を戻すと、このまちに首都圏もしくは札幌圏におけるリタイア世代が移住するというのは、現実的には難しい。それよりも現在の人口を減らさない取り組み、長年住み慣れた土地で生涯暮らしていけるようにすることが重要だろうと。いずれにしても人々の転出抑制や転入促進を考えるうえで、念頭におかなければならないのが地元に「楽しい場、活気がある場」がなければ人は集まらないということ。ですのでココルクえべつは、訪れるさまざまな方々に楽しんでもらえるエリアになるよう心掛けています。
先ほど三好市長が養護学校誘致を目指す取り組みについて触れられましたが、我々としてはココルクえべつの各施設を市内にある4大学の学生や養護学校の生徒の皆さんに実習の場として是非活用してもらいたい。そして卒業後は、当グループでの就業というキャリアルートも見据えたいと考えています。
──学生や障害のある方がココルクえべつで学びやスキルアップの機会を手にし、その後は地元で働きの場も得ていくという人材育成の好循環も期待できる。
三好 国の目指す形であるアクティブシニア層の地方移転ですが、移転してきた方々もやがてはケアが必要になるという事実は避けられません。それに直結して受け入れ自治体の医療費や介護保険などの社会保障費用負担は膨らんでいきます。先に江別版CCRCのきっかけとして地元高齢者の札幌への転出抑制を挙げましたが、札幌市としては市外からの転入が増える度に、将来的な社会保障負担も増しているわけです。そういった観点からも当市としては、地元の方にはずっと江別で暮らし続けて欲しいんです。
──ココルクえべつでは、4月1日に障害者就労訓練グループホーム(定員20人)をはじめ就労継続支援A型事業所を兼ねたパン工房とレストラン、温泉を楽しめる入浴施設などが開業しました。来たる9月にグランドオープンということですが、今後のスケジュールは。
対馬 7月1日に企業内保育所(定員30人)、同月26日に特養(全室個室80床)と看護小規模多機能型居宅介護事業所(通い18人、宿泊9人)が開業します。9月1日に老健(全室個室80床、通所デイケア20人)、サ高住(全50室)をオープンさせて大方の施設整備を完了する計画です。
──まさに多彩な構成ですね。対馬代表が今回の事業に込めた思いは。
対馬 ひとつは、世代の違いや障害の有無に関わらずさまざまな方々がここに集えるように多様なプログラムを提供するということです。江別市側で熱心にPRしていただいたことも奏功して、4月1日のオープン以降4週目が経過した4月24日までに6千人を超える市民の方に来ていただきました。これから10年、20年と続けていく事業ですので、我々としては焦らず少しずつ足場を固めながら地域のニーズに合った在り方を形作っていきたい。
ココルクえべつは、江別市と当グループ、そしてこの地で盲学校を運営していた北海道との3者連携による事業という性格も併せ持っています。そこで道には、ココルクえべつという共生社会推進の拠点が北海道に生まれたことを、全国ひいてはアジア圏など海外に向けても積極的に発信してもらいたい。中国などでも共生社会への関心がとても高まっているのですが、海外も視野に入れた広範囲にわたる情報発信には、道の力は欠かせないと捉えています。
三好 当市において、形となって示されたココルクえべつという共生のまちづくりモデルを評価していただき、それを広く全道にお知らせしたいと考えているところです。道には、江別での取り組みを参考に、道内のそれぞれの地域に相応しい共生社会の構築を指導していただければと考えています。
ココルクえべつの取組みを全国に広げる地域モデルに
──ところで三好市長は、すでにココルクえべつで食事を楽しまれたとか。
三好 お世辞抜きに、とても美味しかったですね。ココルクえべつに行くからその場所で食事を取るというのではなく、純粋に美味しいからその店に行こうと思わせる味でした。
そういったメニュー作り、店作りのこだわりがリピーターを増やし、事業を長続きさせることにつながると感じています。パン工房や入浴施設も同様で、パンの美味しさ、お風呂自体のこだわりや魅力で人々の関心を集めています。このようなスタンスは、つしま医療福祉グループの介護福祉事業全般にも通じるものだと思います。
対馬 入浴施設の温泉は、現在のところ当グループのアンデルセン福祉村(札幌市清田区)で湧いているものを運んでいるのですが、秋以降、敷地内で掘削する作業も始めます。ここでは近隣自治体の竹山高原温泉などでお馴染みのモール温泉が湧くということです。
──北海道ではとても珍しい養殖のトラフグをレストランで食べられる点も非常に個性的です。
対馬 トラフグの養殖自体は、元々アンデルセン福祉村で湧き出す温泉の有効活用として行なっていたものでした。そのノウハウをココルクえべつでも活かそうということで、6月1日には敷地内に養殖場が完成し、ゆくゆくは4000匹程度のトラフグをここで養殖する計画です。現在はレストランで召し上がってもらう形での提供ですが、将来的には地域の飲食店にも安価で提供したいと考えています。加えて江別の新たな特産品として広めていければ嬉しいですね。
──先ほど述べられた地元4大学との連携について、どのような取り組みを考えていますか。
三好 実のところ大麻地区の商店街と大学生たちはかねてより、さまざまな事業活動で連携してきました。ですので、ココルクえべつでもいろいろな形の連携実現は大いに期待できます。
対馬 例えば健康福祉学科がある北翔大学は、学んでいることがいわば我々の事業と地続きですから多岐に及ぶ連携ができるでしょう。また酪農学園大学を例にすると、ココルクえべつでの農畜産物の地産地消や特産食材の販売なども想定できる。さらには学生アルバイトの受け皿として幅広く寄与していくと思います。
──最後に、今後に向けての抱負をそれぞれ聞かせてください。
対馬 CCRCの規模としてココルクえべつは国内最大級であり、定住と共生、そして交流という3つのキーワードを掲げる野心的な取り組みでもあります。ゆくゆくは、ここをひとつのモデルにして、各地域に合った形に落とし込んでいくCCRCが全国に広がっていってほしいと願っています。これからの社会福祉は、高齢者だけではなく障害者や地域住民の存在を踏まえ、広範囲かつそれぞれが連携する取り組みでなければなりません。
三好 ココルクえべつが動き始めたことに伴い、市民の方々から大麻地区のみならず全市的な取り組みを期待する声が上がり始めました。
先ほど、当市を構成する3地域のうち江別地区と野幌地区は既存施設を有機的に連携させたエリア型の取り組みを進めていくと話しましたが、そのためにはココルクえべつの大麻地区をはじめ各地区での成功事例や改善点を検証する考えです。そうしてエリア型とタウン型それぞれの長所・短所を踏まえ、やがては全市をカバーできる形のCCRCモデルを、ここ江別で構築していきたいと思っています。
──ココルクえべつが全国のCCRCを牽引するモデルになることを期待します。本日は、ありがとうございました。<
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