循環器と腎臓を同時にケアし患者の人生に寄り添う医療を
全面リニューアルオープンした北海道恵愛会の札幌南一条病院
「患者の人生に伴走する医療を提供したい」と語る工藤院長
(くどう・やすお)1955年函館市出身。79年3月札幌医科大学医学部卒業。同年4月同大医学部第二内科入局。イギリス、アメリカ留学などを経て87年9月南一条病院勤務。2004年札幌南一条病院院長就任。14年4月札幌医科大学臨床教授。医学博士、日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医。65歳
Medical Report
社会医療法人北海道恵愛会(西田憲策理事長)が運営する札幌南一条病院(札幌市中央区/工藤靖夫院長・147床)が7月1日、全面リニューアルオープンした。旧病院の老朽化に伴い敷地内で新築工事を行なっていたもので、快適性や利便性の向上はもとより、多様化する地域の医療ニーズに対応していく態勢を整えた。中でも特筆すべきは、従来から力を入れている循環器・腎臓内科分野における腎臓病センターの機能強化だ。患者のライフスタイルや要望に応えて大幅に透析環境の充実が図られた。ここで16年前からトップを務め、「高齢・合併症のある患者に、より専門性の高い治療を提供していきたい」と抱負を語る工藤院長に新病院の概要と役割を訊いた。(7月15日取材)
半世紀ぶりのリニューアル
札幌市の都心から西に延びる電車通りに面し、このほどリニューアルオープンした札幌南一条病院は、中村記念病院の旧病棟を利用し、北海道恵愛会が1981年に開設した歴史ある医療機関だ。
開院当時は南一条病院と称されていたが、2003年に肺がんに特化した札幌南三条病院が新設され、呼吸器関係の急性期治療を移転。これに伴い病院名も「札幌南一条病院」に変更され、以後は慢性期にある循環器疾患や呼吸器疾患、人工透析を中心とした診療を行なってきた。
このような中で築50年近く経過した施設の老朽化を踏まえ建て替えが計画され、2017年9月から3期に分けて敷地内で建築工事を実行。このほど全面オープンにこぎ着けたものだ。
「ただ施設を新しくするだけではなく、多様化する医療ニーズに適応できる病院づくりを目指しました。高齢化を背景に重症あるいは合併症を抱え介護も必要な患者は増えてくる。そのような人たちが専門的な治療を受けられるような施設にしていきたい」
こう抱負を話すのは、16年前から院長を務める工藤靖夫医師だ。
新病院は地下1階地上7階の鉄骨造りで延床面積は8600平方m。1階に受付ロビーと外来部門、診療、検査部門を配置、2階は外来患者と入院患者用それぞれの透析室。3階に薬局とリハビリ室、4階から6階は一般・障害者病棟。7階は管理部門のほかに屋外テラスを配置し、入院患者が外の空気を吸いリフレッシュできるようにした。
高齢化による腎臓病患者の増加に対応するため、従来からあった腎臓病センターの機能も強化した。腎不全患者が受ける透析医療では外来用48床、入院患者用22床(内個室ベッド2床)の透析用ベッド計70床を設置。このほか重症の透析患者用に4階と5階病棟に個室2床ずつの透析用ベッドも設けた。透析室の個室は感染症にも対応しており、陰圧換気の個別空調システムを導入している。
「透析のベッド数は旧病院と同じですが、以前は透析室が4カ所に分かれ、外来と入院患者が同じ部屋で治療を受けることもあった。このためスタッフのマンパワーが分散し、非効率な面がありました。これを改善するため新病院では、外来と入院患者の透析室を分けて再配置しました。スタッフも一カ所に集まるので効率的に患者を診ることができます。また呼吸器を付けているような重症患者については、個室で透析治療を受けることができるようになりました」(工藤院長、以下同)
快適性と利便性が向上した透析環境(2階)
屋外テラスで気分転換(7階)
広々とした受付ロビーと外来部門(1階)
快適性と利便性が向上した透析環境(2階)
屋外テラスで気分転換(7階)
広々とした受付ロビーと外来部門(1階)
さらに充実した透析治療
札幌南一条病院の大きな柱となっている人工透析は、腎不全で失われた腎臓機能を代行するため、体内から取り出した血液を「ダイアライザー」という透析機器に循環させ、尿毒素や過剰な水分を除いた上で体内に戻す治療法。
同院はコンピュータによる透析装置の集中管理システムを道内で最初に導入したことで知られ、現在も血液ろ過で使う補充液に機械で浄化した透析液を用い、血液を効果的に浄化できるオンラインHDF(血液ろ過透析)を使った最新の治療を提供している。
患者の生活スタイルに合わせ夜間透析や自宅で透析のできる腹膜透析にも応じていたが、今年2月からは宿泊型の「オーバーナイト透析」(長時間透析)も始めた。仕事を終えてから夜間に透析治療を受け深夜に帰宅することにストレスを感じるという患者の声に応えた形だ。
オーバーナイト透析の実施日は月、水、金の週3日。日中フルタイムで仕事をしている人で、透析導入1カ月以上経過していること、重篤な合併症や既往歴がないなどの移行条件を満たせば治療を受けることができる。外来専用透析室で行ない、透析中の機器チェックは原則1時間ごと。バイタルサインチェックは睡眠を妨げないよう透析開始時と開始後1時間、透析終了の3回行なう。
オーバーナイトという言葉から気が遠くなるように感じる人もいるようだが、透析は就寝中に行なうため実際の体感は1~2時間程度だという。体内の尿毒素の多い人に向いており、時間をかけてゆっくり体外へ排出するので、体への負担も軽減される。
「オーバーナイト透析はモニターを使いスタッフも泊り込んでいるので、安心して受けることができます。日中、フルで働いている人が寝ている間に透析を行なうので、透析後の怠さや発汗異常など身体症状やストレスの軽減など大きなメリットがあります」
透析を行なう際の人体側の血液の出入り口、バスキュラーアクセスの管理も腎臓病センターが担う。透析に当たっては、体内から血液を取り出し再び体内に戻すため手首付近の動脈と静脈をつなげて静脈血管を太くするシャント造設術を行なう。だが、このシャントを長く使っていると血管が詰まったり細くなることも少なくない。人工透析で効率良く尿毒素や水分を抜くにはバスキュラーアクセスの管理が非常に重要になってくる。同院の腎臓病センターではシャント造設術からシャント再建術、血栓除去、血管形成術(PTA)など病変に応じた治療法に応じ、良好な成績を収めているという。
「透析患者のQОLを確保するためにはバスキュラーアクセスの管理は必要不可欠です。長く使い血管が潰れた場合は管を入れて透析しますが近年は恒久的に埋め込むカテーテルも出てきました。札幌の中心部で74床の透析用ベッドを有し、バスキュラーアクセスを管理できる病院があることは市民にとって心強いことだと思います」
手厚いケアで看取りまで
札幌南一条病院は開院時から循環器と腎臓を一緒に診る「循環器・腎臓内科」を標榜し診療を続けている。これは「循環器疾患と腎疾患を併発している患者が多く、腎臓の悪い患者の死因の一位は心不全」という臨床経験に基づくものだという。
この辺りの事情について工藤院長は次のように語る。
「私は元々は心臓が専門で、大学では虚血性心疾患グループに所属していました。ところが最初に受け持った患者も2人目の患者も腎臓病。そして当院に赴任してからは心臓、腎臓、糖尿病などさまざまな患者と関わるようなった。人工透析でバスキュラーアクセスの管理をするのも循環器の仕事であり、腎臓と循環器は密接な関係があります。こうした臨床経験から心臓も腎臓も診る医者でなければだめだという考えで診療に取り組んでいます」
その腎臓病の治療では、同院は尿たんぱくが出た初期から腎生検などの検査に基づき、適確な治療や食事療法などの生活指導を行なっているが、どうしても腎不全になる患者は出てくる。そうなった場合の治療の選択肢は人工透析か腎移植しかない。
「当院は食事療法の指導に力を入れDVDなどでも啓発を図っていますが、食事や薬で症状を抑えきれない患者の多くは血液透析を受けています。患者の中には透析を敬遠する方もおられますが、尿毒症で苦しくなると治療に踏み切るケースがほとんどです。今は外来だけでなく夜間透析やオーバーナイト透析、血液透析以外の腹膜透析もあるので、その人のライフスタイルに合った選択肢から選ぶことができます」
こう語る工藤院長は、中学2年の時に祖母が夜中に心筋梗塞を起こし、満足のいく治療が受けられなかったことがきっかけとなり医師を志したという。
「札幌医科大学の和田寿郎教授(故人)が日本初の心臓移植手術を行なった頃で、学ぶなら札医大しかないと思いました。胸部外科の和田教授はカリスマ的な魅力のある先生でしたが、循環器内科教授の『医者になる前にいい社会人にならなければだめだ』という言葉に惹かれ循環器内科を選びました」
穏やかで謙虚な人柄の工藤院長の言動からは恩師の教えを守ってきたことが伝わってくる。
「どのような治療を選ぶかは、患者や家族の倫理観や宗教もかかわってきます。長く患者を診ていると病気を治すだけではなく、その人の人生を一緒に歩んでいると感じることがあります。だからこそ、患者さんから『この病院でなければだめだ』と言ってもらえる医療施設にしなければ。当院は高齢で介護の必要な患者も入院して透析治療を受けることができますし、合併症を起こした人も転院せず診ることができます。年を取り動けなくなったから他の施設に移ってもらうのではなく、最終的には看取りまで行なえるのが強み。これは患者や家族の安心感につながる大きなポイントかと思います」
社会医療法人北海道恵愛会は、先述のように肺がん治療に特化した札幌南三条病院も運営しており、互いに独自の役割を担いながら連携できる強みがある。工藤院長によると肺がんの疑いのある患者は札幌南三条病院に診療を依頼。逆に札幌南三条病院から肺がんの化学療法で体力を消耗している患者のケアを頼まれることもあるという。
専門性と独自の取り組みで患者を手厚くケアする札幌南一条病院。高齢化の進展を背景にますます存在感が高まっていきそうだ。
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