坂泌尿器科北広島クリニックの池田龍介院長に訊く〝患者貢献〟
新築移転する本院との連携で高度な専門医療を地域に提供

2020年8月号

(いけだ・りょうすけ)1952年岡山県出身。金沢医科大学卒業。同医大泌尿器科講師、助教授を経て2004年3月教授に就任。同年4月赤羽中央総合病院に赴任し副院長・泌尿器科部長を経て07年院長、19年4月名誉院長。20年5月坂泌尿器科北広島クリニック院長に就任。医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医。68歳

Medical Report

新築移転をこの秋に控える坂泌尿器科病院(札幌市北区/坂丈敏院長・40床)。症例数などにおいて泌尿器科分野で全国屈指の同病院を運営する社会医療法人北腎会(同理事長)が5月1日、JR北広島駅近くに「坂泌尿器科北広島クリニック」を開院した。地域に泌尿器科の医療インフラがない患者ニーズに北腎会が応えたもので、院長には坂理事長との縁で金沢医科大学元教授の池田龍介氏が就任。「地域に根を下ろし患者さんに満足してもらえる治療を提供したい」と意欲を見せる池田院長に、クリニックの概要や本院との連携などを訊いた。(6月25日取材)

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地域が望んでいた泌尿器科

 
 JR北広島駅に近い北広島エルフィンビル。北広島医師会や地元の社会福祉協議会、夜間救急センターなどの公的機関が集積する同ビルの1階にオープンしたのが「坂泌尿器科北広島クリニック」(以下北広島クリニック)だ。ここでは池田院長の陣頭指揮の下、膀胱炎から前立腺肥大症、尿路結石、尿路悪性腫瘍など泌尿器科全般の外来診療を行なっている。
 運営母体の北腎会は1987年に札幌市北区に坂泌尿器科病院を開設して以来、一貫して泌尿器科分野の専門医療を提供。だが道内では、医師の地域偏在などにより地方によっては必要な治療が受けられないことがままあり、泌尿器科分野もこの例外ではなかった。
 このような事情に鑑み、同法人は地域の要望に応えるため、サテライト機能を持たせた「坂泌尿器科千歳クリニック」(千歳市)、定位放射線治療に特化した「脳神経・放射線科クリニック」(札幌市北区)を従来から展開。そんな中で北広島市には泌尿器科を標榜する医療機関がなく、地元医師会などからクリニックの開設を望む声が上っていた。
「当クリニックが開院するまで泌尿器疾患で悩む人は恵庭や江別、札幌の病院に通院するしかなかったそうです。患者は高齢の方が多く、中には通っていた病院から紹介状をお持ちになり治療を要望される方もおられ、地域の方に喜ばれていることを実感しています」
 こう語る池田院長は、石川県・金沢医科大学出身の泌尿器科専門医。同医大泌尿器科の教授を務めた後、2004年4月、東京都北区の赤羽中央総合病院に赴任。臨床医としてこれまで豊富な経験を積んできた。そんな池田医師に転機が訪れたのは昨年。「北広島クリニックの院長を引き受けてくれないか」という坂理事長からの打診だった。池田院長は、迷わずこの誘いを引き受けたという。
「私が研修医の頃、尿路結石の新しい治療法として体外から衝撃波を当てて結石を破砕するESWL(体外式衝撃波結石破砕術)が出てきました。坂理事長は当時勤めていた三樹会病院(札幌市白石区)で初めてアジアでESWLを始めたドクターとして知られ、私も師事したことがありました。泌尿器科分野において全国トップクラスの先生と一緒に仕事ができるのは大変名誉なこと。今後は、本院と連携しながら北腎会が掲げる地域に根差した医療を提供してきたい」と意欲を見せる。
 北広島クリニックの延床面積は225.83平方m。診療科目は泌尿器科全般でCTスキャンや超音波検査、尿残量測定検査、尿検査、残尿測定検査を行なう機器を備える。
 北広島クリニックの強みは、何と言っても本院である坂泌尿器科病院との連携だ。精密検査で尿路結石、前立腺がんなどが判明し、手術や入院が必要な患者は本院で対応。本院とクリニックは患者の電子カルテを共有しており、疾患の状態を相互に確認し合えるメリットは大きい。また夜間などの診療時間外でも、緊急時には本院で対応が可能だ。
「本院との連携で手術をはじめ専門性の高い医療をスムーズに提供できることが、患者さんにとって大きな安心感に繋がっていると思います。手術後はこちらに通院してもらい、経過観察していくこともできます」と池田院長。
 開院後、尿管結石や前立腺がんの疑いのある患者、腎臓の悪性腫瘍の患者を本院につなげており、北腎会グループならではの体制で患者のQOLを高めている。
 坂泌尿器科病院は、2018年度の症例実績で前立腺肥大症のHoLEP(ホーレップ=前立腺核出術)で全国1位となったほか、前立腺がんの退院患者数で道内トップになるなど、全国有数の泌尿器科病院としての地位を確立している。
 注目されるのが、今年9月に予定されている現在の北区からJR琴似駅周辺(西区八軒)のへの新築移転だ。移転先では外来部門を強化し検査体制を刷新。病床は40床から59床になり、手術室は現在の3室から4室に。さらにESWL専用の処置室を別途設け透析も10床増やし40床にする。このほか大型の自家発電機の導入で停電時でも透析を含めた医療が実施可能となる。ハードを一新することで次代を担う泌尿器科専門病院としての体制を整える。
「新築移転で本院のポテンシャルが各分野で一層レベルアップされます。これを後ろ盾に、サテライトクリニックでは、しっかりした診断を行ない、必要な患者を繋げていくことが必要です」(同)
 

検査体制も充実。院内にはCTも備える

前立腺疾患の模式図

9月に移転する坂泌尿器科病院(画像は新病院の完成イメージ)

検査体制も充実。院内にはCTも備える

前立腺疾患の模式図

9月に移転する坂泌尿器科病院(画像は新病院の完成イメージ)

前立腺肥大と過活動膀胱

 
 泌尿器科では腎臓や尿管、膀胱と尿をつくって体外に排泄するまでの臓器と精巣、前立腺など男性の生殖器に発生する病気を扱う。食生活の欧米化や高齢化の進展に伴い、泌尿器の病気で悩む人は増えているが、恥ずかしさもあり受診を控え悪化するケースも少なくない。
 池田院長はESWLなどで2000症例以上、腎摘出や尿路結石など上部尿路手術で200症例以上、TUL(経尿道的腎尿管砕石術)などの下部尿路手術で500症例以上の手術歴を有する。そんなエキスパートに注意すべき泌尿器科の病気について解説いただいた。
「北広島は高齢者が多く、70代から80代の男性であれば前立腺肥大症、女性は過活動膀胱つまり尿失禁に関する訴えが多い」
 前立腺肥大症は加齢に伴い、尿道の奥にある前立腺が肥大し尿道が圧迫され頻尿や尿失禁などの排尿障害が起きる病気。兆行は40代前半から見られ、原因は加齢によるホルモンバランスの崩れとされるが、はっきりとしたことは分かっていない。
 治療は尿道の圧迫を緩和する薬を服用し、肥大した前立腺を小さくする。薬で効果がない場合はレーザーを使って肥大した前立腺の腺腫のみをくり抜く先述のHoLEPを行なう。従来行なわれてきたTUR-P(経尿道的前立腺切除術)は、出血が多くなりがちなため現在は低侵襲なHoLEPが坂泌尿器科病院では主流だという。
 女性に多い過活動膀胱は膀胱の過剰活動でトイレが近い、急な尿意で漏れてしまうなどの症状が出るもので50代から60代での発症が多い。
「過活動膀胱は膀胱内部の収縮させる神経とそれを伸ばす神経のバランスが悪くなり、排尿のメカニズムが上手く働かなくなる病気です。治療は薬による内科的な治療でほぼ改善します。一方、過活動膀胱でなくてもクシャミや重い物を持つ、立ちあがった時などに尿が漏れる場合がある。これは腹圧性尿失禁といい膀胱と子宮、直腸を支える骨盤底筋というハンモックのような筋肉が年齢と共に弱くなるため起こります」
 腹圧性尿失禁のように筋肉の弱まりで起こるトラブルは薬と骨盤底筋を鍛える体操で症状を改善する。それで効果がなければ、手術で骨盤底筋を持ち上げる手術を行なう。
「高齢の方でも尿漏れパッドを使うのが嫌で手術を希望する人はいます。手術を行なえば尿漏れは止まりますが、中には子宮が下がってくるため子宮脱や膣脱を併発している患者もいます。そのような場合は弱くなった骨盤底筋を補強する手術を行なうこともあります」
 

北腎会の一員として全力を

 
 気になる泌尿器科領域のがんは男女によって異なる。男性に多いのは膀胱がん、前立腺がん、精巣腫瘍で腎臓がんのリスクも高い。
 膀胱がんから説明すると、腎臓でつくられた尿は腎盂、尿管を通り膀胱に溜まり、いっぱいになると尿意をもよおし膀胱が縮んで排泄される。膀胱の内側は腎盂、尿管、尿道の一部と同じく移行上皮(尿路上皮)という粘膜で覆われており、膀胱がんの90%以上は移行上皮から発生する。男女比では男性の方が女性より3倍多く発症するとされ、60歳以上で増加し、大半の発症原因は不明だが、喫煙や特定の化学物質にさらされることなどで発生頻度が増加することがわかっている。
 前立腺がんは高齢になるほど罹患率が高まり、早期は自覚症状がない。早期発見と治療につなげるためには定期的に血液検査でPSA値を測定することが必要だ。
 精巣は男性の陰嚢内にあり、左右ひとつずつ存在し、男性ホルモンの分泌や精子をつくる働きをする。精巣がんになると精巣が腫れたり硬くなるが、痛みなどを感じないことも多く進行してから気付くケースも少なくない。発症は20代前後と60代以降の2つのピークがある。ただ、若者層と高齢者層ではがん細胞の組織成分が異なり、高齢者層は悪性リンパ腫の頻度が高い。
「精巣は2つあるため、片方ががんに侵されても片方が正常なら子供を持つことは可能です。ただ精巣がんは進行が早いので早期発見・治療が必要です」
 


 本院の新築移転という一大事業を控え、旧病院の跡地に坂泌尿器科新川クリニックを9月7日に開設、さらには泌尿器科医療が不足する夕張市、新篠津村などに医師を派遣するなど公益性の高い医療活動を展開する北腎会。取材の最後に池田院長に今後の抱負を聞いた。
「坂理事長の下に集まっている医師たちは経験が豊富。腹腔鏡手術、内視鏡下手術それぞれにスペシャリストがおり、中でも結石分野の治療では日本でも有数の医師もいます。そうした医療人材に恵まれ、それが大きな力と患者さんへの貢献を生んでいるのだと思います。私たちも、その一員として北広島で最良の医療を提供していきたい」
 

社会医療法人 北腎会
坂泌尿器科 北広島クリニック
北広島市栄町1丁目5-2 北広島エルフィンビル1階
TEL:011-807-7890

通信大手元幹部の不動産投資詐欺を追う

野次排除事件から5年
国賠「半分勝訴」確定

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市が虐待認識を否定

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