使命感をスタッフと共有し口腔衛生分野にも積極進出
「食べる歓び」を陰から支える歯科技工所 プライムデンタル

2020年10月号

プライムデンタルではチームワークの良さが自慢だ(前列右から2人目が北島社長、中央が小林専務)

Medical Report

健康を維持していく上で欠かせないのが歯だ。今回紹介するプライムデンタル(札幌市西区・北島正之社長)は「歯科技工で楽しく食べる歓びを」を経営理念に掲げ、患者一人ひとりに合わせた義歯(入れ歯)をつくり続けている歯科技工所。健康を陰から支える技術者集団と言っていい。少子化の影響などで歯科技工士のなり手不足が深刻化しているが、創業25周年を迎えた同社は高いチーム力をベースに口腔用保湿剤の販売など新規事業にも取り組んでいる。「お口のトータルサポートカンパニー」を目指す同社を訪ね、北島社長に今の時代における歯科技工士の役割や今後の方向性について訊いた。(8月17日取材)
 

創業25年で大きく成長

 
 歯科技工士は専門学校や大学などの養成機関を卒業し、国家試験に合格した医療系の専門職。歯科医師の指示書を元に入れ歯や差し歯などの製作、加工を行ない、健康寿命を伸ばす重要な役割を担っている。
 30年ほど前に始まった、80歳で20本の歯を残すことを目指す「8020運動」の成果や子供の頃から歯の手入れを行なう習慣が定着したこともあり、近年は虫歯は減少傾向で、それに伴い抜歯は少なくなっている。その一方で、歯周病などで歯を失った高齢者にとって、入れ歯はQOLを保つために欠かせないアイテムであり、口腔ケアとともに咀嚼や嚥下を支える重要な役割を果たしている。
 だが、少子化の影響などで専門学校など養成機関の入学者が激減し、歯科技工士不足は深刻化しているという。
「特に東京など首都圏で若い歯科技工士が不足しています。資格を持っていても長時間労働や低賃金などを理由に転職する人が多く、入れ歯の需要に対して供給する側のマンパワーが足りないのが現状です。自分で食べることの重要性が叫ばれている中で、それを陰から支えているのが歯科技工士。そういう意味では、もっとスポットライトが当たっていい職業だと思います」(北島社長)
 そんな中にあってプライムデンタルはスタッフが充実している。ここでは歯科技工士の資格を持つ正社員35人(30~35歳)が1日70から100個の入れ歯を製作。札幌圏を中心に150軒ほどの歯科医院を取引先に持ち、年間売り上げは約3億4千万円。入れ歯を熟知した“プロの仕事”が歯科医や患者に高く評価されている。
 1日の仕事のスタートとして朝礼を大事にしているのも同社の特徴だ。仕事柄、スタッフが揃って顔を合わせられるのは朝しかなく、朝礼は挨拶や連絡事項の伝達に留まらず社員同士が価値観を共有したりコミュニケーションを高める場にもなっている。北島社長の片腕で、同じく歯科技工士である小林丈倫専務(41)は「意思疎通を図りチーム力を高めるためにも朝礼の役割は大きい。皆、いい意味で真面目なので朝礼を嫌がる社員はいません」と笑顔で語る。
 北島社長は釧路市出身。北広島にある北海道歯科技術専門学校を卒業後、歯科技工大手の和田精密歯研札幌営業所などで7年半勤務した後、1995年に札幌市西区平和に一軒家を購入し独立した。
 歯科技工の世界では、一人前になるには入れ歯で10年、差し歯で3年~5年と言われる。
「独立した友人たちから『北島は開業しないのか』と聞かれ、それならやってみようと西区でスタートしたのがプライムデンタルの始まりです。入れ歯をつくり装着してみると違和感や痛みが出たりするケースがあるのですが、なぜそうなるのか。患者さんの声を入れ歯づくりにフィードバックさせようと。経営理念や経営計画をしっかり掲げて歯科技工所を運営することにもチャレンジしたかった」(北島社長、以下同)
 開業後、友人から仕事を紹介され喜んだのもつかの間。舞い込んだ依頼はひとりでこなせる数ではなく3日目に音を上げ、発注してくれた歯科医師に「できません」と頭を下げたことも。しばらくはパートの歯科技工士の手を借り急場を凌ぎ、2002年に現在地の西野に移転した時は十数人の社員を抱える歯科技工所に成長していた。
 

(きたじま・まさゆき)1966年釧路市出身。釧路東高校卒業後、北海道歯科技術専門学校に入学。卒業後は和田精密歯研札幌営業所などを経て95年に独立しプライムデンタルを創業。2001年法人化、08年株式会社へ組織変更。歯科技工士。プライムデンタル社長。北海道歯科技術専門学校非常勤講師。54歳

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重要な歯科医師との二人三脚

 
 寝たきりや認知症になると自分で歯を磨くことが困難になり、虫歯や歯周病で総入れ歯になる人が少なくない。高齢化の進展に伴い、入れ歯による口腔機能の維持はますます重要になっている。
「あるべき歯が失われると、咀嚼や嚥下という口腔機能が大きく損なわれてしまいます。しかし、高齢になってから総入れ歯になると土台である顎の骨が痩せて装着が難しくなるケースも出てきます。そうなると、ペースト状の食事になったり経管栄養、点滴に頼ることになり、QOLは悪くなる。美味しく食べ元気に過ごしたいのなら早い段階から入れ歯と友達になることが必要です」と北島社長は強調する。
 近年は歯がなくなった部分の顎の骨に人工歯根を埋め込むインプラント治療も普及しているが、持病を持つ高齢者には医療上のリスクがある上、費用も高額だ。
「自由診療扱いのインプラントは費用が嵩み、年金で生活する高齢者には難しい。だからこそ、私たちは入れ歯をできるだけ異物と感じないように使ってもらいたい。そのためには口の中に入れてからの調整が非常に重要。患者さんが痛い、嫌だと感じるようでは長く使っていただくことはできません。入れ歯は患者と歯科技工士による二人三脚でようやく使えるものになるのだと思います」
 そのためには、まず歯科医師に入れ歯への理解を深めてもらい、歯科技工士と連携しながら治療を行なうことが必要となる。
「過去には歯科医師が入れ歯もつくっていた時代もありましたが、今は完全を分業。このため入れ歯のなんたるか知らない先生たちが圧倒的に多くなっています。だから我々が『こうしましょう』と先生たちに提案してもあまり響かない。近年は、患者さんのためにも歯科医師に入れ歯の価値を理解してもらうようアプローチしています」
 そこで10年ほど前から始めたのが、歯科医師向けの学術系・技術系セミナーの開催だ。今年2月には総入れ歯に詳しい歯科医師を講師に招きセミナーを開催し50人ほどが受講した。新型コロナウイルスの感染拡大で現在は休止しているが、ウェブによるセミナーを企画中だという。「“心技不可分”も当社の経営理念のひとつ。入れ歯の製作に当たって大事なのは、患者さんに快適に使ってもらうという信念、そして患者さんの声です。そういうお互いの心と私たちが提供する技が一体にならなければ、本当に良い入れ歯はつくることができません」
 

入れ歯にはさまざまな種類がある

緻密な作業を必要とする入れ歯の製作

北島社長が信頼を寄せる小林専務

入れ歯にはさまざまな種類がある

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北島社長が信頼を寄せる小林専務

(きたじま・まさゆき)1966年釧路市出身。釧路東高校卒業後、北海道歯科技術専門学校に入学。卒業後は和田精密歯研札幌営業所などを経て95年に独立しプライムデンタルを創業。2001年法人化、08年株式会社へ組織変更。歯科技工士。プライムデンタル社長。北海道歯科技術専門学校非常勤講師。54歳

新事業で口腔衛生にも寄与

 
 同社は高品質な入れ歯づくりだけではなく、口腔衛生を通した健康増進にも取り組んでいる。そのひとつが3年前から始めた口腔用保湿剤「健口習慣」の販売だ。民間企業が北海道医療大学歯学部との共同研究で開発したもので、同社は総代理店として扱いを任され取引先の歯科医院で販売している。
 主な成分は天然素材のタモギダケエキスとヒアルロン酸。タモギダケには抗酸化作用とカンジダ菌抑制効果がありヒアルロン酸との相乗効果で口腔内をしっかり保湿する。ドライマウスによる虫歯、歯周病、口臭などのほか摂食嚥下障害、誤嚥性肺炎の防止に効果があるという。ジェルタイプとスプレータイプの2種類あり、ジェルタイプは入れ歯安定剤としても使える。内容量はジェルタイプが40gで1200円。スプレータイプが30.で1400円。
 口腔用保湿剤が入れ歯安定剤としても使える理由について、北島社長は「多くの入れ歯安定剤が市販されていますが、それらは緩衝材で無理やり入れ歯を合わせているもので、本来は使わない方がいい。入れ歯は少し動きながら機能するので、潤滑油的にジェルタイプを使えば安定剤としても使えるのです。利用者からも効果抜群と高い評価をいただいています」と説明する。
 これまで健口習慣は、いわばプロ用として歯科医院での使用を想定していたが、これからは患者が自宅でも口腔内の保湿や殺菌に役立ててもらえるよう、同社のオリジナル商品として名称とパッケージを年内に変える計画。マーケットのチャンネルも広げてオンラインストアでも購入できるようにするなど、口の中をメンテナンスするのは当たり前と思われるような身近な商品にしていく考えだ。
 最後に今後の目標を北島社長に訊いてみた。
「お金のある人はインプラントによる“自分の歯”で食べられるようになった時代です。でもお金のない人はどうしたらいいのか。弊社は、健康保険の範囲でちゃんと食べられる、咀嚼・嚥下できる入れ歯をつくりましょうというところからスタートしました。今後は口腔衛生の推進と合わせてこの取り組みをさらに進化させたい。プライムデンタルの入れ歯は使い心地がいい、ご飯が美味しく食べられると多くの患者さんに言われるようになるのが目標です」
 同社の取引先のひとつで、訪問診療に力を入れている「北32条歯科クリニック」(札幌市北区)が次のようなコメントを寄せてくれた。
「自宅などで診ている患者さんの多くが高齢者。その皆さんが最期まで自分で食べられるように私たちと伴走してくれているのがプライムデンタルさん。とても頼りになる存在です」(同クリニック・歯科衛生士)
 歯を失うなどして自分の口で満足に食べられなくなることは、その人の人生の大きな分かれ道となる。何より「食べる歓び」を失うこと自体が大きな損失。胃ろうなどの経管栄養にする方法もあるが、口を使わなくなることで唾液の分泌が減少。口腔内の細菌が増えやすくなり、誤嚥性肺炎のリスクも高まりかねない。
 お金のあるなしや年齢を問わず、誰もが“自分の歯”で食べることができる社会の実現へ──。プライムデンタルの挑戦は、これからが本番と言えそうだ。



株式会社 プライムデンタル
札幌市西区西野5条9丁目3- 5
TEL:011-666-4186

遅れる移転計画
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