運営開始1年半、大きな実績をあげる札幌禎心会病院「陽子線治療センター」
さらに身近になった夢の治療 前立腺がんなどが保険適用に

2018年9月号

札幌禎心会病院の陽子線治療室で照射室に導かれる患者

Medical Report

社会医療法人禎心会(徳田禎久理事長)が運営する札幌禎心会病院(279床・札幌市東区)。3年前に移転新築を果たした同病院が整備した「陽子線治療センター」が2017年2月の治療開始から1年半を迎えた。ここは、がんに対する先進医療である陽子線治療の実施施設として道内では北大病院に次ぐ2カ所めとなり、さる6月末までに82人の患者に治療を施すに至っている。陽子線治療をめぐっては、高額な料金が課題となっていたが、今年4月から前立腺がんなどが保険適用となり、今後の利用拡大が期待されている。国内における放射線医療の第一人者として知られる同センターの晴山雅人センター長に陽子線治療の現状と今後の展望を訊いた。(7月26日取材)
 

正常細胞のダメージを避けがんを狙い撃つ陽子線治療

 放射線治療のひとつである陽子線治療は、水素から取り出した陽子を加速器で光速近くまで加速させ、がん細胞に繰り返して照射する。体内への透過力が大きく、あらかじめ設定した深さに達した時に、エネルギーが最大(ブラックピーク)になる性質を利用し、病巣のある深さに合わせて照射しながら、増殖するがん細胞のDNAを集中的に破壊する治療法だ。
 従来のX線やγ線は体の表面近くでエネルギーが最大になり、体内へ入るに従い威力が弱まり体を突き抜ける。このため、がん細胞の周辺にある正常な細胞にダメージを与える危険性を伴う。
 一方、陽子線は体に入った段階ではエネルギーが小さく、狙ったがん細胞の前で威力がピークとなり止まるため、腫瘍の前後にある正常な細胞への被曝を最小限に抑えることができる。このため、放射線への感受性の強い子供や体力的に手術の難しい高齢者の治療も可能だ。治療に伴う痛みがないため、患者のQOL(生活の質)を保てるなどの利点がある。
 治療の対象となるのは、前立腺、肝臓、肺、頭頸部(鼻腔や副鼻腔、唾液腺、頭蓋底)、脳、骨軟部、膀胱、子宮などに発生する原発がんの他、直腸がん手術後の骨盤内再発や3個以内の転移性腫瘍など。ただし、胃がんや大腸がんなど原発性の消化管のがんは粘膜損傷の怖れがあるため不向きとされる。
 日本は世界をリードする陽子線治療先進国といわれ、国内では同病院を含めて14施設(18年4月現在)で治療が行なわれている。ただ、ネックとなるのは高額な治療費。厚労省は2016年の専門家会議で小児の固形がんの保険適用を認めたが、多くのがんについては、一定の安全性や有効性が確認されているものの、公的な保険診療の対象とならない先進医療扱いにとどまっている。
 先進医療では診察や検査、入院など通常の診療には保険がきくが、陽子線治療技術料は自己負担となり、一連の治療には約300万円かかる。こうした中、今年4月の診療報酬改定により前立腺がん、頭頸部がん(口腔、咽喉頭の扁平上皮がんを除く)、骨軟部腫瘍が新たに保険適用となった。
 札幌禎心会病院では国の先進医療の届け出に必要な治療実績を満たすため、2016年11月から前立腺がん患者11人の治験を実施。昨年2月から「陽子線治療センター」を本格稼働し、治療対象を前立腺から頭頸部、肺、肝臓、脳、膀胱へと拡大してきた。これら治療を受けた82人のうち6割が前立腺がん患者だったという。「患者の多い前立腺がんに保険が適用され費用面でのハードルが下がったことは、患者さんたちにとって大きな朗報です。陽子線治療は肝臓がんでも高い治療実績が見込まれており、今後の保険適用が期待されています。今後、国の動きを睨みながら診療体制をさらに整えていきたい」(同病院陽子線治療センター・晴山雅人センター長)
 今回の保険適用に伴い治療期間も短縮された。適用前は37から39回の照射を約8週間かけて実施していたが、4月からは1回当りの照射量を増やすことで28回、6週間弱に回数と期間を短縮。がん細胞に限局して照射できる陽子線のメリットを生かしたもので、費用面だけでなく通院の利便性も高まった。
 

はれやま・まさと
1972年札幌医科大医学部卒業。同年7月国立札幌病院放射線科厚生技官。札幌医科大学医学部放射線医学講座助手などを経て98年10月から同講座教授兼大学院医学研究科担当。2012年定年退官。同年4月社会医療法人禎心会放射線治療研究所所長などを経て15 年に札幌禎心会病院陽子線治療センター長。札幌医科大学名誉教授

写真左側が「インルームCT」で右側が陽子線の照射室

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高精度な「スキャニング法」肺がんの道内治療拠点へ

 同病院の陽子線治療センターでは、「腫瘍に限局した治療」を目指して、陽子線治療室内にCTを備える「インルームCT」を導入。最初に立てた治療計画と治療直前における腫瘍の位置情報をすり合わせることで、より高精度な陽子線治療を可能にした。国内でインルームCTを備えた医療機関は同センターを含め2施設のみとなっている。「がん病巣は常に同じ位置にあるわけではなく、治療によって小さくなったり、呼吸や心臓の拍動などさまざまな要因で位置が変わるもの。患者さんは、インルームCTで画像診断をしてから陽子線照射室(ガントリー照射室)に移動する仕組みになっており、その時間を通して我々が腫瘍の位置をダブルチェックすることで、場所の変化をいち早く見つけ、より適切な治療を行なえるメリットがあります」(晴山センター長)
 陽子線の治療法には、呼吸などで動くことが予想される肝がん、肺がんなどに対して、陽子線ビームを拡大し専用器具でがんの形状に合わせて照射する「拡大ビーム法」と、頭頸部がんや前立腺がんなど動きの少ないがんや、より精密な治療が必要ながんに用いる「スキャニング法」がある。
 スキャニング法は、陽子ビームを腫瘍の形状に合わせて線で塗りつぶすように照射する最新の治療法。同センターではスキャニング法を中心に治療を行なっており、肺や肝臓など「呼吸により動く臓器」のがんに対しても、患者の呼吸に合わせて照射する呼吸同期を導入することで、この治療法を可能にした。
 晴山センター長によると、治療を受けた多くの患者に効果が見られ、「前立腺がんの場合、放射線治療による副作用は1年後あたりから出てきますが、まったく出現せず、また腫瘍マーカーのPSA数値を見ても全て低値に安定している」とのこと。
 晴山センター長は、陽子線治療センターの展望について次のように話す。「この1年半でさまざまな臨床を経験し、陽子線治療の可能性に手応えを感じています。私たちの病院では、この7月から呼吸器内科の専門医が常勤する体制が整いました。肺がんは化学療法など他の治療法との併用になるので、より集学的治療が可能になった。今後は、肺がん治療においても北海道における中心的な役割を担っていきたいと思います」
 

はれやま・まさと
1972年札幌医科大医学部卒業。同年7月国立札幌病院放射線科厚生技官。札幌医科大学医学部放射線医学講座助手などを経て98年10月から同講座教授兼大学院医学研究科担当。2012年定年退官。同年4月社会医療法人禎心会放射線治療研究所所長などを経て15 年に札幌禎心会病院陽子線治療センター長。札幌医科大学名誉教授

写真左側が「インルームCT」で右側が陽子線の照射室

最新の放射線治療装置「ノバリスSTx」

札幌禎心会病院の陽子線治療センター

さまざまな放射線治療から自分に合った選択が可能に

 札幌禎心会病院は1984年に札幌市東区で開院。脳神経外科を中心に、急性期から慢性期に対応する地域密着型の医療機関として地域医療に貢献してきた。3年前の2015年11月に現在地に移転・新築してからは「がん・脳卒中・心臓病」の三大疾病を中心に、専門性の高い高度な医療を提供している。
 道内の民間医療機関としては初となる「陽子線治療センター」は病院西側に連結され、鉄筋コンクリート造り4階建て、延べ床面積2700平方メートル。これまで、陽子線治療施設は広い敷地が必要だったが、同センターは小型化した加速器と照射スペースを上下に配置することで、省スペース・低コストの施設づくりに成功した。
 また、同センターは最高機種の放射線治療装置(リニアック)「ノバリスSTx」を導入し陽子線以外の放射線治療にも取り組んでいる。同リニアックは放射線をミリ単位で制御し、腫瘍の形状に合わせて多方面から照射することで正常細胞へのダメージを最小限に抑える強度変調放射線治療(IМRT)を可能にしている。
 このリニアックを使い、前立腺や頭頚部などに対する回転IМRT、肺がん、肝臓がんの定位放射線治療を実施。各診療科の専門医と放射線腫瘍医による専門チームが質の高い医療を提供している。
 さまざまな放射線治療の選択肢を用意しているのも札幌禎心会病院の大きな強みと言える。どの治療を受けるか、症状や費用負担などを考慮しながら自分に合った方法を選択したい。



社会医療法人禎心会 札幌禎心会病院
札幌市東区北33条東1丁目3番1号
TEL:011-712-1131
陽子線治療センター専用ダイヤル
TEL:011-712-1134

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