親子三代に亘る研究と治療で“限られた睡眠力”を引き出す
「良質な睡眠が質の高い人生をつくる」と語る遠藤理事長
えんどう・たくろう 1963年東京都出身。東京慈恵会医科大学卒業、同大学院医学研究科修了、スタンフォード大学、チューリッヒ大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校留学。東京慈恵会医科大学助手、北海道大学医学部講師を経て医療法人社団スリープクリニックを設立し理事長に就任。「スリープクリニック調布」を皮切りに「同銀座」「同青山」を展開。昨年11月札幌市中央区に「スリープクリニック札幌」を開院。現在、それらを束ねる東京睡眠医学センターのセンター長。医学博士、日本睡眠学会認定医、精神保健指定医、精神科専門医、女子栄養大学客員教授、慶応義塾大学医学特任教授
Medical Report
なかなか寝付けなかったり、突然、仕事中や授業中に強い眠気に襲われる。このような睡眠障害で苦しむ人のための治療拠点「スリープクリニック札幌」が昨年11月、札幌市中央区に誕生した。ここを運営する医療法人社団スリープクリニックの理事長を務める遠藤拓郎医師はかねてから東京都内で睡眠に特化した専門外来を展開。祖父の代から3代で90年以上、研究を続ける睡眠医学の第一人者として知られる。患者が持つ本来の「睡眠力」を引き出すことを念頭に、画期的な治療法で患者に朗報をもたらしてきた遠藤医師に睡眠のメカニズムや睡眠障害治療の最前線について取材した。
延べ2万人の患者に対応東京から北海道へ初進出
ロビーには最新の測定・治療器具を展示
木目調で落ち着いた内装の待合室
「スリープクリニック札幌」の受付
眼鏡タイプの光治療器。光を効果的に浴びることにより睡眠リズムを整える
寝具で睡眠をフォローするスリープショップ札幌「&Free」
ITOメディカルビル外観
加齢と共に落ちる「睡眠力」体内時計に合わせた生活を
睡眠は、体調維持はもとより生命にとって必要不可欠なもの。必要な睡眠時間は個人差があるが、昼間に活動して夜眠るという当り前のことができなくなり、日常生活に支障をきたした状態を睡眠障害という。
睡眠障害の中で一番多いのが「不眠症」だ。次いで日中に強い眠気に襲われる「過眠症」、睡眠に入る時刻と起床する時刻がずれる「概日リズム睡眠障害」など大きく分けて3つある。
不眠症の診断は問診が中心だが、同クリニックは必要に応じて睡眠計を付けてもらい自宅でも睡眠の状態を測定する。
不眠の原因の多くは加齢によるものだ。厚労省の2010年の診療報酬データを用いた向精神薬処方に関する実態調査研究によると、睡眠薬の処方率は55歳から59歳の男性3・6%。女性が5・2%であったが、65歳以上になると男性が7・6%、女性が10・6%といずれも処方率は2倍に増えている。
「調査結果から分かるように、高齢になるほど睡眠薬の処方が増えています。年をとると眠る力、睡眠力が落ちてくるのは当然のことで、浅く短くしか眠ることができないのです。そこで私は、問診による曖昧な診断ではなく、当クリニックオリジナルの睡眠計を付けてもらい、眠りの状態を客観的に把握します。
例えば、22時に床につき薬を飲んでも0時にならないと眠れない人には、寝る時間を遅くして23時半から7時まで床の中にいてもらい、睡眠薬を服用は止めるよう指導しています。言ってみれば、限られた睡眠力をどう引き出すかが私の仕事です」
長い睡眠時間を確保できない場合、短くても「質の良い睡眠」を取ることも可能だ。
「身体の修復や活力の元になるエネルギーは夜、睡眠中に作られるため、睡眠障害があると身体のメンテナンスがきちんとできません。人間の身体には太陽の動きに合わせて24時間のリズムで変化する体内時計があり、これが乱れると睡眠障害につながります」(遠藤医師)
昨年のノーベル生理学・医学賞を受賞した米国出身の研究者は、ショウジョウバエの細胞の中で体内時計をコントロールする時計遺伝子を同定した。人間もこの体内時計のおかげで、夜眠り朝起きるリズムが刻まれている。質の良い睡眠を取るコツについて遠藤医師は、次のようにアドバイスする。
「人間は高い体温が急激に下がる時によく眠れるという特徴があるので、夕食時に身体を温めるものを食べたり、入浴して体温を上げて寝つきを良くしてください」
寝る前の飲酒は寝つきは良くするが、二日酔いの元になるアセトアルデヒトが交感神経を刺激し心拍数を上昇させる。睡眠の質の低下につながる場合があるので注意が必要だ。
ロビーには最新の測定・治療器具を展示
木目調で落ち着いた内装の待合室
「スリープクリニック札幌」の受付
眼鏡タイプの光治療器。光を効果的に浴びることにより睡眠リズムを整える
寝具で睡眠をフォローするスリープショップ札幌「&Free」
ITOメディカルビル外観
頼りになる症状別の専門治療意外な「睡眠でダイエット」
過眠症は夜間に十分な睡眠を取っているのに、仕事中や授業中など日中に強烈な眠気に襲われる。日常生活に支障をきたすやっかいな病気で、若者に多く見られる。
代表的な過眠症が「居眠り病」と言われるナルコレプシーだ。脳神経の病気で、覚醒を維持し睡眠を抑制する脳内の神経伝達物質の減少により発症するとされている。会議中や歩いている時に突然居眠りを始めたり、大笑いしたり、感情が高ぶった時に突然身体の力が抜けてしまう情動脱力発作、金縛りなどの症状が見られる。これは身体は眠っているが脳が起きている「レム睡眠」になるためだ。
過眠症の中には「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」もある。深夜に寝ている最中に呼吸が止まり目が覚め、その結果睡眠不足になり昼間眠気に襲われる。太って喉に脂肪がついた中年男性に多く発症し、いびきや起床時の口の渇き、頭重感などの症状がある。
過眠症の診断は、生活習慣について問診を行ない原因となる問題が存在するかどうかを把握してから、終夜睡眠ポリグラフィー検査(PSG)で脳派や眼球運動などを記録。ナルコレプシーか睡眠時無呼吸症候群かの診断を付ける。
ナルコレプシーの治療には精神刺激薬と呼ばれる眠気を覚ます薬が有効だが、依存性があるため服用の際は医師の指示に従うことが原則だ。日常生活では、強烈な眠気を感じる時間帯に昼寝をしたり、就寝と起床の時間を同じにして生活のリズムを整える。この場合は、就寝前の食事やカフェインやアルコール、タバコは控えたい。
睡眠時無呼吸症候群と診断されたら、毎晩寝るときに鼻にマスクを装着し、持続的に一定圧をかけた空気を送り込む「CPAP(シーパップ)」を使い気道を確保する治療法がある。軽度の場合は運動療法や食事療法などが有効だ。
概日リズム睡眠障害では、睡眠の質や量に関係なく睡眠に入る時刻や起床する時刻がずれて日常生活に支障をきたす場合がある。特に問題となるのは睡眠相後退症候群で、不登校などで昼夜が逆転し、社会生活を営む上で影響が出やすい。規則正しい生活を心掛けても改善しない時は光療法を行なうこともある。
遠藤医師の調査により睡眠時間とダイエットの関係も明らかになってきた。全国3万人の男女の睡眠時間と肥満度の指数BMI値の関係を分析したところ、男性は睡眠時間が「7時間」または「7時間半」の人が、女性では「7時間」睡眠を取っている人が最もBMI値が低いことが分かった。
一方、睡眠時間別に人数を確認すると男性は「6時間」、女性は「6時間半」の人が最も多かった。
「つまり痩せやすい睡眠時間を取るには、男性はプラス1時間、女性はプラス30分の睡眠時間を意識的に確保すればよいのです」(遠藤医師)
ちなみに年間の体重の推移では、1月から6月が高く、7月から12月が低くなっているという。
「特にゴールデンウィークに体重が一番重くなるのですが、これは長期休暇により運動の量が減るためです。ダイエットを行なう場合は、7月から12月にかけて減量に取り組み、1月から6月は体重を増やさないようにするなど、時期にあった努力をするといいですね」
質の良い睡眠をたっぷり取り、美と健康を手に入れたいものだ。
医療法人社団 スリープクリニック
スリープクリニック札幌
札幌市中央区大通西15丁目1-10
ITOメディカルビル2階
☎ 011-632-4700
スリープショップ札幌「&Free」
☎ 011-632-4705
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