さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニックに乳がん検査の落とし穴と対処法を訊く

2018年2月号

かめだ・ひろし 1980年北海道大学医学部卒業。同大第1外科入局、小児外科・乳腺甲状腺外科の診療と研究に従事する。2001年麻生乳腺甲状腺クリニック開院。17年6月に法人化し、施設名を医療法人社団北つむぎ会さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニックに改称。日本外科学会専門医、日本がん治療認定医機構暫定教育医・認定医。医学博士

年間7万人以上の女性が発症する乳がんだが、治療法の進化もあって早期発見なら9割は克服できると言われている。この中で気をつけたいのが、日本女性に多い「高濃度乳房」だ。乳腺が密集している高濃度乳房では、自治体検診のマンモグラフィー(乳房X線検査)だけでは異常を見逃すリスクがあるという。多くの自治体は本人の乳房のタイプを受診者に知らせていないため、国は新年度から情報提供に乗り出す方針だ。もし、高濃度乳房だと分かった場合はどう対処すべきなのか。医療法人社団北つむぎ会「さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック」(旧麻生乳腺甲状腺クリニック)の亀田博院長に乳がん検診の最新事情やがん患者の心のケアについて解説してもらった。

高濃度乳房のリスクと「エコー検診」の有用性

 我が国において、乳がんは女性が罹るがんの中で最も多く、年間約1万3000人が死亡している。初期では自覚症状がなく、しこりに気付いた時はがんが進行している場合が多い。
 この中で厚労省は早期発見、早期治療につなげるため40歳以上の女性を対象に2年に1度、マンモグラフィー(以下マンモ)による検診を受けるよう推奨しており、全国の自治体が公費で助成している。
 乳房は乳腺の密度の高い順に、「高濃度」「不均一高濃度」「乳腺散在」「脂肪性」の4つのタイプに分類される。
 マンモは石灰化など微細な異変を検出できるなどの利点があるが、乳腺が密集する「高濃度」と「不均一高濃度」タイプの乳房は画像が全体に白っぽく写るため病変が乳腺にまぎれて異常を判別しにくい。日本人女性の5割から8割がマンモの向かないタイプの乳房とされ、若年層に多いと言われている。
 つまり高濃度乳房の人は、がんを見逃すリスクが高くなるというわけだ。受診者に注意を促すため情報(自身の乳房のタイプ)を提供することは今や国際的な流れとなっているが、日本の自治体検診では、ほとんどが「要精密検査」か「異常なし」の検査結果だけを通知している。
 2017年に厚労省が行なった乳がん検診に関する実態調査によると、約1700市町村のうち高濃度乳房と分かった受診者にその事実を通知している自治体は、全体の13・5%にあたる230自治体にとどまっている。
「高濃度乳房は体質であり病気ではありません。一般的に若い人は乳腺密度が高く、授乳回数の多い人ほど低くなる傾向があります。マンモは微小ながんや石灰化したしこりなどを調べるのに適した検査方法ですが、高濃度乳房の場合は2センチ以下の病変が白い部分に隠れてしまうと発見が難しい。過去にはマンモでがんを見逃されたとして、検診施設が訴えられた事例もあります」と、亀田院長はマンモが万能ではない理由を説明する。
 このため、厚労省は「高濃度乳房」「不均一高濃度」と判定された受診者に対して、がんを見逃すリスクがあることや別の検査方法について通知する方針を固め、新年度からの導入を自治体に促している最中だ。
 マンモが向かない人の検査方法として有効なのが、エコー(超音波検査)だ。エコーは超音波を使って組織の異常を調べる方法で、マンモのように石灰化したしこりを発見するのは不得手だが、乳腺とがんのしこりの識別ができるため高濃度乳房にも対応できる利点がある。低侵襲で医療被曝の心配も少ない。
 東北大学の大内憲明教授らのグループが、07年から11年にかけて全国の40代の女性約7万3000人を対象に実施した大規模調査では、マンモとエコーを併用したグループで早期乳がんの発見率がマンモ単独の1・5倍になることが明らかになっている。マンモ検診にエコー検診を加えることで、がんの発見率向上が期待される。
 ただ、自治体検診におけるマンモとエコーの併用には課題もある。エコーはマンモのように検診による死亡率の減少効果が明らかになっておらず、現在のところ国が推奨する検査方法になってはいないからだ。先述した厚労省の実態調査でも、高濃度乳房と判定された受診者に通知を出している市町村の半数が取るべき対応については触れていない。
 日本乳癌学会などは、高濃度乳房の通知について「対応が明示できない状況で通知を一律に開始すると、高濃度乳房とされた受診者にはリスクのみを過剰に意識し不安や精神的負担を被る可能性がある」と指摘。さらに、エコー検査は読影が難しいことなどから実施できる機関や技師が少ないため、自治体検診のメニューにエコーを加えるには環境整備に時間と費用がかかること。また、対応できたとしてもがんでない人が不必要な検査を受ける可能性が高まることなどを理由に、「通知は時期尚早」とする提言をまとめている。
「エコーを正確に読影するには熟練した医師や技師に頼る部分が大きい。国が自治体に高濃度乳房の通知を求めるならば、早急に(エコーの)技師を育てる体制を整え、自治体の責任で機器を揃えるなどの対策を講じるべきです」(亀田院長)

医療法人社団北つむぎ会 さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック
札幌市北区北38条西8丁目 ☎011-709-3700
HP:http://www.asabu.com

3Dマンモグラフィーによる検査画像(写真の乳房は「乳腺散在」タイプ)

エコー検診で発見された乳がん(写真右上の青い範囲が病巣部分)

エコー検診は最新機器2台で対応している

3Dマンモグラフィー

医療法人社団北つむぎ会 さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック
札幌市北区北38条西8丁目 ☎011-709-3700
HP:http://www.asabu.com

3Dマンモグラフィーによる検査画像(写真の乳房は「乳腺散在」タイプ)

エコー検診で発見された乳がん(写真右上の青い範囲が病巣部分)

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がん患者の心のケアも大きなテーマのひとつ

 では、女性は乳がん検診とどう向き合ったらよいのだろうか。
「特に若年層で乳がんの家族歴などがある人は、まずは乳腺専門の医療機関でエコーを受けることをお勧めしたい。マンモ検診をめぐっては医療被曝のリスクが指摘されています。30代の女性が8年連続でマンモ検診をすると、がんになる可能性が高まると言われており、米国ではかねてからマンモによる検診を40歳から45歳に引き上げています。日本も現在40歳からの検診が近いうちに45歳になるかもしれません」(亀田院長)
 現在40歳以上を対象とした自治体検診でもマンモに加えエコーも実施する専門医療機関がある。札幌市と石狩市の自治体検診を担っている「さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック」でも、両方の検査に対応している。
 同クリニックでは、乳房を多方向から撮影し立体的に再構成する3Dマンモグラフィーなど最新鋭の機器を整備。全体像のみの画像では分かりにくかった内部のがんの発見に効果を上げている。
 エコー検査装置もエラストグラフィ(超音波組織弾性影像法)を搭載した最新機器を導入している。エラストグラフィは良性の腫瘍に比べがんの組織が硬いことに着目し、超音波でしこりの硬さを検出し画像化する。画像では柔らかい部分は赤、平均的な部分は緑、硬い部分は青というように組織の硬さが色分けされる。このほか、マイクロバブルという微細な気泡を造影剤として用い、詳細な血流情報を画像化する最新のエコーも備え、早期発見、早期治療に取り組んでいる。検査は熟練した技師2人(男性1人・女性1人)が行なっているので、何かと安心だ。
 ほとんどの乳がんは、転移がなければ抗がん剤治療と手術で完治し、腫瘍が2センチ以下であれば10年後の無病生存率(再発転移が見られない状態)は95%を超える。この中で大きなテーマとなっているのが、がん患者の心のケアだ。
「多くの患者さんは、がんの告知を受けると『まさか私が』という否定から始まり、怒りや悲しみのプロセスを経て自分の病気を受容するようになります。そこで大事になってくるのが医療現場、家族を含めて本人に寄り添ってくれる人がいるかどうかです」と亀田院長は説明する。
 近年、がん治療の分野では患者の心の治療を専門に行なう「精神腫瘍医」の存在が注目されている。患者はがんを受容しながら治療を受けるが、中には落ち込みから不眠やうつ状態になる人も少なくない。
 このような患者の話に耳を傾け、適切なアドバイスや治療を行ないながら患者をサポートするのが精神腫瘍医の役割だ。
 がん対策基本法に基づき、がん診療連携拠点病院(※質の高いがん医療の全国的な均てん化を図ることを目的に整備された病院。既存病院の中から都道府県知事が推薦し、厚労省の認可で指定される)では、精神腫瘍医や臨床心理士、ソーシャルワーカーなどがチームを組み、患者の心のケアに当たっている。
 では、精神腫瘍医や臨床心理士のいない専門クリニックでは、患者の悩みにどう対応しているのか。さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニックの患者にも軽いうつやパニック障害で悩む人が少なくないという。
「乳がんになる前から、そういう症状がある方もいらっしゃいますし、がんと告知されてから発症するケースもあります。当クリニックが開院した頃に比べると、最近は地域にメンタルクリニックが増えています。悩みがある時は一人で抱え込まずに主治医に相談し、通いやすいメンタルクリニックを紹介してもらうのもひとつの方法です」(亀田院長)
 不安や落ち込みが強い時は、メンタルクリニックの活用を視野に入れながら、適切ながん治療を受けるよう心がけたい。

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