Agri Report ──北の大地を拓く新・農業人【1】
手が届く規模で実現させた〝楽農〟
牛を自然の摂理の中で飼い活路

2025年03月号

5年前に「牧場たなか家」を創った田中真生さんの朝の搾乳作業。バケット式のミルカーが活躍する

豊富町で〝ミニマル〟牧場を創った田中真生さん

北海道には「四季の変化を感じながら伸び伸びと働きたい」という思いを抱き、農業の現場を目指す人たちが大勢いる。しかし、技術の習得や資金調達、就農先選びなどの課題も多く、夢を諦めるケースも──。そうした状況の中でも酪農や野菜づくりなどで新規就農を実現した人たちが各地に存在する。そこで20~40代の若手参入者を訪ね、就農までの経緯やハードル、仲間や地域の人たちとのつながりなどに耳を傾けてみることにした。「北の大地を拓く新・農業人」の第1回は、新規就農の両親のもとで育ち、21歳の時に青年海外協力隊員としてフィリピンに渡り、帰国後に自前のミニマル(必要最小限な)牧場「たなか家」を立ち上げた、宗谷管内豊富町の田中真生さん(36)の歩みと農業に対する考え方、現在の暮らしぶりなどをレポートする。

(ルポライター・滝川 康治)


故郷で“世界最速の就農”を実現
15頭の乳牛で新たな牧場づくり


 豊富町の市街地から北に20キロ余りの酪農地帯に広がる「牧場たなか家」。経営主の田中真生(さねいき)さん(1989年、同町生まれ)は2020年秋、飼養数15頭(うち経産牛5頭)という、町内でもっとも小さな牧場を創業。ここ数年は、豊富出身の妻・あもさん(90年生まれ)が代表をつとめる「工房レティエ」にチーズやアイスなどの原料乳も供給する。
 幼少期に同町に新規就農した両親のもとで育ち、牛飼いの大変さは体感していた。「将来は酪農以外の仕事を」と心に決め、豊富高校を卒業後はJICAの青年海外協力隊入りを目指す(後述)。念願が叶い、21歳でフィリピンに赴いた。
 酪農の場合、親元以外で新たに就農するのに2~3年はかかる。新規参入組だと5年以上かけて就農先を見つける人もいる。
「実家で5年働いてから牧場を創設し、このあたりでは“世界最速の新規就農”と言われているんですよ」
 と、田中さんが笑顔で話す。
 今は40ヘクタールの農地(うち採草地は半分)で36頭(うち経産牛は15頭)の乳牛を飼っており、やはり町内では最小規模の酪農家だ。昨年の生乳生産量は100トンほど。粗収入は約1700万円、所得率は40%を超えた。健全経営である。
 身の丈に合った「ミニマル(必要最小限)の酪農」を唱え、自然に逆らわない生き方をしていく──その歩みはなかなか面白く、筋が通っている。北海道で新規就農を志す人たちへの羅針盤にもなりそうだ。

青年海外協力隊員に合格し21歳でフィリピンへ派遣


 豊富温泉から数キロの山奥の牧場で、4男2女の次男として生まれた。関東出身の両親は、全道60カ所ほどを回って就農先を探した末、90年に豊富町に落ちつく。まだ新規就農者向けの助成制度が不十分な中で、追加融資を含め1億円近い負債をかかえ、その返済のために当時としては大規模な酪農を手がけた。
「きょうだいのうち僕は真ん中で、働ける年齢になったら“強制労働”ですよ」と、酪農の仕事のきつさを肌で感じながら育つ。幼少期からの夢は、青年海外協力隊員として外国に赴くこと。それだけを目的に、高校卒業後は十勝管内本別町にある道立農業大学校へ。協力隊員への近道として進学を勧めてくれたのは父親だった。

チーズやアイスを製造する「工房レティエ」を切り盛りする妻のあもさん、子どもたちと
(田中さん提供)

酪農体験も積極的に受け入れる。チーズづくりを試みる若者たち
(牧場フェイスブックから)

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函館税関
千歳支署で「集団不正受給」疑い

道警不祥事
常習盗撮元警官に有罪判決

2026年4月に再整備される南空知医療圏
岩見沢市立総合病院と北海道中央労災病院の経営統合

21歳からフィリピンで手がけた酪農の普及活動。地元農家の人たちと一緒に
※後列右から2番目が田中さん(本人提供)

牧場では夏場、草地で出産する牛も
(「牧場たなか家」フェイスブックから)

義父の久世薫嗣さんから牧場づくりのアドバイスを受ける(21年夏)

21歳からフィリピンで手がけた酪農の普及活動。地元農家の人たちと一緒に
※後列右から2番目が田中さん(本人提供)

牧場では夏場、草地で出産する牛も
(「牧場たなか家」フェイスブックから)

チーズやアイスを製造する「工房レティエ」を切り盛りする妻のあもさん、子どもたちと
(田中さん提供)

義父の久世薫嗣さんから牧場づくりのアドバイスを受ける(21年夏)

酪農体験も積極的に受け入れる。チーズづくりを試みる若者たち
(牧場フェイスブックから)

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