検証・北海道庁の半導体政策は道民のニーズに応えているか?
誰の為の半導体立国か

2025年01月号

国産先端半導体の製造工場「ラピダス」のPRに努める北海道庁の1階ロビーに大きなポスターが掲示された。その一方で、製造に伴う〝負の影響〟について、道民への情報提供は不十分なままだ

「綺麗事」で語られるラピダスの負の側面に警鐘を鳴らす有識者

「日本の半導体産業の現状とリスク、ラピダスの将来性、道内の社会・経済的な影響などの調査は行なったのか?」「立地に際してのアセスメント(評価)はやっているか。行なわないとすれば、なぜなのか?」──先端半導体企業「ラピダス」の立地に前のめりになる北海道庁に対し、長年にわたり東京都の環境行政に携わり、全国の廃棄物問題の市民運動にも関わってきた藤原寿和さん(本誌24年6月号を参照)が次々に疑問を投げかける。 これまで30年間、半導体技術が衰退してきた日本にあって、すぐれた人材の確保ができるのか。道民が関心をもつ工場排水の安全性や環境に与える影響などについての情報提供は、企業や行政側からのものに偏っているのではないか──筆者もまた、そんな疑問をいだく。失速した苫小牧東部開発の二の舞になるのではないか…と。道内のマスメディアからは立地に対する批判の声をあまり聞かないが、警鐘を鳴らす有識者はいる。NPO法人さっぽろ自由学校「遊」の講座で最近、道の半導体政策を検証した藤原さんの話を紹介する。

(ルポライター・滝川 康治)


短期間に2ナノ半導体開発は疑問
有害物質の除去など説明も不十分


 ラピダスの千歳立地の目玉商品は「世界最先端の2ナノメートル半導体の開発・製造へ」です。「IBMが試験開発をしているから大量生産は可能」といいますが、日本の半導体企業には40ナノメートルまでの製造実績しかありません。これまでの30年間、半導体技術が衰退し、開発能力などを喪失してきた中で、短期間で2ナノレベルの製造が可能になるのか疑問です。
 半導体企業は今、20~30代の人材が従業員として参画しないと、国際的にも(先行きが)難しい。ラピダスには40代以上の従業員が集まっていますが、熟練技術者がほとんどいないと聞きます。「数千人規模の従業員にしたい」と言われても、熟練した人材を集め、複雑な工程に参画させることができるのでしょうか。
 関連企業も幅広くないと成功しません。これまでの地場企業の中で、パートナーとしてふさわしい即時対応可能な企業があるのか疑問です。熊本県のTSMC(註=台湾に本社がある世界最大の半導体受託生産メーカー)の場合、九州地方には半導体産業を含めた関連企業がありますが、北海道では不透明です。
 道民が関心を持っている、水質などのモニタリングによる安全性の確保について、現在の北海道庁や千歳市の体制で、どこまで安心・安全を確保できるでしょうか。道庁はここで、きちんと予測や評価をしなければなりません。
 ラピダスでは、PFAS(有機フッ素化合物の総称)を含めて、さまざまな有害物質を使い、工場内でいったん浄化処理し、さらに市の公共下水道施設で処理をして千歳川に放流する計画になっています。しかし、どこまで工場の浄化能力があるのかなど、自然環境への影響について具体的に説明していません。

(ふじわら・としかず)1946年、茨城県生まれ。早稲田大学理学部応用化学科を卒業後、東京都職員として40年間にわたり公害・環境・産業保安行政に従事するかたわら、70年代から公害問題などの市民運動に参加。現在は、廃棄物処分場全国ネットワークや化学物質問題市民研究会などで活動中。台湾企業のTSMC やラピダスの国内立地を機に23年、有志で「半導体研究会」を立ち上げ、北海道にもたびたび足を運ぶ。安平町環境アドバイザー。千葉県市川市在住

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(10月下旬撮影)

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「ラピダス」の工場用水は安平川から取水。美々川の近くでも配水管の工事が進む

(ふじわら・としかず)1946年、茨城県生まれ。早稲田大学理学部応用化学科を卒業後、東京都職員として40年間にわたり公害・環境・産業保安行政に従事するかたわら、70年代から公害問題などの市民運動に参加。現在は、廃棄物処分場全国ネットワークや化学物質問題市民研究会などで活動中。台湾企業のTSMC やラピダスの国内立地を機に23年、有志で「半導体研究会」を立ち上げ、北海道にもたびたび足を運ぶ。安平町環境アドバイザー。千葉県市川市在住

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