オープンした札幌スパインジョイントホスピタルの渡邊吾一理事長に訊く
脊椎領域の治療をメインにした「低侵襲手術の拠点」へ

目指す医療を追求した結果が今回のオープンにつながったと語る渡邊理事長兼院長(札幌スパインジョイントホスピタルの受付カウンターで)
(わたなべ・ごいち)1972年旭川市出身。札幌医科大学医学部卒業。同大大学院修了。同大医学部附属病院など道内の関連病院勤務を経て東京都済生会中央病院、旭川厚生病院などで診療経験を積む。2016年に開院した「札幌スパインクリニック」を経て26年8月1日に「札幌スパインジョイントホスピタル」をオープン。医療法人シンスパイン理事長、同病院院長。日本専門医機構整形外科専門医、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
Medical Report
これまで札幌市の大通エリアで脊椎治療に当たってきた「札幌スパインクリニック」をアップグレードした整形外科病院「札幌スパインジョイントホスピタル」がこの夏、中央区の桑園エリアにオープンした。西区の「西さっぽろ病院」の病床を引き継ぎ56床を備えたほか、先進的な医療機器を積極的に導入。脊椎治療はもとより将来的には関節領域を含めた専門医療機関として低侵襲手術の提供を目指す。運営する医療法人シンスパイン理事長で同院院長の渡邊吾一医師(54)に、脊椎治療を中心にした病院づくりの狙いや今後の抱負を訊いた。 (9月26日取材 工藤年泰・武智敦子)


脊柱変形による重度の側弯症(上)と脊椎固定術での治療イメージ
脊椎専門医が叶えた病院建設
渡邊吾一医師が脊椎治療に特化した医療機関があることを知ったのは20年前、アメリカ・コロラド州のデンバーに臨床留学した時のことだった。そこで見たのは、脊椎専門のクリニックで外来患者の診察をした医師が、他の病院のオペ室を借りて自ら手術をするという独自のスタイルだった。
「日本で整形外科医が開業することは、一般的にメスを置き外来で患者を診ることを意味します。だから私は、いい手術をして患者さんや社会に貢献するために勤務医でやっていこうと考えていました。しかし、アメリカではクリニックを開業した医師でも自分でメスを取ることができることを知り、脊椎の専門医である自分が求める医療はこれだと思い至りました」(渡邊医師、以下同)
こうして2016年に札幌市の大通エリアに開院したのが脊椎治療に特化した「札幌スパインクリニック」だった。手術は提携医療機関の手術室と病床を利用して行なっていたが、やがて提携先の経営や方針に左右される限界を感じ、自分が求める医療を実現するため2019年頃から新たな病院づくりを模索。縁ができた西区の整形外科「西さっぽろ病院」の病床を譲り受ける形で、今年8月1日に桑園エリアにオープンしたのが「札幌スパインジョイントホスピタル」だ。スパインは英語で「背骨(脊椎)」、ジョイントは「関節」を意味し、文字通り脊椎と関節の治療に特化した整形外科病院を目指している。
「病院建設によく挑戦したねと言われることがありますが、気負いは全くありません。私がやりたい医療、すなわち優れた低侵襲な手術を提供する方法を探しているうちに、自然の流れとして開業に至ったというのが実感です」
JR桑園駅から徒歩9分。約1千坪の敷地に建つ「札幌スパインジョイントホスピタル」は鉄筋コンクリート3階建て。病床数は56床と比較的コンパクトながら広い手術室3室を設けたのが大きな特徴だ。かつての手術は外科医の技術と経験に依存する属人的な治療が行なわれていたが、現在はさまざまな医療機器を使う手術が圧倒的に増えている。5年後、10年後にはさらに使う機器の増加が予想されるため、手術室はそれに対応できるよう通常の約2倍の面積を確保。手術室を3室にしたのは、将来を見据え1年間に1500件以上の手術に対応できるようにしたためだ。
常勤医は渡邊医師を含め脊椎専門の整形外科医が4人、麻酔科医が2人。非常勤は整形外科医が4人と麻酔科医が1人の体制となっており、初診・再診ともに完全予約制で診療を行なっている。病院のデザインにもこだわり、特別個室の家具にはクオリティの高さで知られる旭川市の家具メーカー、「カンディハウス」の製品を採用している。

導入した「O‐arm術中イメージングシステム」

広々した手術室

今後の需要に備え手術室は3室を整備
導入した「O‐arm術中イメージングシステム」
脊柱変形による重度の側弯症(上)と脊椎固定術での治療イメージ
広々した手術室
今後の需要に備え手術室は3室を整備
低侵襲手術に特化した設備投資
「私は整形外科のサブスペシャリティ(細分化された専門領域)として脊椎外科を手掛けてきました。その医療を実践したのが『札幌スパインクリニック』であり、その積み重ねを土台につくりあげたのが今回の『札幌スパインジョイントホスピタル』です。クリニックから病院にしたからといって、これまでの『専門店』的な治療から整形外科全般を扱う『百貨店』的な医療を行なうわけではありません。この新病院では元々のスペシャリティを生かすための設備投資を積極的に行ないました」
今回の開業に当たっては、手術中に高精細な2Dレントゲンや3DのCT画像を撮影し、骨や神経、血管の位置をリアルタイムで確認できる「O‐arm(オーアーム)術中イメージングシステム」と、それらのデータを元に安全で確実な低侵襲手術をサポートする「脊椎ナビゲーションシステム」を導入。さらには道内では初となるガス放出リスクが極めて低い「ヘリウムフリーMRI」も導入した。
O‐armで得られたデータは、その場で脊椎ナビゲーションシステムに送信され、モニターに患部とインプラント(骨の固定器具)などを挿入する正しい方向や深さなどが示される。患者一人ひとりの骨の形に合わせて安全で正確な手術を行なうことができるので、挿入ミスなどの人的ミスを減らすことにつながる。
こうした医療機器は、脊椎が左右に曲がったりねじれを伴う「側弯症」や脊椎の一部が前方や後方にずれてしまう「すべり症」の治療に効果を発揮する。
「治療の中でも最も多いのが、腰椎すべり症の固定術です。変形を伴う疾患は変形そのものを矯正しないと治療ができないので、矯正時に『脊椎固定術』を行ないます。治療にはインプラントを用いますが、設置の際に使うのがナビゲーションシステムです。これまでの医師個人のテクニックへの依存を減らしクオリティを標準化することでヒューマンエラーを少なくすることができるようになりました」
加えて今回導入したO‐armでは低被曝モードを活用することができ、術中1回で高精細3D撮影が可能なため従来の連続的なX線透視に比べて患者や医療スタッフの被曝量を大幅に低減できるメリットがある。
「私の友人の中には術中のX線による被曝で皮膚がんになった医師もおり、放射線による白内障も増加しています。術中のX線透視を抑えることで医療従事者、患者さん双方に優しい治療を実現できました」
渡邊医師によると、道内の50床レベルの整形外科病院でO‐armを導入するのは珍しいという。
腰部脊柱管狭窄症で大きな成果
渡邊医師は旭川市出身。医師を目指して旭川東高校から札幌医科大学に進んだ。小学生の頃からバスケットボールに親しんでいたのでスポーツに関わる仕事をしたいと思っていた。体育の教員になりバスケの監督になることも考えたというが、最終的にはスポーツ整形医になろうと医学部を目指したと話す。
1996年に札幌医科大学を卒業。2002年に大学院修了後は医局関連の病院に整形外科医として赴任したが、多くの患者と接する中で分かったのは脊椎疾患で悩む患者が満足な治療を受けられずにいる現状だった。「そういう患者さんの力になりたい」と、以後は脊椎領域に特化した専門医としてキャリアを積んできた。
そうした渡邊医師が得意とするひとつは「腰部脊柱管狭窄症」の手術で、脊椎関係ではこの疾患の手術が一番多いという。腰部脊柱管狭窄症は背骨内部の神経や脊髄の通り道(脊柱管)が腰の部分で狭くなることで、間欠跛行や両方の下肢の痛み、しびれといったさまざまな症状が出てくる病気。症状が軽い時は投薬やブロック注射などの保存療法を行なうが、進行すると手術しかない。
変形を伴う場合は、神経の圧迫を取り除く「除圧術」を行なうが、側弯症を合併した場合は原因となっている椎体を固定する手術をする。この場合、通常は腰椎椎弓切除術を行なうことが多かったが、腰の筋肉を骨から剥がすため腰部の筋力が低下するというデメリットがあった。そうしたデメリットを回避するため、同院では慶応大学医学部の渡辺航太准教授が考案し、世界に広まった「腰椎棘突起縦割式椎弓切除術」を行なっている。この方法なら棘突起に付着する筋肉や靭帯をはがさずに縦割するため、筋肉の損傷を最低限に抑えることができるからだ。同准教授は同院もサポートしており、非常勤医師として月に1度のペースで訪れているという。
「昨日も執刀していただきましたが、通常では4~5時間かかる手術を1時間あまりで終える日本でもトップオブトップの専門家です。ご本人の優れた技術を現場に落とし込むことで、私たちもレベルアップできます」と渡邊医師は期待する。
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開院して約2カ月。開院後の手術件数はシルバーウィークがあった9月は約40症例だったが、10月は50症例以上を予定しているといい、今後については「スタートした病院の経営を安定させ、良質で安全な医療を継続して提供することで患者さんや社会の役に立ちたい」と話す。
そして中期的な目標には、病院の核となる専門医をはじめ優れた医療人材の確保と育成をあげる。
「札幌スパインジョイントホスピタルのシステムに人材というピースをはめ込み、彼らを育成して病院を充実させていきたい。私は経営者と医師という二足の草鞋を履いていますが、軸足はあくまで医師。マネジメントをしたくて理事長をやっているわけではなく、経営は自分が目指す医療を実現するための手段と捉えています」
病院名の「札幌スパインジョイントホスピタル」の「ジョイント」が意味する「関節」の治療についても今後は対応していく予定だ。
「以前の『スパインクリニック』のような名称では脊椎専門の印象が強いので、他の疾患で悩む患者さんが受診しにくいと考えました。今後は関節領域も充実させ、この分野の疾患についても対応していく考えです。そしてジョイントには『つなぐ』という意味もあります。患者さんたちを専門医療につなげる、地域の皆さんと私たちをつなげる、そして現在と未来をつないでいく──。そんな価値を持つ病院を新たにつくっていきたい」と、渡邊医師は力を込めた。
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