天井付近には黒カビが這うようにこびり付き異様な臭いが立ち込めていた(写真はリピア麻生の一室)
グループホーム事業を手掛ける札幌市内の会社が障害者を喰い物にしている疑惑が浮上した。疑いの目を向けられているのは、3年前に市の指定を受け福祉事業に参入したベンチャー企業、株式会社i&F(アイ・アンド・エフ)だ。同社が運営するグループホーム「リピア」のカビだらけの部屋から寄せられたSOSをきっかけに、見えてきた不正の実態とは──。
(本誌編集長・工藤年泰)
札幌市北区にある4階建てアパートの一室。ドアを開けるとすぐに異様な臭いが鼻をついた。見ると部屋の天井の四方が黒カビでびっしり覆われている。押入れやシンクの棚の内部もカビだらけという有様だ──。
ここは前出のi&F(斎藤祐太社長)が運営する障害者グループホーム「リピア麻生」の一室である。
「入居者が酷い扱いを受けている」との話を受け、この部屋を訪れたのは今年4月上旬。かねてから部屋の住人に訪問診療を行なっている医師が見かねて本誌に連絡してきたことがきっかけだった。
部屋の入居者は知的障害を抱える50代の女性。以前もi&Fが運営する別のグループホームに住んでいたが、隣人との関係などで悩み、同社の紹介で昨年11月に越してきたのが「リピア麻生」だった。
最初は快適に思えた新しい住処だったが、暮らしはすぐに暗転した。季節は空気が乾燥しがちな冬。だが越してきた部屋は結露が異常に発生した。2月に入ると天井などに黒カビが目立ちはじめ、室内に立ち込めるカビ臭さで生活がままならないほどになった。先の訪問診療医にも頼りi&Fに窮状を訴えると「業者を呼ぶ」「すぐ改善する」という返事だったが、4月になっても事態が好転することはなかった。
「障害者グループホーム」(共同生活援助)とは、障害者総合支援法に規定された障害福祉サービスのひとつで、知的障害や精神障害などを抱える人が3、4人で生活や健康管理面でのサポートを受けながら共同生活を営む住宅を指す。マンションやアパートなどの住宅を利用して、自治体から「共同生活援助事業所」として指定を受けた社会福祉法人などが運営しているが、近年は民間企業の参入が増えている。札幌市の「障がい福祉課」によれば市内でこの事業を手がけている法人数は261、事業所は342にのぼるという。
障害者がこのサービスを受けるには、自治体の認定調査を受けて支援区分(障害の程度)を決める必要があり、区分に応じたサービスや支給量が決定される。簡単に言えば障害が重いほど施設側が代理受領する給付金の額が多くなる仕組みだ。
「グループホームでは、一番軽い区分でもひとり当たり月16万円程度を訓練等給付金として施設側が受け取れる。最も障害が重い区分では月34万円前後になるが、実際は軽度から中程度の人が多い」(関係者)
このような枠組みの中で札幌市は、2020年3月にi&Fを共同生活援助事業所として指定。現在同社では「リピア」の名称を冠して市内8カ所でグループホーム事業を展開し、35人程度の利用者を抱えていると言われている。
だがリピア麻生の取材以後、接触した元社員や関係者からもたらされたのは、指定事業者として同社の適格性を疑う数々の証言だった。