緊急寄稿【3】いま、ウイグルの声に耳を
虐げられる子どもと女性

2021年11月号

〝中国化教育〟を受けるウイグルの子どもたち(写真はいずれもトゥール・ムハメット氏提供)


IUD挿入の強制避妊で人口抑制

1994年に訪日し、現在人権活動家として中国共産党の犯罪を告発し続けている日本ウイグル連盟会長、トゥール・ムハメット氏の緊急寄稿、第3弾をお届けする。国際社会から非難を受けている新疆ウイグル自治区にけるジェノサイドとはどのようなものか。今回は、虐げられる子どもと女性がテーマだ。日本は、いつまでこの問題に及び腰を続けるのか──。
トゥール・ムハメット(日本ウイグル連盟会長)

(トゥール・ムハメット)1963年東トルキスタン(中国・新疆ウイグル自治区)ボルタラ市生まれ。北京農業大学(現在の中国農業大学)卒業後、85年から94年まで新疆農業大学で講師を務める。94年に訪日し九州大学に留学。留学中に中国で秘密扱いになっている天安門事件(89年)を知り、97年に新疆で起きた中国によるウイグル人弾圧事件を契機に人権活動家として歩み始める。2015年日本ウイグル連盟会長に就任。新疆にいる娘と連絡が取れない状態にある。農学博士。58歳
 

子どもたちが受ける仕打ち


 2009年以降、中国本土の10あまりの都市の中学校に、いわゆる“新疆クラス”が設けられ、ウイグル人の中学生に“中国化教育”が実施されるようになっています。これらの学校では、ウイグル人生徒に信仰を持つことを許さず、モスクに行くことも許さず、誰かが宗教的な話をしたり、密かにお祈りをしたことが判明したら学校から退学処分を受けると言われています。
 これら新疆クラスの生徒は、洗脳のために中国本土に連れて行かれた子どもたちです。科目の学習は重要ではなく、そこでは、中国に対する愛国心を育てることや中国共産党に対する盲信を植え付けることが最優先されています。
 彼らにはウイグル語の学習、イスラムへの信仰は許されません。学校は刑務所さながらで、ウイグル人の生徒たちは、あらゆる動きを厳しく管理され、同じ学校の中国人の生徒が楽しんでいる自由とは無縁です。
 学校における多くの差別的な措置の中で象徴的なのが、新疆クラスの生徒だけが指紋認証機で毎回身分をチェックされていることです。一定期間休学したい場合は、3人の教師のサインが必要で、指定された教師が休学中も学生を監視しています。彼らは両親から遠く離され、非常に孤独の中で学校生活を過ごします。これまで報告してきた通り、特に2016年以降、生徒の両親の多くは強制収容所に入れられ、過酷な状況に置かれています。
 東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)に暮らすウイグル人の子供達の運命も悲惨な状況にあります。300万から500万人ものウイグル人が強制収容所に入れられているので、多くの未成年者は当局によって専属の学校や保育園に入れられ、そこで完全に“中国化教育”を受けています。ウイグルの伝統や文化には全く接触できず、中国の古代文化の勉強を強制され、当局は、中国のアイデンティティを植え付けることに専念しています。
 

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奪い取られた子供を産む権利


 筆者は、現在オランダに亡命中のケルビヌル・スィディクさんにオンラインでインタビューし、中国政府がウイグル人女性に対して実施している避妊措置の状況を尋ねたことがあります。
 ケルビヌルさんによると、2017年にウイグルから脱出するまで、彼女はこの措置に従っていました。亡命時に50歳を過ぎていた彼女は元々政府の出産制限を遵守し、ひとりの子供しか出産しませんでした。それなのに、です。
「ウイグルでは、政府の要求に応じず抵抗し続けるなら警察当局が介入し、罰金刑や実刑を受けることになっています」(ケルビヌルさん)
 抵抗しようもなく彼女は公立病院に行き、そこで医師は金属製の鉗子を使って子宮内避妊器具(IUD)を挿入し、彼女が妊娠出来ないようにしてしまいした。彼女はその手術の最中、ずっと泣き続けていたといいます。
「私は、もはや普通の女性ではないように感じます。とても大切なものを突然泥棒に盗まれたような失望感です」と、彼女は電話口で涙を流しながら私に悔しい気持ちを伝えていました。
 中国本土では、当局は人口の少子高齢化によって引き起こされる社会問題による危機を回避しようとしているため、従来の「ひとりっ子政策」を転換し、現在は女性に多くの子供を産むことを奨励しています。
 しかし、東トルキスタンにおいては真逆です。そこでは、ウイグル人に対する支配強化と人口抑止が同時に進められています。この措置が。強制的に避妊を推し進めることにより数世代に影響を与え、ウイグル族の人口動態を変えようとする試みであることは容易に推測されるところです。
 このような政策=強制的な避妊措置の増加に伴い、ウイグル人の出生率は近年急激に低下しています。最近、ドイツ人研究者エイドリアン・ゼンツ博士がこの事実を公表し、世界に衝撃を与えているところです。
 中国当局は、政府による強制避妊を「ウイグル人の自発的行動」として世界に説明します。しかし、我々ウイグル人は、実際にそのような扱いを受けていることを身をもって国際社会に証言しています。実際のところ、ウイグルの女性達はIUDの使用を強制されています。そして、手術後に自宅で回復している時でさえ、中国当局は、彼女やその家族が政府に対し不満の兆候を持っているかどうかを観察するため共産党員や役人を派遣し、家族と一緒に暮らすようにしています。

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