コロナ禍で増える外食業界の物販事業を“丸ごとサポート”
売れる商品を顧客と二人三脚で開発
アイビックフーズラボのスタッフと牧野克彦社長(苗穂工場内)
Business Report
アイビック食品(札幌市)
ここ数年にわたり工場の新築や増築、惣菜会社の買収といった投資を積極的に行ない、中国にも拠点を開設するなど業容を拡大してきたアイビック食品(本社札幌・牧野克彦社長)。たれやだし、惣菜などを主に業務用に製造販売している同社もコロナ禍の影響を大きく受けたが、この危機をバネにした取り組みが注目を集めている。いち早く工場とオフィスに徹底した感染防止対策を取り入れたほか、自社の強みを生かして飲食店のテイクアウト、デリバリー事業を全面的に応援。売れる物販品の開発に活路を見出そうとする外食業界の〝縁の下の力持ち〟として存在感を高めている。突如襲った危機を乗り越えながら新たな成長を目指す同社の現在をレポートする。(7月27日取材)
1月からオフィスと工場に導入した万全のコロナ対策
8月からコルソ札幌に設置された外食応援コーナー
(まきの・かつひこ)1977年6月生まれ。札幌市出身。2000年日本体育大学卒業後、東芝エルイーマーケティング入社。08年アイビック食品に入社。10年取締役社長室兼営業部長。専務、副社長を経て20年6月代表取締役社長に就任。43歳
アイビック食品が顧客と共同開発した外食応援食品は多岐にわたる(写真は同社提供)
苗穂工場入口に設置されたサーモグラフィー付きの顔認証システム
アイビック食品が顧客と共同開発した外食応援食品は多岐にわたる(写真は同社提供)
苗穂工場入口に設置されたサーモグラフィー付きの顔認証システム
8月からコルソ札幌に設置された外食応援コーナー
(まきの・かつひこ)1977年6月生まれ。札幌市出身。2000年日本体育大学卒業後、東芝エルイーマーケティング入社。08年アイビック食品に入社。10年取締役社長室兼営業部長。専務、副社長を経て20年6月代表取締役社長に就任。43歳
痛手を受けた飲食店を販売と企画開発で支援
社内におけるコロナ禍への対応をいち早く構築した一方で、アイビック食品が現在強く打ち出しているのが、飲食店のテイクアウトや通販ビジネスへの支援だ。
周知のように新型コロナの感染拡大で2月以降、外食業界では来店客が激減。売り上げ減を補うため物販参入が相次いでいる。店に来ずらい客向けにテイクアウトやデリバリーなどを充実させる流れだ。だが、それぞれの飲食店が自分たちだけで味や保存の面で高品質な商品をつくるのは決して容易ではない。
同社の取り組みは、このような業者を「丸ごと支援」するもの。試作からサンプル提出までの開発費を完全無償でバックアップし、商品デザインやチラシ制作はもとより開発した新商品の売り場も提供する念の入りようだ。
「昨年に総菜開発の新工場が完成し、飲食店との取り引きが深まってきたところでのコロナ禍。最初は、お手伝いできることはないだろうかと、当社と取引のある飲食店のテイクアウト情報を冊子にして大量に配ったり、ネットで発信したりという取り組みが中心でした。
そんな中で『こんなものをつくれないか』という声や取引先以外からも『自分たちも物販品をつくりたい』という要望がどんどん寄せられるようになってきたんです。
皆さんが売れる物販品を必要とするようになった中で、これまで、たれやだしの製造で培った味の再現性や総菜開発の設備を活用すればご満足いただける商品が開発できると考えました。苗穂工場にあるアイビックフーズラボ(オープンキッチン)を商品開発拠点に、お客様たちと二人三脚で取り組みを進めているところです」
同社では東京にも苗穂工場と同じラボを新設する予定で、この春、手稲区にオープンした釣り具・アウトドアショップ、コルソ札幌を売り場としても活用する。
同社によれば、3月から5月にかけて100社前後がラボを見学に訪れたといい、特に政府の緊急事態宣言が解除された5月下旬以降は相談件数が急増している。先述した流れで顧客と共同で開発し、すでに発売されている新商品もあるという。
「当社はもともと小ロットに対応できる小回りの良さが信条で、きめ細かなオーダーに応えていくことが可能です。それに、今回の取り組みを通して大きな取引につながる動きも出てきました」
アイビック食品のホームページに設けられたバナー「うちで過ごそう」(6月26付更新)をクリックすると、同社とかかわりのある飲食店・企業が取り組んでいるテイクアウトやデリバリー、オンライン販売の情報がずらりと並んでいる。その数、36件。道内でよく知られた人気店も数多く含まれており、同社と外食業界のつながりの深さがうかがえる。
今の困難をプラスに転換し攻めの姿勢で拡大を目指す
6月1日付で副社長から代表取締役社長に就任し、アイビック食品を率いる立場になった克彦氏は大学卒業時に、グループ代表の利春氏から「お前はサラリーマンとして生きていけ」と突き放された経験がある。克彦氏はその声をバネに国内大手電機メーカーに就職。家電量販店を舞台に営業の腕を磨いてきた。
だが、先述したアイビック食品の法人立ち上げ以降、克彦氏は一兵卒として呼び戻され、やがて利春氏の片腕として手腕を発揮。同氏をサポートしながら同社をこれまで成長軌道に導いてきた。
現在、コロナ禍による外食業界のダメージが同社の売り上げに影を落としていることは間違いないが、克彦社長はさらなる成長に向けて野心を隠さない。
「何年か前には、売り上げを増やす、会社の規模を大きくすることに疑問を抱いたこともありました。そういう疑問を尊敬する先輩経営者に伝えたら、“そんなことは自分の会社をもっと大きくしてから言え。今の規模で君の会社は、どんな社会貢献ができているのか”と、一喝されました。この言葉を聞いて目が覚める思いでした。自分たちだけのために会社を大きくし、利益を上げるわけではない。顧客や地域に貢献していくためには、どうしても一定以上の規模が必要だということに気づかせてもらいました。
アイビック食品に入社後、父からは『経営者の使命は、自分の会社を潰すことなく、事業を続けていくことに尽きる』と言われ続けてきました。全くその通りだと思います。そして事業を続けていくためには、攻めの姿勢で臨まねばなりません。まずは北海道という地域で業界をリードする企業を目指していきます。
今回のコロナ禍という危機は、取引先との関係を深める絶好の機会にもなっています。皆さんと一緒に、このピンチをチャンスに変えていきたいですね」
困難に直面した際に、それをどのように乗り越え、プラスに変えていくか──。アイビック食品の一連の取り組みは、その大きなヒントになりそうだ。
目次へ
© 2018 Re Studio All rights reserved.