さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニックに「乳がん遺伝子検査」の重要性を訊く
抗がん剤の使用を回避できる オンコタイプDX が保険適用

2022年03月号

「遺伝子検査の保険適用は患者にとって大きな朗報」と亀田院長

(かめだ・ひろし)1980 年北海道大学医学部卒業。同大第一外科入局、小児外科・乳腺甲状腺外科の診療と研究に従事。2001年麻生乳腺甲状腺クリニック開院。17年6月に法人名・施設名を医療法人社団北つむぎ会 さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニックに改称。日本乳癌学会専門医、日本外科学会専門医、日本がん治療認定医療機関暫定教育医・認定医、アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)会員、医学博士

Medical Report

乳がんの手術後に再発を予防する抗がん剤治療を行なうかどうかについて、がん細胞の特性を解析する遺伝子検査(多遺伝子アッセイ)「オンコタイプDX」がこの春にも保険収載される見通しとなった。検査結果により副作用の強い抗がん剤治療を避けることができるメリットがあったが、自費診療のため高額なのがネックだった。医療法人社団北つむぎ会「さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック」の亀田博理事長・院長は「保険適用は患者にとって朗報。春以降、オンコタイプDXはスタンダードな検査方法になるだろう」と歓迎している。亀田院長に遺伝子検査の特性と可能性について訊いた。(1月14日取材)

マンモグラフィーによる診断画像。左側の白い部分が乳がん組織

遅れる移転計画
課題山積み北海道医療大の北広島移転

厚真の砂利採取場で起きた産廃不法投棄問題を追う

江差パワハラ死問題で交渉決裂
道「因果関係」否定貫く

つしま医療福祉グループ 「ノテ幸栄の里」が新築移転
地域包括ケアの拠点として在宅生活を支援

鍵を握る遺伝子検査


 乳がんは乳管の上皮細胞にできる「乳管がん」と、乳汁を分泌する腺房が集まった小葉にできる「小葉がん」があり患者の9割は「乳管がん」とされる。さらに血管やリンパ管に浸潤していない「非浸潤がん」、上皮から間質へ浸潤して血管やリンパ管から血液に集りリンパ節や骨、肺、脳などに転移する「浸潤がん」に分類される。
 臨床的には「がん細胞の増殖が活発かどうか」「ホルモン受容体」や「HER2(ハーツー)、が陰性か陽性か」などにより次のような5つのサブタイプに分類される。
①ホルモン療法が効き、がん細胞の増殖能力が低い「ルミナルAタイプ」
②ホルモン療法が効き、がん細胞の増殖能力が高い「ルミナルBタイプ」
③「ルミナルタイプとHER2陽性を併せ持ったタイプ」
④「HER2陽性」
⑤ホルモン受容体もHER2も陰性で悪性度の高い「トリプルネガティブタイプ」

 日本人の乳がんは女性ホルモンの増殖が深く関わるルミナルタイプが多いと言われるが、外科手術後に再発防止を図るために「ルミナルAタイプ」はホルモン療法単独、「ルミナルBタイプ」はホルモン療法と抗がん剤を使った化学療法を併用することが多い。
 さらに「HER2タイプ」にはハーセプチンなどの分子標的薬を用い、若年層に多く悪性度の高い「トリプルネガティブタイプ」については抗がん剤を用いる。
 ここで問題となるのが「ルミナルA」と「ルミナルB」の区別だ。この2つのタイプは腫瘍を顕微鏡で調べる免疫学的検査を代用マーカーとして決定していたが、どの治療法を選択すべきかの判断が難しい悩みがあった。実際に、術後に抗がん剤を投与されていた患者の中には、ホルモン療法だけでよかったケースも一定程度含まれると言われている。
 比較的副作用の少ないホルモン療法と比べ、抗がん剤を使った化学療法は脱毛や吐き気などの副作用が強く現れるので、なるべくなら使用は避けたい。
 そこで、近年注目されているのが初発の乳がん患者のがん細胞を遺伝子レベルで解析し、再発の可能性を予測する多遺伝子アッセイだ。これにより手術後に最適の治療を受けることが可能となり、日本では「オンコタイプDX」「マンマプリント」などが行なわれてきた。
「オンコタイプDX」は米国のジェノミックヘルス社(現在はエグザクトサイエンス社)が開発した遺伝子検査で、腫瘍組織から再発に関係するER(エストロゲン受容体)など21の遺伝子を抽出し、10年後に再発するかどうかを予測するもの。解析結果は「再発スコア」(RS)として0~100まで数値化され、18未満を「低リスク」、18以上31未満を「中間リスク」、31以上を「高リスク」と分類した。
 スコアが低いと再発率が低いと見なされ、治療はホルモン療法単独で行なう。スコアが高い高リスクについては抗がん剤を使用するなど治療の指針を立てることができる。検査は「ルミナルタイプ」で「リンパ節転移がないか、1~3個陽性の浸潤性乳がん」が対象となる。
 亀田院長は「オンコタイプDXは18年前にアメリカで開発され、日本では15年ほど前から自費診療扱いで行なわれています。再発スコアから今後の治療方針の目安を立てることができるため、患者一人ひとりに最適な治療法を提供できるメリットがあります。ただ、自費診療であるため約45万円という高額な費用がかかるのがネックでした。この中で昨年12月に厚労省は保険適用を認可しましたが、実は米国の開発会社からの申請で今年の春ごろに延期された経緯があります。それでも保険収載は患者にとって朗報です。この春以降、オンコタイプDXはポピュラーな検査方法になると思います」と見通しを話す。
 保険収載により患者が負担する金額は3割になる。ただ手術の際に摘出した腫瘍を「オンコタイプDX」の検査に出せば、検査代金と手術費用の合算が高額医療制度の対象となるので自己負担はさらに軽減されることになる。
 乳がんは日本女性の9人に1人が発症するとされ、女性がかかるがんの中でも罹患率はトップを占める。国立がん研究センターのまとめによると、2018年に乳がんと診断されたのは9万4519例(女性9万3858例、男性661例)。19年の死亡者数は1万4935人(女性1万4839人、男性9・6人)となっている。
 また2008年に乳がんと診断された患者の5年後の生存率は、ステージ1で100%、10年後で99%だった。しかしステージ3になると、5年後生存率は80・6%、10年後には68・3%に。ステージ4の場合は5年後の34・3%から10年後になると16・0%まで低下していることが分かった。こうしたことからも、「オンコタイプDX」で初発乳がんの術後に最適の治療を受ける選択肢が広がったのは、まさしくトピックスといえる。

乳がん手術中の亀田院長(中央)。術後の再発防止が大きなテーマ
(写真は同クリニック提供)

マンモグラフィーによる診断画像。左側の白い部分が乳がん組織

乳がん手術中の亀田院長(中央)。術後の再発防止が大きなテーマ
(写真は同クリニック提供)

リスクを避ける有力手段に


 ところで、保険収載が昨年の12月から今年の春に延期されたのはなぜなのだろうか。
 この点について亀田院長は「米国のエグザクトサイエンス社では、リンパ節転移陽性を含めた日本でのプログラム作成が間に合わなかったからではないか」と推測する。
 先述の通り「オンコタイプDX」では、再発スコア18未満を「低リスク」、18~31未満を「中間リスク」、31以上を「高リスク」としている。
 検査の有用性については、過去の治療結果の分かっている乳がん組織を用いた大規模臨床試験で検証されている。それによると10年後の再発率は「低リスク」で6・8%、「中間リスク」で14・3%、「高リスク」で30・5%だった。
 一方、抗がん剤の有効性については、高リスクの患者については再発を予防する効果があるが、中間や低リスクの患者については効果がないとした。亀田院長によると、抗がん剤の「中間リスク」患者への有用性については長い間不明の点も多かったという。
 この問題を明らかにするため、2018年には「中間リスク」の患者のうち、「11~25」を「再発中間リスク」と規定した臨床試験を実施。その結果から2群の間に差はなくRS25までの「中間リスク」については、原則として抗がん剤を使用しないと結論づけた。
「ただ、再発スコアが16~25の50歳以下の女性では化学療法に多少の利益が認められており、50歳以下で閉経前の女性は抗がん剤を使用したほうがいい場合もあるとコメントが付いています」(亀田院長)
 さらに、昨年12月には再発スコアが25以下でリンパ節転移が1~3個の中間リスクの患者の5年生存率についての臨床試験結果も発表されている。それによると、閉経後の女性は化学療法を避けることができるが、閉経前については化学療法を併用したほうが30~40%生存率が高いことが分かった。
 こうした結果から、閉経前の女性は「再発スコアが25以下でもリンパ節転移が1~3個」なら化学療法が勧められる
「化学療法を行なっても再発率は2%ほどあるとされています。日本での治験が進めば、どこできりを付けるかなど細かいことが話題になると思います」(同)
 現在「オンコタイプDX」の解析はアメリカの会社が行なっている。乳がん手術で切除したがん組織の一部をアメリカに送り、結果が出てくるまでに2週間ほどかかる。その結果を患者に伝えた上で、ホルモン療法だけでよいか化学療法を併用するかを決める。
「保険収載されたら国内でも検査できる流れになると思います。遺伝子検査の結果によっては抗がん剤が必要ない根拠もはっきりするので、高額な化学療法を回避できる経済面でのメリットもあります」(同)
 ※
 さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニックは2001年10月に開院。乳がん、甲状腺疾患の専門治療機関として最前線の治療に当たっている。
 同クリニックの乳がん検査は、乳房を多方面から撮影し立体的に再構成する3Dマンモグラフィーによる断層撮影とエラストグラフィ(超音波組織弾性撮影法)を搭載した精度の高いエコーを導入。エラストグラフィは超音波で腫瘍のしこりの硬さ検出し画像化することを可能としており、より正確な診断で病変や転移を発見できるようになった。
 検査部門には資格のある女性職員を配置するなど患者の気持ちに配慮した対応をしている。
 乳がんの増加をめぐっては、初潮年齢の早期化や出産歴がないなど女性のライフスタイルの変化が背景にある。また、家族の中に乳がん患者がいると若い年齢で発症する遺伝子乳がんのリスクが高まることも知られている。
 特に最近は女性ホルモンの影響を受けて増殖するホルモン感受性乳がんが増加傾向にある。はっきりした因果関係は分からないが、体内から出る女性ホルモンに加え、牛乳などに含まれる女性ホルモンや環境ホルモンなど外部から取り込む影響もあるようだ。
 2020年から翌年にかけて、新型コロナの感染拡大の影響で医療機関は大きな打撃を受けた。同クリニックも20年は、手術数とがん検診はともに15%ほど減ったが、21年は元のペースに戻ったという。
「当院では、感染対策をしっかり行なっています。コロナ禍ですが、自分の命を守るためにも、がん検診は躊躇せずに受けてください」と亀田院長は呼びかける。
 乳腺と甲状腺の専門医である亀田院長は、アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)にも所属する国際派。グローバルな視座をベースに最先端の検査と治療を提供するのがモットーだ。
 そんなさっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニックは、地域に寄り添いながら、質の高いきめこまやかな医療を提供している。




医療法人社団北つむぎ会
さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック
札幌市北区北38条西8丁目2-3
TEL:011-709-3700
HP:https://www.asabu.com

遅れる移転計画
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